第37話「矢倉の決意」-Chap.10
1.
荒野に、脚をふらつかせながら歩く二体の怪人があった。
彼らは、各々集団を持ち、それを束ねていた。
ところがある日、彼らは、彼らの上部組織の圧力により、自身の郷を離れざるを得なくなった。
逃げ続けて、どれくらいたっただろう?
時間を忘れるほど一心不乱に歩き続けた彼らは、枯れた大木の陰に身を隠すようにして休んだ。
「追っ手は来ているか?」
「いや、来ていないようだ」
「そうか・・・しばらく休もう」
彼らは一息ついた。
「しかし、なぜこんなことに・・・」
「まったくだ。ヤツら、ここまで我々を下に見ていたとは・・・」
「あまりにも突然だ!我らが部族を皆殺しにするって!」
「ああ・・・ヤツら、俺たちが事情を知って反発するのを怖れているのかもしれない」
「これからどうする?」
「・・・ヤツら、きっともうメンバーたちを抹殺してしまっている。今、郷にもどったところで、どこもかしこももぬけの殻だろう。それではしょうがない。・・・いっそ、俺らだけでも」
「何だ?」
「俺らだけでも、王族に入れてもらう方法を探すしかない!」
「きっ、貴様!それは、自分の部族を、空族を見捨てる行為に等しいぞ!」
「仕方がないだろう!忘れたのか?テラレオが、あのテラレオがあの恐ろしい王族のメンバーに殺されたんだぞ!いずれヤツは俺らのもとにもやってくる!そうしてら俺らだって・・・。だったら、ヤツらの配下に入るしか方法はない!」
「貴様、それでも誇り高き一族の長か!?小物になりおって!」
熱い口論に、二体はハァ、ハァと息を切らせた。
「ずっと・・・同じ長同士として情熱を分かち合ってきたが・・・ついに決裂の時がやってきたか、リアノス」
「どうやらそのようだ、タクア」
「戦うか?」
「いや、それはお断りだ。まだやらなければならないことがある。こんなところで無駄な体力を削ってはいられない」
「なるほどな。それはお互い同じことだ」
「これから俺らはそれぞれ違う道をゆく。そしてじきに、どちらの道が正しかったかが証明されるだろう」
冬の冷たい風が、まるで二体を引き裂くように吹き抜けた。
それから間もなく、二体はそれぞれ別々の方向へと歩き始めた。
2.
サヤナの意識が戻った後、矢倉蹴人はブレインからトライブに関するすべての説明を受けた。どのような経緯で、トライブと戦っているのか。やつらは何者なのか。そして、王族のこと。
説明を聞き終えた矢倉は突拍子もないことを言い出した。
「ようするに、その王族ってヤツらがトライブの親玉なんだろ?だったら、そいつらをぶっ潰す!カンタンな話じゃねえか」
ブレインは全く予想だにしなかった彼の発言に、一瞬言葉を失った。
「なんですって!?」
「だから、王族をぶっ潰すっつてんだ。さっきの敵、陸族やら・・・あと、海族と空族だっけか?そいつらばっかしチマチマ倒したって、バックに黒幕が控えてるんじゃらちが明かねえ。だったら、直接潰しに行く」
「ハッキリいって、今のあなたの実力じゃとてもヤツに敵わないわ。王族のメンバーは、三族のそれらとはケタ違いなのよ!自ら挑みに行くだけ無謀よ!今は、冷静に敵の出方を見るのよ!」
そう説得されて、その場は大人しく言うことをきいた。いや、きくふりをしたというのが正しいかもしれない。
なぜなら、それからおよそ1か月後、矢倉はある大きな決断を下すからである。
単身、王族に乗り込む決心だった。
年が明けて、1月の中頃。冬本番の時期である。
あれからの王族の動きはというと、パ=ナトム、ワイヤ=ドリュークの敗北以後、どういうわけか脱走者狩り、アクティス奪還に関する動きはなかった。
矢倉は、わずか1カ月前に戦士として目覚めたばかりであり、実践もいまだわずか1回経験したのみだった。
そんな矢倉が、この1カ月間考えに考えた末、ある決心をした。
(ブレインとバディアには秘密で、俺一人で王族に乗り込む!)
