第50話「ラゴークの双翼」-Chap.12
1.
海条王牙が失踪してから7日目。バディアは彼の気配を察知し、ブレイン、黄門銑次郎とともに学校へと急いだ。
海条は校舎と校門の間のグラウンドに倒れいていた。全身に無数の傷跡があったが、いずれも癒えていた。平日のため学生はみな学校に来ていたが、ちょうど授業中だったため外には誰もいなかった。三人は誰にも気づかれぬ間に、彼の体を担いで学校を去った。
バディアの隠れ家に戻ると、海条を木製の簡素なベッドの上に寝かせた。
ブレインは眠った海条にしがみついて顔をうずめた。
「生きてる・・・よかった・・・本当によかった・・・」ブレインは心の底から安堵した。そして、うずめた顔で海条の体内にあるオーシャンストーンを感じ取った。
(オーシャンストーンが・・・かなりすり減ってしまっている)
「にしてもコイツ、一体どこで何をしてたんだろうな?」黄門は海条の顔をのぞきこみながら言った。
「突然消え、突然現れた・・・。これは、この時空間を超越していた、としか思えないな」バディアが腕を組んでいった。
「時空間を超えた・・・?海条が?」黄門はにわかに信じられなかった。
しばらくして、海条は目を覚ました。
「王牙っ!」ブレインは目を潤ませて彼を見た。
「よう。何があったか知らねえが、エライ災難だったようだな」黄門も続いて声を掛けた。
バディアは依然として腕を組んで黙っていた。
「おまえら・・・」安堵した二人の顔を見て、海条はつぶやいた。「ずいぶん・・・心配かけたようだな」
それから、まずブレインと黄門が、海条が失踪してから今までの出来事を説明した。
「そうか・・・俺、7日間もいなくなっていたのか・・・。向こうにいた時間はそれよりずっと短く感じたけど」
そして今度は、海条が自分がどこで何をしていたのかを説明した。暗黒世界のこと。人間に憑依した王と戦ったこと。
「そういうことだったか・・・。てっきり、王はこの世界のどこかにいるとばかり思っていた」話を聞いたバディアが納得したように言った。
「王族の連中はこの世界のあちこちに急造の量産メンバーを送り込んでいた。それらは可能な限り俺とバディアで倒したが、きっとヤツらもこの時空を超えた場所に王がいたとは分からなかったんだろう」黄門が考察した。
「すると、おそらくまた手先をどこかに送り込んでくるわね」ブレインが予想した。
「いや・・・どうだろう。王が消されたことをヤツらが気づかないことはないはずだ。したらば、もうこれ以上手先を送り込んでも意味がない。・・・とすれば、再び我々を消し、ブレインを捕えに動き出すだろう」バディアが否定し、予想した。
「そう来るだろうな。だけど、今や王族もメンバーの数がだいぶ少なくなったはずだ。すると、ヤツらがどう動くかは全く予想つかないな。どれほど力を持った敵が控えているかも見当つかねえし」海条もベッドの中から意見を述べた。
「・・・ねえ、王牙、よく聞いて。あなたのオーシャンストーン、今回の王との戦いで随分力をすり減ってしまったわ。・・・残った力は、せいぜいあと一回変身できる程度。それも、フルパワーでは戦えないと思う」
「・・・そうか。あと一回か」
「これだけは言わなきゃいけないと思って」
その時、バディアが何かを察知した。
「メンバーの気配だ!街を襲っているぞ!」
「どこだ!?」
「ここより南西に50キロの街中だ!」
四人は隠れ家を出ると、その場所に急いだ。
2.
