第20話「給料3万5千円!」-Chap.5

1.


 海条王牙、黄門銑次郎、浜松の2週間にわたるアルバイトの中で起こった事件はその一つだけだった。小さな事件ならいくつかあったが(海条が調子に乗って網の引き上げを手伝ったところ、手が滑って獲った百匹単位のカツオを海に戻した。海がやや時化た日、黄門があまりの船酔いに意識を失った。など)、無事に終わった。

 バイト最終日の学校からの帰り、三人は海条家の近くの海岸に立ち寄った。

「さてさて・・・いくら稼いだかなぁ?」海条らは初日から最終日までのバイト代の合計額を出してみた。

「ななな何と!3万5千円!」一番早く計算し終えた浜松が雰囲気を作って言った。

「おぉ~ごっつあんですなぁ~」と、黄門。

「おたく儲かってまんなぁ~」と、海条。

「バカ言えよ。お前らだって同じだけもらったじゃんか」と浜松が冷静に切り返した。「そんなことよりな・・・」

「ん?」

「こっちはお前らの正体にびっくらこいてんだよ!!」

「正体と申しますと?」と、黄門。

「怪人が襲ってきたときのお前らさ。何かこう・・・変身して強くなってさ、戦ってやっつけてただろ」

「あぁ、あのことね」と、黄門。

「文化祭の時も学校に謎のヒーローが現れたって学校中大騒ぎになったけど、まさかお前らだったとはな・・・」

「だから言ったろ。悪と戦うヒーローのバイトをな・・・」と、海条。

「あんなバイトがあるかよ!どこで見つけたんだよ?求人情報誌にはまず載ってないだろうがな」

「いや・・・なんつーか、知り合いのツテでさ。給料いい仕事があるからって・・・」と、海条。

「どんな知り合いだよ!・・・だいたい、バイトにしては命がけ過ぎんだろ・・・」

 浜松はここで怒涛の突っ込み連打を止めた。三人の間にしばし沈黙が訪れた。

「まぁ・・・今まで黙ってたことは悪かった」口を開いたのは海条だった。

「実際やってることは特殊だしな。そう簡単に人に言えないし、言ったところで信じてもらえないから」続けて黄門が言った。

「・・・それを止めろとは言わないよ。ただ・・・」浜松は少し間を置いて言った。

「絶対にやられるなよ」

 海条と黄門は顔を見合わせた。そして微笑みながら言った。

「当たりめーだろ」「なめてもらっちゃ困るぜ」


 10月も終わりに近づいていた。三人が座っている浜辺に心地よい風が吹き抜けた。


2.


 それからのこと。

 浜松と日暮航は、学校で海条と黄門の正体のことを誰にも話さなかった。文化祭に現れた謎のヒーローについては、目撃されてから1カ月ほど話題に上がったきり今話す生徒はほとんどいなくなった。

 海条らと日暮航は、バイトをきっかけに時折話をする仲になった。


 バイト最終日のこと。

 その日も海条は、バイトの土産にもらったカツオを自宅に持ち帰った。

 クーラーボックスに入った新鮮なカツオを見たブレインは呆れた様子で言った。

「またカツオ!?これで何度目よ、もらってきたの?もういい加減食べ飽きたわ」

「だって、お前がもらってきてほしいて言ってたんじゃないか」

「一度か二度でいいのよ!お料理のレパートリーなくなっちゃったわよ。お刺身に、タタキに、カルパッチョに・・・」

「でもなぁ・・・せっかくもらったのに捨てるのはもったいないしなぁ」

 二人ともに頭を悩ませていたら、

「ようし!ならば、俺がカツオを使った創作料理を作ってやろう!」兄の飛沫が二人の間に割って入ってきた。

 海条は顔をひきつらせた。

「い、いいよいいよ!こ、ここは無難に刺身にでもしよう!」海条は以前何度か、創作料理と称した飛沫作のとんでもないゲテモノを食わされてきたのだった。

「なぁに、任せとけって!」飛沫は腕をまくると、カツオを片手に調理台に立った。

 それを尻目に、こそこそと家を抜け出そうとする海条。ブレインはきょとんとした表情で海条を見る。

 飛沫は鼻歌交じりに冷蔵庫からウスターソースやらタバスコやらを取り出した。一体どんな料理が出来上がるのか、だれも想像できなかった。


第21話へつづく

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