第34話「傀儡師メンバー」-Chap.9

1.


 敵の数はおよそ30。

 ザギは目の前の黒い集団と対峙している。それらはみな、一人の男が操る傀儡である。

 傀儡の群れよりはるか後方で涼しげな顔をしている一人の男。

「さっきの手合わせでは、オマエの真の実力を見れなかったかもしれない。でも、こいつら相手なら本気、だしてくれるかもね」

 男の目が青く光る。同時に、30体の傀儡が一斉に襲い掛かってきた。

 ザギはまだ人間体のままだった。こちらもまだ、様子見のためだ。

「ガ・・・ギギギ・・・ガガガ!!」

 傀儡の声は、まさに人形の喉から発せられた音のようだ。

 傀儡たちは武器を一切持っていない。もっぱら突きや蹴りが主要な攻撃だ。

「シッ!シッ!シッ!シッ!」

 ザギも素手で相手を殴り、蹴り倒していく。

(一体一体の力自体は大したことはないな。だが・・・)

 さすがに数が厄介だった。

 目の前の敵を倒したと思ったら、すぐ背後から次の敵が攻撃を仕掛けてくる。前後だけでなく、横からも敵が襲ってくる。一体ずつ倒す方法ではキリがなかった。

「しゃらくせぇ!!」

 ザギの右手に大剣が出現した。刃には鏃の返しのような、無数の棘がある。

 その大剣でもって、周囲に群がる敵を一振りでなぎ倒した。

 30体あった敵は、わずか4、5回の斬撃で全滅した。

 その光景に、男は目を丸くした。

「へぇ。すごいよ。こりゃ想像以上かもしれん、な」

 男がさっ、と片手を前にかざすと、倒れた傀儡たちがみな一斉に爆散した。

「!!・・・ふん。いくら操り人形とはいえ、扱いがアッサリしすぎるんじゃないか?」

「まだたーくさんストックがあるからね。使えなくなったらすぐ捨てるのさ」

(まだあるだと?一体どれだけ・・・)

「つーわけで、第二ラウンドいきますか!」

 男の目が光り、手をかざした。

 魔法陣の中から出てきたのは、先ほどと同じ傀儡。

 その数、100体。

「!!おいおい、さっきの倍以上はあるな」

「あんた、まだ本気出していないみないだからねー」

「俺の実力を測ろうとは、いい根性してるなァ・・・」

 ザギは再び大剣を構えた。

「ふざけやがって!!!」

 高速で飛び出すと、傀儡の群れに突っ込んでいった。

「つまりキサマが俺より上だと言うのかァ!!?」

 あっという間に、10体、20体となぎ倒していく。

「上等だァァァァ!!!!」

 しかし敵はまだ50体以上は残っている。

 傀儡たちはまとまった動きを取り始めた。

 ザギが剣で攻撃できるのは、自分の周囲にいる敵のみである。それより外側にいる敵たちが一斉に空中に飛び上がった。

「何!?」

 敵が空中から雨のように降り注ぎ、四方八方からザギの行動範囲を狭めさせた。

 ザギはついに、傀儡の山の中に閉じ込められた。

 50体以上の敵がザギを押せえつける。どれだけ力を込めても、指一本すら動かせなかった。

「ぐっ・・・まずい!!」

「ヒャッハァー!!いいねぇ!いいねぇ!」遠くから男の囃し声が聞こえてくる。

(せめて変身を・・・!!)と思ったが、全身にかかる強大な圧力で骨が折れそうなほどで、それどころではない。

 今までない窮地に追い込まれていた。


 その時だった。

 ほんの少しだけ、敵の押さえつける力が緩んだ気がした。

(今だ!!)

 わずかに体の可動範囲を得たザギは、全力を尽くして敵の山をはねのけた。

 たちまち傀儡の山は崩れた。ザギはもとの自由を取り戻した。

 立ち上がって見ると、一人の見知らぬ男が立っている。

(誰だ?)

「おいおい!邪魔者が入っちまったよォ」傀儡を操っているメンバーも、その男を見て言う。

 ちぢれた黒い長髪。細身で背の高い体。口ひげとアゴひげを生やし、穴の開いた丈のある服を着ている。目元は涼しく、顔も整っている。

 そんな男が、たった今ザギを押さえつけていた傀儡の山に攻撃をしたのだった。

「逃亡者を庇うとは一体何もんだ?トライブのメンバーか?あるいはただの一般人か?」

「オマエに話す必要はないね」男は初めて口を開いた。「なぜなら、オマエはすぐに殺されるからだ。俺と・・・」

 男は目線をザギに向けた。「コイツにね」

「突然出てきて何だよ?ヒーロー気取りたいの?」

「俺の思惑何てなおさら話す必要はないね。理由は、今言った通りだ」

 傀儡はというと、先ほどのザギの剣の一振りによって半分ほどは倒された。そして残り半分がザギと黒服の男に向かってくる。

「殺されるのは、そっちだよん」

 ザギはすでに力のほとんどを出し切っていた。大剣を振り回す力も残っていない。敵を一体ずつ相手にするのが精いっぱいだった。

「手を貸すよ」黒服の男はザギに言った。

「え?」

 廃作業場の外の電線にはカラスが多く集まっていた。不気味なほどだった。

「憎まれ者どもめ、今こそ役にたちやがれ!!」

 突然男は、声を張り上げた。その言葉はカラスに向けられたものだった。

 すると、電線の上でけたたましく鳴き交わしていたカラスが屋内に群れを成して飛びこんできた。そして驚くことに、カラスの体に腕が生え、脚が伸び、怪人体へと姿を変えたのだ。

 黒い羽根を持った怪人体が、およそ10体。

「!!?」その光景に、ザギも傀儡師のメンバーも驚愕した。

「さぁ、さっさと働け!!」

 男の一声で、カラスの怪人たちは傀儡たちと一対一で戦い始めた。

 ザギが戦い、男が戦い、カラスの怪人たちが戦う。

 やがて100もあった傀儡はひとつ残らず地に倒れた。


「よくやった。もう、戻っていいぞ」

 男がそう言うと、カラスの怪人はもとのカラスに戻って飛び立っていった。

 ザギと男は、キッと傀儡師を睨む。

 傀儡師の額から汗が流れる。

「・・・ハッ。ハハッ。・・・コイツは予想外。こんな・・・シナリオじゃなかった・・・はず」

 黒服の男は、ザッ、ザッ、ザッと敵に近づいていく。

「言ったはずだよな。オマエここで殺されると」

 男は、不敵な笑みを浮かべる。

「それが俺のシナリオだ」

 傀儡師も笑みを浮かべた。しかしそれは、焦りを含んだ笑みだった。

「シナリオ通りにいかないなら、逃げたもん勝ちさ」

 と言うと、ふっと姿を消した。

「次こそはシナリオ通りに・・・ザギ、あんたを殺す。そして・・・カラスを操るあんたもな・・・」最後に声だけを残していった。


「逃げられたか。・・・ま、相当焦ってたから、こちらの優勢ってとこだったか」

 ザギは立つのもやっとの様子だ。

「おい、大丈夫か?」男はザギに肩を貸した。

「・・・テメェ、何もんだ?」

「それを説明するのは、お前が休んでからの方がいいな」

 二人はヒョコ、ヒョコと廃作業場を出て行った。


第35話につづく

 

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