そこはメンバーが初めて出現した町だった。バディアら四人とも初めて足を踏み入れる場所だった。地方都市と呼ぶべき栄えた町で、デパートやショッピング街が軒を連ねた場所だ。日の暮れかかる今、そこには多くの人が行きかっていた。
空族の長リアノスは、ある企みを持って、わざとこの人の多い街中を襲いだしたのだった。広場に降り立つと、人間体のままで、大風を起こして辺り一面を吹き飛ばした。人も、看板も、街路樹もみな飛ばされ、それらが建物や電柱などにぶつかって、広場は一気に混沌の状態となった。大風の害を間近で見ていた人々が騒ぎ始めた。
それからまもなく、バディアのテレポーテーションを使った四人が駆けつけてきた。あたり一面がすっからかんとなり、その外周部分が台風の後のようになった広場の中心に、リアノスがいた。
リアノスはバディアらにゆっくりと近づいた。
「こうして騒ぎを起こせば、お前たちが来るだろうと思ったんだよ。そしてその通りに来た。しかも、かつてのお尋ね者が三人もそろっているじゃないか!そして、ノマズ・アクティス、お前もいるとはな。・・・私にとってこれほど好都合なことはない!」
「好都合だと?まとめて我々を消そうとでもいうのか?」バディアが尋ねた。
「ちがう。お前たちと戦う気はない。・・・一つ交渉を持ちかけようと思うのだ。単刀直入に言えば、お前たちと俺が手を組んで王族を滅亡させるのはどうだろう、という提案だ。どうかね?」リアノスは敵対心を感じさせない微笑を浮かべた。
「手を組んで王族を倒すだと?・・・クククッ。可能か不可能かはさておき、キサマの態度が気に入らないな。これだけ多くの人に危害を与えておいて、まるで悪を討伐しようなんてこと言いやがる。どっちが悪であるかをよく考えることだな!」黄門が言った。
「交渉なんて、最初から白紙よ!」ブレインが声を張り上げた。
海条が進み出て、三人の前に立った。
「俺たちは人間の代表であり、人間の味方だ!俺たちの平和を脅かすヤツは、王族の連中に限らずぶっ潰す!!!」
海条は変身しようとした。しかし、先ほどのブレインの言葉を思い出してハッと立ち止まった。自分はあと一回しか変身できない。その一回が果たして今でいいのか?まだ、戦うべき王族のメンバーが残っているというのに。
その時、パトカーが数台広場に入ってきた。中から警官が出てきて、リアノス、そしてバディアら四人を取り囲んで拳銃を向けた。
リアノスは警官の一人をヒョイと引っ張ってきて、自分の腕の中で動けなくした。持っていった拳銃を取り上げて、銃口を警官の頭に向けた。
「お前ら、俺と手を組め。言う通りにしなければ、コイツを殺す」
リアノスはついに強硬的な交渉に出た。人間を人質に取られることは、バディアらにとって大きな痛手だった。
「きたねえぞ、テメェ・・・!」海条は拳をギリリと握りしめた。
「さあどうする?早く決断したまえ。モタモタしていると、コイツの命はないぞ」
四人は窮地に追いやられた。
「あと1分以内に、答えを出してもらおう。答えが出なければ、人質は死ぬ。ノーと返事しても死ぬ。お前らに選択肢は一つしかあるまい」リアノスはニヤリと笑った。四人の焦りを見て楽しんでいるようだった。
よって、前にばかり気を取られたリアノスは背中が隙だらけだった。その背後を狙ったのは、バディアだった。バディアの分身体は、背後からリアノスの後頭部を殴りつけた。
「!!?」リアノスは警官を放して、後ろを向いた。
人質が解放されたその隙に、バディアの分身体がリアノスを連れてテレポーテーションを使った。二体はフッと消えた。
続いて、オリジナルのバディアとともに海条らも消えた。
