第19話「ダブルヒーロー」-Chap.5

1.


 10月15日。その日も海条らは漁に出た。

 いつも通りカツオの群れを見つけ、網を海に沈めて獲っていた時だった。

 風月丸が大きく揺れた。

「なんだっ!?」船長の日暮洋は慌てふためいた。

 見ると、風月丸の真下に黒い影があった。その影は海面に現れて、銃口を船の上に向けた。

 そして、鉄板をも切り裂かん勢いの水鉄砲が発射された。

「わわっ!何だ!?」日暮航も予想外の出来事に慌てた。同時に背筋に寒気が走った。

 その水鉄砲は幸い人には当たらなかった。が、機関室を貫通した。

 その時、船は動きを止めた。船を動かす機構が破壊されたためだった。

 海条と黄門銑次郎は顔を見合わせた。メンバーの仕業だと確信した。

「こんなところまで来やがって・・・。でもやむを得ないな」航らがいるために少し躊躇したが、海条は変身した。

「なっ!君は・・・!?」航は海条の変身した姿を見て、心底驚いた。

「なんつーか俺、ヒーローのバイトも掛け持ちしてんだ」航に向かって言うと、オルガは海の中へ飛び込んだ。


 黄門は船から身を乗り出して怪しくうねる海面をにらんだ。

「敵は海族のようだし、とりあえず俺は必要ないかな?ピンチの時の助っ人として待機してれば・・・」

 そう言い終わらないうちに、二度目の攻撃が来た。それは、空からだった。

 翼の生えた白い体。ウミネコのメンバーだった。そいつは、上空から飛んできて船に体当たりし、また飛び去った。そうして、ミャアミャアと鳴きながらぐるぐると旋回して幾度も船体にぶつかってきた。

 船が今にも転覆しそうなほどグラグラと揺れた。

 今度も、幸い人に怪我はなかった。が、やはり船員室が破壊された。

「またきたぞっ!」上空から船に向かってくるメンバーを見て洋と航は叫んだ。

「やれやれ、どうやら俺の出番も来たらしいな」黄門はため息交じりにいうと、すぐに変身した。天空の戦士ラゴーグの姿に。

「君もか!?」航は再び驚愕した。

「俺もヒーローのバイトっつーか何つーか。・・・にしても俺、泳ぎは苦手なんだよなぁ。・・・航のおじさん、この船もう動かないか?」

「だめだ。完全にやられちまってる」洋は答えた。

「そうか・・・。そうだ、あっちの船をこっちに寄せられないかな?」そういってラゴーグが指さしたのは、数百メートルほど離れたところで漁をしている別の船だった。

「よし、分かった。何か考えがあるんだな?」

 ラゴークはうなずいた。

 すぐに洋が無線で一方の船と連絡をとった。その船はすぐにこちらに向かってきた。

「それまでは俺がヤツを何とかする」ラゴークは空中の敵をにらみつけた。(ちくしょう、俺もヤツみたいに飛べればな・・・)

 ウミネコのメンバーは何度目かの体当たりをしようと空中で助走をつけていた。そして船に向かって飛び出した時、ラゴークは長剣にエネルギーを集中させて放った。

 緑色に光るエネルギー波がウミネコを直撃した。ウミネコは甲高い鳴き声とともに海に落ちた。

 その時ちょうど、向こうの船が風月丸のそばに到着した。

「今のうちだ!俺に考えがある。そっちの船員は全員風月丸に移ってくれ。そしたら俺はその船に移り、港まで戻ってヤツと戦う。・・・あと、できれば船を操縦できる人が一人欲しいんだけど」ラゴークが方法を説明した。

 船員たちはすぐには返事をしなかった。怪人に襲われるかもしれないという恐怖からだった。

 しかし、航が名乗り出た。「俺が操縦するよ」

「ありがとう、航!大丈夫、絶対にお前を危険な目には遭わせない」

「航、さすが海の男だな。しっかりやれよ」洋は航の肩を叩いた。

 そして、ラゴーグと航のみを乗せた船は港へ向かって出発した。


2.