壮大な決断だった。王族のメンバーと戦ったことのない矢倉だからこそできる決断でもあった。
理由はただひとつである。1カ月前、数少ない自分の理解者、サヤナが陸族のメンバーによって重傷を負わされた。この悲劇について、まず責めるべきは守れたはずのサヤナを守れなかった自分だった。そして次に責めるべきはむろん、トライブである。矢倉の決心は、いわば復讐だった。
決断してすぐに出発の準備に取り掛かった。
まずは、長らく顔を合せなかった母親に手紙を書くことだった。手紙の内容とは、以下のとおりである。
「母さん。突然だけど、旅に出ることにした。長い旅になると思う。いつ帰るかは分からない。ところで、今まで家に帰らなかったり、口きかなかったりして悪かった。心配かけたな。だからといって、帰るわけじゃないんだ。マジごめん。一人で寂しいだろうけど、どうか元気でいてください。いつか絶対帰るから。何をするかは言えないけど、やらなきゃいけないことがあるんだ。それじゃ」
ところで、矢倉の親は母親のみである。父親は、彼が幼いころに離婚して出て行った。それからは、女手一つで矢倉を育ててきた。
(直接このことを話したら、止められるかもしれないからな。それに・・・何だか照れるし)
書いた手紙を家のポストに入れた。
次に、サヤナに別れを言いに行った。
退院してから1カ月たった今も定期的に通院し、学校にも通い始めたが家では安静にしていた。
矢倉は彼女の自宅を訪ねた。部屋に入ると、彼女は読書をしていた。
サヤナは、矢倉の恋人には似つかわしくなく、まじめで相手思いな性格である。
「あっ、シュウ!どしたの?」サヤナは本から顔を上げた。
「うん・・・ちょっとな」矢倉の表情には迷いがある。
「何?いきなり何かいいたげだけど」
「実はな、ちょっと旅に出ることにした」
「旅?こんな時期に?旅行?」
「いや、旅行じゃない。旅だ。ちょっと・・・遠くの学校のヤツらと決闘することになってな」
むろん、嘘である。
「あんた、相変わらずそればっかりね。どれくらいかかるの?」
「分からん」
サヤナはあきれ顔である。
「ふぅ・・・ねぇ、シュウ。学校はどうするの?というか、最近ちゃんと行ってるの?」
「学校なんかよりも・・・重要なことなんだ」矢倉は思わず本音を漏らした。
「ケンカが?冗談じゃないよ、あんたいい加減にしないと卒業できないよ!?」サヤナは語気を強めた。
「サヤナ!俺はこれをしなくちゃ気が済まないんだ!お前を・・・お前を傷つけたヤツらへの仕返しなんだ!」彼女の肩を掴んで激高した。
サヤナは、打って変わってぽかんとした顔で矢倉を見る。
「メチャクチャなこと言ってるかもしれないけど、分かってほしい」
すると、サヤナの表情はたちまちゆるんだ。
「へーんなの。ふふふ。ほんとに何のことだかさっぱりだけど、シュウの強い熱が伝わってきた。何だか、私にシュウを止める筋合いはない、とすら思えてきたわ」
彼女は柔らかく微笑みつつ、続けた。
「やんちゃしてこそのシュウ、なのかなやっぱり。もう私は何も言わない。行ってきなよ!」
矢倉は安心すると同時に、名残惜しそうに笑った。
「ありがとう」
「約束して!絶対元気で戻ってきてね!」
「ああ!」力強く答えた。
準備は整った。矢倉はいよいよ出発した。
もちろん、ブレインとバディアには内緒で。
ある寒い朝、矢倉は自分のふるさとを後にした。
(待ってろ、クズ野郎ども。俺が一人残らず消してやる!!!)
第38話につづく
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