人気のない荒野。
そこに飛ばされたリアノスの後を追って、バディアらも現れた。
「ぐ・・・。小癪なマネをしやがって!!タダじゃ済まさんぞ!!」リアノスが激高した。
「ここならば犠牲を気にせずに戦える。すぐに消してやるぞ、リアノス!!」バディアが声高らかに言った。
海条は依然として迷っている。今戦うべきか、否か。
その時、黄門が海条の肩を叩いた。
「無理するな、海条。ここは俺に任せろ。お前の力は最後までとっておけ」
「お前・・・」海条は黄門を見た。
「さらなる強敵が残っていやがるんだ。王をも倒したお前の底知れぬ力を、そいつらにぶつけてやれよ!」
海条はうなずいた。
「バディア!ここは戦場になる。ブレインを避難させるんだ。海条、お前も行け」
ブレインと海条はバディアに触れた。最後に海条が振り返った。
「生きて戻って来いよ」
「ああ、もちろん」
三人はテレポーテーションで消えた。
荒野の真ん中で、リアノスと黄門がにらみあう。
「貴様らに俺の要求を呑む気がないことはよく分かった。ならば、消すのみだ。厄介な敵は少ない方がいいからな」
「なぜあいつらを逃がしたんだ?攻撃することも出来たろう?・・・それは、さすがのお前でも三人相手では手こずると判断したからだ。しかもその中にはバディアもいた。・・・俺たち相手に戦う度胸もないお前に、王族が倒せると思うか?無理だな」
「キッサァマァアアア!!!」リアノスは怪人体に変化した。
「はあああああ!!」黄門もラゴークに変身した。
リアノスはドラゴンの力を宿したメンバーである。屈強な肉体は石のように硬い鎧をまとい、重厚そうな体からは信じられないほどのスピードで動く。そして背中には一対の翼を持つ。そのスピード、身軽さは、空族随一を誇る。
「すらあああっ!」
リアノスの動きは目にもとまらぬほどだった。同じ属性であるラゴークですらも、その動きは追いきれなかった。ハッと気づいたときには、ラゴークの鼻先で拳を振り上げていた。そして一突き。空族とは思えないほどのパワーだった。
「うおおおっ!」ラゴークは10メートルほども飛ばされた。
ラゴークは立ち上がった。すでに攻撃を受けた胸部が軋むように痛んだ。
(こりゃあ、最初からハンパなスピードで挑んではいかんな)
今度は先にラゴークが動いた。9割程度のスピードを出した。左右に大きく揺れるように移動した。相手を錯乱させて攻撃する作戦だ。
「見える!見えてるぞおおお!!」
リアノスは突いた。それはラゴークに的中した。相手の動きをしっかりと掴んでいたのだ。
高速で動いたために、まるで何もなかったような場所からラゴークが現れた。攻撃を受けて倒れた。
(ウソだろ!?全力スレスレのスピードだったのに・・・)
「まさか、今のが本気のスピードだったとは言わんだろうな?だとしたらかなりガッカリだ」
「るせえよ!!!」
ラゴークは再び動いた。本気のスピードを出した。今度こそ相手に追いつかれないことを賭けた。
(背後だ!)背後から攻撃する作戦に出た。相手に気づかれずに背後に回った。
(今度はいけるぞ!)そのままスピードを緩めずに双剣を手にした。長剣を振り上げた。
「ここか?」リアノスは片腕を頭の後ろに構えた。そしてラゴークの長剣を受け止めたのだった。
「なっ!!?」
「やはりな!」リアノスはくるりと体を後ろに向けて、さらに一突き。
ラゴークはまたも飛ばされた。
この瞬間、ラゴークはかなり絶望的な事態になった。相手が同じ属性とはいえ、自身の唯一無二の武器であるスピードが全く効かないのだ。ラゴークはかつてない窮地に立たされた。
(な・・・どうすれば・・・?)