 オルガは水のある場所での戦いを得意とする戦士だが、海中での戦闘はこれ初めてだった。

 海中に潜ってはじめて、敵の姿をはっきりと認識した。両腕両足にヒレで泳ぎ、首元のエラで呼吸し、体はすらりとなめらかで、片手にショットガンに似た武器を持った、鉄砲魚のメンバーだ。

 鉄砲魚のメンバーはすいすいと海中を泳ぎ、銃で攻撃してくる。陸上では発射される水によって攻撃したが、海中では水が発射される水圧によって攻撃してきた。水中での攻撃でもかなりの威力だった。

 オルガははじめ海中での動き方が分からず、鉄砲による攻撃を食らっていた。しかし、慣れると次第に攻撃を避けられるようになった。

 攻撃を避けられるようになったら、今度は大剣によって反撃をしかけた。水中移動のコツを掴んだオルガは相手以上に素早く海中を泳ぎ、剣で切りつけた。あっという間にオルガの優勢になった。

 鉄砲魚は自分の劣勢を悟った途端、それまで以上のスピードで必死に逃げ始めた。

「逃がすか」オルガもスピードアップして相手を追った。

 それでもオルガの方がスピードでは上手だった。余裕のあるオルガは、逃げる鉄砲魚を港へと誘導していった。

 自分が港へと誘導されていることに気づかない鉄砲魚は依然として必死に逃げた。港のそばまで来たとき、オルガの剣の一振りによって陸へと吹っ飛ばされた。

 鉄砲魚は港へと打ち上げられ、オルガも港に上がった。

「海中もいいけど、やっぱり陸上のほうが慣れてるからな」オルガはひるんだ鉄砲魚に渾身の一撃を食らわせるよう剣を構えた。


3.


 ラゴーグを乗せた船は航の操縦によって全速力で港に向かった。ダメージから復活したウミネコは空中に飛び上がると、すぐにラゴーグの姿を捕え、船に向かって飛んできた。

「やっぱり港まで間に合わねえな」迫りくるウミネコを見てラゴークが言った。

「航、すまねえ、ちょっと船上で戦うぞ」

「おう!大丈夫だ。こっちは任せとけ」

 ウミネコがラゴークにぶつかってきた。待ち構えていたラゴークは長剣でその攻撃を防いだ。ウミネコは船上に倒れた。

(武器は一切もっていないようだな。なら楽勝だ)

 立ち上がったウミネコは、くちばしから超音波を発した。

「うっ!」

 ラゴークはそれを聞くと、鼓膜に強烈な違和感を覚え、手で両耳を塞いだ。航も耳を塞いだ。操縦にミスが生じ、全速力で走っていた船体が揺れた。

 ウミネコは隙ができたラゴーグに突きや蹴りの攻撃をしかけた。ラゴーグは倒れた。ようやく聴力が回復すると、長剣で相手の攻撃を防いだ。

「黄門、もうすぐ港だ!」航が叫んだ。

 倒れたままラゴーグの目ががすぐそこまで迫る港を捕えた。

「どりゃああ!」ラゴーグは渾身の力で十数メートルもの距離を跳躍し、ウミネコもろとも港に転げ落ちた。そこにはすでに、オルガが鉄砲魚と戦っていた。

「よくもやってくれたなぁ」ラゴーグはものすごい速さで長剣で相手を切りつけた。

 オルガも敵にとどめを刺すところだった。

 オルガとラゴーグのそれぞれの目の前には倒れたメンバーがいた。

「海条、行くぞ」

「ああ」

 二人は剣を構えた。各々の剣にエネルギーが集中した。オルガの大剣は青く、ラゴーグの長剣は緑色に光った。

 オルガは走って、ラゴーグは跳躍して相手に接近した。オルガは水平に、ラゴーグは空中から縦にメンバーを斬った。

 オルガは重く強力な一撃を、ラゴーグは素早い攻撃を何度も浴びせた。

 鉄砲魚とウミネコは爆散した。

 あとには、二人の戦士が勇ましい姿が残っていた。


第20話へつづく

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