第31話「王族の謎」-Chap.8
1.
パ=ナトムとの一戦から二日後。ある遠い町に出かけていたバディアとブレインが海条のもとに帰ってきた。海条と黄門は王族のメンバーにまつわる一連の出来事を二人に報告した。場所は海岸である。
「・・・そうか。とうとう奴らが・・・」話を聞き終えると、バディアは腕を組んで俯いた。
ブレインのほうも少し深刻めいた様子になった。
「そいつ、明らかに今までのメンバーとは違ってたぞ。いわゆる幻術のようなものを使ってきた。・・・もう、今までの戦い方じゃ太刀打ちできないぞ」
「黄門が知らないメンバーだったということは、当然俺も知らない。情報があまりにも乏しく、策の立てようがない」
「なあ、お前は離れている相手の行動を探ることが出来るんだったよな。今回のはどうだったんだ?何か分からなかったのか?」
「王族レベルになると、そうかんたんには探ることができない。何しろ、お前らと戦っていたということすら感知できなかったのだからな」
「ふぅー・・・なかなか難しぃねぇ~」黄門がため息交じりに言った。
しばし沈黙が訪れた。そして口を開いたのは海条だった。
「・・・なぁ、バディア」
「何だ?」
「そろそろ教えてくれよ。王族とは一体何なのか。それと・・・お前らのことも」
黄門はいいんじゃねえの、というふうにバディアに目配せをした。ブレインも同様にバディアを見た。
一呼吸おくと、バディアは話し始めた。
「これは王族の民に代々言い伝えられた話だ。
古代より人間は争いが絶えなかった。土地、食糧、権力、金・・・それらを求めて争いあった。何百年何千年にもわたって争いを続けた人間のなかには、やがて武力に長けたものが現れ始めた。いわゆる突然変異だ。それら武力を持った人間たちは三つの力のうちのどれかを授かったという。海の力、空の力、陸の力。それぞれの力を持つ者同士が集まって武力集団をが出来上がった。それが、海族、空族、陸族の起源であると言われている。彼らは戦にめっぽう強かった。何せ通常の人間をはるかにしのぐ力を具えていたのだから。しかし、彼らには武力をもって弱き人間たちを支配するようなことはしなかった。彼らは自らの力を飽くまで自己防衛のためにしか行使せず、普段は穏やかに暮らしていた。
今から約1000年前。日本列島の中で最も強大な権力を誇る大国、『イト』の朝廷が各族の戦士のうち数人を自国に呼び寄せた。目的は彼らに国の兵力として働いてもらうことだと説明した。しかし、真の目的は呼び寄せた戦士たちの戦闘能力を奪い我がものとすることだった。戦士たちは捕えられ体の隅々まで解析された。能力を奪われた彼らは処刑された。国は得た力をさらに強くするよう研究し、何体もの強力な兵を作り出した。そうしてイトの国はかつてない強大な兵力を持ったのだった。イトの国はすさまじい勢いで周辺国から遠国までも統一し、日本列島のおよそ半分はイトの領土となったともいわれている。やがてイトは海、空、陸の三族をも支配下に置いてしまった。これでもう怖いものは何一つ無くなったというわけだ。
しかし三族も黙ってイトに従うばかりではなかった。彼らは裏でひそかにイトの兵士に対抗しうる強力な戦士を造り上げたのだ。それまでは戦士の死体に魂を宿すことで新たな戦士を生み出していたが、人間の死体を用いることでそれを可能にした。三族はその『人間ベース』の戦士をもってイトの国力を内部から潰しにかかった。クーデターは見事成功し、イトの国は消滅した。それがおよそ500年前こと。長く続いた戦乱の世はここで終末を迎えた」
バディアはここで一度話を区切った。
話を聞いていた海条がバディアに質問した。
「なんだよ。それでおしまいか。それが今の王族にどうつながってくるんだよ?」
バディアは答えた。
「これで終わりではない。続きを聞け」
「三族によるクーデターでイトの兵士は全滅したわけではなかった。生き残ったのはわずか数体だけだったが、それから数百年の間その血を絶やず少しずつ数を増やしていった。そしておよそ50年前、一族はわずか十数体の戦士をもって再び海、空、陸族を攻め、支配下に置いた。その時は、三族の間ではすでに人間ベースの戦士を生み出すことが禁じられていたため、不意の襲撃に抗えなかったのだった。彼らは自らを『王族』と名乗り、かつてのイトのような武力による人間支配を野望としている。」
以上が王族の出現までの経緯だった。
想像以上の長い歴史に、海条の頭の中は整理がつかずにいた。
「つ、つまり王族の連中は人類の支配が目的なわけだな?」
三人はうなずいた。
「なんだかコドモが考えたようなわっかりやすい目的だろ?しかし侮っちゃいけんのよ。奴らは本気でそれをやろうとしていて、実際それが起こりうるんだからな」 黄門が呆れた風に言った。
「だが具体的に何をしようとしているかは俺たちにも分からん。これは王族にいた頃から分からないことだ」
黄門はそれにウンウンとうなずいた。