「クククッ。所詮貴様は無力な人間がお遊び程度に武装した偽物に過ぎん!そんな偽物が本物たるこの私に敵うと思うか!?片腹痛いわ!」
ザッ、ザッとリアノスがラゴークに近づく。ラゴークは重傷を負ってではなく、次にどう出ても相手に圧倒されるという恐怖心から、その場を動けずにいる。
リアノスは翼を羽ばたかせて、空高く飛び上がった。
「貴様には早めにくたばってもらおう!私はこれから、お前と同じ戦士の小僧とバディアを殺しにいかねばならないのでね。」
リアノスは空中にとどまり、翼を大きく広げた。そして翼を力強く一振りすると、巨大な竜巻が発生した。それはドリルのように高速でとぐろを巻き、針のようにとがっている。
「食らえ!!!」
竜巻はラゴークに向かって一直線に飛んでいき、直撃した。鎧のあちこちが吹き飛ばされ、肉体があらわになった。さらに肉体の至る所に深い傷を負った。致命傷はないものの、腕や脚を満足に動かせなくなった。立とうとしても、脚の傷がズキリと痛み力が入らない。足が使えないのなら腕で支えようとしたら、すぐに崩れ落ちてしまう。
星の瞬く上空から、リアノスは嗤った。
「クハハハハハ!!もう戦うことはおろか、歩くことも出来まい。貴様の死は近いぞ。残されたわずかな生を存分に味わうがいい!」
リアノスは片腕を天に挙げた。とどめの一撃を繰り出すつもりだ。手のひらにエネルギーの渦がはっきりと見て取れる。
ラゴークの体はまったく動かないのに、思考がとめどなく巡り巡った。
(俺がヤツを挑発したのは、決してはったりをかましたわけじゃない。本当に勝てると思ったんだ。今となっては、情けねーけど。・・・でもみろよ、コテンパンにのされてんじゃねーか。ハハ。まただよ、また俺は自分の実力を過信し、相手の実力を見誤った。あの時もそうだった。あの王族の幻術使いにもそれでやられかけたんじゃんよ。・・・つまり、俺はまったく進歩してねーってこった。はは。こんなヤツが・・・こんなヤツが戦士やる資格なんてねーよな。こうなるるのは当然の結末だろう。俺は、自分のミスで死ぬんだ。こうなる運命・・・か・・・)
でも・・・。
「そんなの悔し過ぎんだろ!!!」
黄門の意志がエアストーンに強く働きかけた。石は燃えた。ラゴークの背中にエメラルドグリーンのオーラが現れた。それは実体化しない翼だった。リボンのようなオーラが幾重にも絡まり合い、幻想的な双翼を形成したのだった。
ラゴークの体は空に浮かび上がった。
「き、貴様っ!!」リアノスは驚愕した。「どこにそんな力が・・・!?」
「さぁな。テメェが偽物呼ばわりした戦士はな、己の意思次第で計り知れない力を引き出せるんだ」
ラゴークの体中の傷も癒え、鎧も元に戻っていた。リアノスに向かって一直線に飛んだ。恐るべきスピードだった。
(コ、コイツ!なんて速さだ。空中でのスピードは・・・俺以上か!?)
うろたえるリアノスを、ラゴークは長剣で斬撃した。それはまるで閃光のようだった。一発、二発、三発・・・。間髪入れずに切り続け、それは回を重ねるごとに速さを増していった。
「ぐおおおあああ!!」いつのまにか、リアノスは体中に深い切り傷を負っていた。切り傷からは火花が散っていた。ラゴークの刃に込められたエネルギーが体を破壊しているのだった。
「終わりだあああああ!!!」最後の一撃は、横薙ぎに一閃。リアノスの胴体を真っ二つに切り裂いた。
二つに分裂したリアノスがバラバラと落ちていった。
「こ、これで終わると思うな!!し、死んでも呪い続けてやるぞぉおおお!!!」
リアノスは爆散した。
「終わった・・・」
ラゴークはフッと力が抜け、翼も消えて地面に落ちていった。変身も解けた。
「帰ろう」
黄門が歩き出した、その時だった。
背後からパチ、パチと手を叩く音が聞こえた。
振り向くと、そこにいたのは銀色の髪に白いマントを着た男。
ハーデ・ビショットだった。
「見事な戦いぶりだった。君が反逆者でなければ、我が王族に向かい入れたいぐらいなのだが」拍手をしながら近づいてきた。
「お、お前は・・・!?」
「ハーデ・ビショット。君を消しに来たのだよ」
「ハーデ・・・」初めて見る王族の幹部に、黄門は足をからめとられたような気がした。
残酷にも、戦いはまだ終わらなかった。
第51話につづく
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