「そーいうのは上層部だけの秘密だからなぁ。俺たち下部のヤツはただ上の命令にハイハイと従うしかねーんだ」
「パ=ナトムは上層部のヤツなのか」
「いや、ヤツは上層部じゃないだろう。言うなればヒラのメンバーだ。いきなし上の連中を送り込むことはないだろうからな。上層部にはアレより強いのがゴロゴロいやがるってことだ。もっとも、そいつらがどれだけのものか知りようもないけどな」
そんな黄門の憶測を聞いた海条は身震いをした。
(アイツより強いのが・・・まだいるのか)
三人は沈黙した。
「やっぱり」ブレインが口を開いた。
「こちらの戦士のパワーアップ・・・が必要ね」
「・・・それしかねーよな。なぁ、何かパワーアップアイテム作ってたりしない?」
「ないわ。というのも、あなたたちに与えたストーン、実はまだ最大限の力を引き出せてないのよ」
最大限の力、という言葉で海条はあることを思い出した。
「ブレイン、俺が前に突発的にオルガの力が強化されたことは言ったよな?」
そう、あのザギとの戦いの時だ。
「ええ。あんな風にあなたたち戦士は強化することが可能なはずなの」
「どうやって?」
「私が外部から何かをするわけじゃないわ。あなたたちの内面で増幅されるエネルギーに共鳴して発動するの」
「エネルギーの増幅、ね・・・」海条は悩んだ。
「そんなもん、自分でコントロールできそうにもないぞ。曖昧っつーか、抽象的過ぎてわからん」
「オルガが強化した時のことを思い出してみて」
海条はあの時のことを思い出してみた。
「確か・・・ものすげえピンチが迫ってたんだ。あと少しで殺される、みたいな」
「だとしたらその石は内面的な生命力に呼応するのかもしれんな」バディアが考察した。
「だったら何だ?また殺されかけろと言うのか!?」海条は立ち上がり語気を強めた。
「それは一つの方法に過ぎん。また別の方法があるはずだ」
海条は冷静になると、再び座った。そしてまた悩んだ。
(結局ハッキリとした答えはないのか)
「いずれにしろ・・・」ブレインがすくっと立ち上がった。
「パワーアップは自分次第ってことね!」
2.
四人が解散すると、海条とブレインはともに帰路についた。
「いくらなんでも無茶だ。パワーアップは自分次第って・・・」
「そうしたのには理由があるわ。パワーアップするっていうことは、いわば野生の本能を解放させるようなものなのよ。人間やその他の動物だってそうじゃない。平常時は脳のほんの一部しか働いていないけど、危険が迫った時は本能によって脳を突発的に活性化させる。それと同じ機能を石に付加してもよかったわ。でもね、それは暴走の危険もはらんでいるのよ。一度解放された力をできない場合は見境なくあらゆるものを破壊し続けるかもしれない。だから、戦士自身の精神力で力を解放させたり抑制させるようにするのが一番安全と思ったのよ」
「なるほどな。そんなことまで考えて作られていたんだな、あの石って」
「そうよ。おバカな王牙でもちゃんと扱えるようにしてあるんだから」
「おバカとは失礼な!」
「ハハハッ!」
そして二人は少しの間黙って歩いた。
「・・・ねぇ、王牙」
「何だ?」
「いまさらだけど、ごめんなさいね。あなたを色々危険な目に遭わせちゃって」
「・・・悪いけど、本当に今更だな」
「だって今度の敵はこれまで通りにいかないもの。ひょっとすると・・・あなた自身も危ないから」
「危ない目ならこれまでに何度もあってきただろ?今になってビビってたってしょーがねっての」
ブレインは首を横に向け、海条の目を見ると微笑んだ。
(なんだか頼もしくなったなぁ)
海条もニカッと笑った。
家に帰ると、兄の飛沫が既に帰宅していた。
「あれっ?なんだよアニキ。今日は早いな」
「おう!今日は外回りだったんで終わり次第直帰したんだ」
「お兄さん、お疲れ様!」ブレインも飛沫に挨拶した。
「おっ!ブレインちゃん、数日ぶりじゃーん。寂しかったよ~」
「ふふっ。ちょっとお仕事に行っててね」
「ふーん。ブレインちゃんのお仕事ってなんだかしらんけど、まぁそんなことはどうでもいいことだ!大事なのは、こうして家族みんなが集まったことだからな!」
久しぶりにブレインと会った兄はいつになくテンションが高い。
この風景をみた海条は、心の中に温もりを感じた。それはまるで北風の吹き付ける真冬に見つけた焚火のような温かさだった。
(この戦いがいつまで続くかは分からない。終末があるのかも分からない。でもこうして・・・一人じゃない、っていうのはそれだけで勇気をもらえるんだな。俺は俺に出来ることをやるだけだ!いつだって掛かってこい、メンバーども!)
飛沫との会話に一区切りつけたブレインは台所に立っていた。
「久しぶりに私がご飯作るわ!二人とも何がいい?」
32話につづく
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