第18話「漁師バイト」-Chap.5

1.


 波乱の文化祭が終わって数日が過ぎた。

「なぜ黄門を戦士に選んだんだ?」ある日、海条王牙はバディアに尋ねた。

「お前としては身近な人間が自分と同じ戦士であることに驚いているのだろうが、黄門銑次郎は以前から我々とともに行動していた王族の仲間だ。まぁ、今となっては『元』王族だがな」

 海条はバディアの発言に大きな衝撃を受け、口をぽかんと開けた。

「・・・へ?」

「今言った通りだ。信じられないか?」

「ジョーダン・・・だよな?」

「ジョーダンじゃないぜ」二人の背後から黄門の声がした。

「お、おまえ・・・ほんとに?」

「ホントのホントだ。俺は元々王族にいた。ただし、戦闘専門のメンバーとは違って、諜報活動、つまりスパイみたいな役割だったが」

「諜報・・・?何に対する?」

「人間界さ。トライブにとっての最大にして唯一の敵は人間なのさ。あいつら、個々の人間なんて屁でもないと思ってるくせに、その科学力だけは怖れてるんだ。さすがに戦車や核兵器でもって対抗されたら自分たちも危ういんだそうだ」

「・・・じゃあ、どうしてウチの高校に?」

「俺とバディアはともに王族を嫌い、真っ向から反発することで考えが一致していた。んで、お互い手を組んだわけさ。高校に潜入したのは、出来たばかりのオーシャンストーンの『器』を探すためだ。」

「しかしお前は時間がかかりすぎだ。1年半も何をしていた?」バディアがじろりと黄門を睨んだ。

「デヘヘ。当初の目的を忘れて、ずいぶん長いこと高校生活に入り浸っちまってな。そうこうしているうちに、海条が適合者として戦士になった。スゲエ偶然だよな。まさかお前が!と思ったぜ」黄門は頭を掻いた。

「・・・」海条は呆気にとられてただの一語も出てこなかった。

「納得したか?」バディアが海条に尋ねた。

「頭ではわかっても、なんつーか・・・やっぱ実感沸かねえな」

「ま!そういうわけだ。改めてよろしくたのむぜ、先・輩!」黄門が海条の肩をたたいた。

「よろしく・・・とは言いたくないな」海条は煮え切らない気持ちのまま言葉を返した。

「あ、そだ」黄門が手をたたいた。

「ニュー戦士の名前は、『ラゴーク』で決定!ってことで」

「一応きくが、その名前はお前が?」と海条。

「もちろん俺が決めた!」黄門はブイサインをした。



2.


 10月に入った。涼しく過ごしやすい気候で、木の葉は色づき、様々な果実が実る。季節はすっかり秋になった。


 文化祭のほとぼりも冷めていつも通りの平穏な日々が流れる海条のクラス。

「なあお前達、バイトしないか?」海条、黄門銑次郎、浜松らが駄弁っている中に話しかけたのは、クラスメイトの日暮航ひぐらしわたるだった。

 日暮は陸上部所属で、引き締まった顔立ちと筋肉質で日焼けした体が特徴の男子である。

「おう、日暮。バイトって何の?」海条が返事をした。

「俺のオヤジの船で漁の手伝いさ。今繁忙期で人手が足りないらしくてさ。月・水・金の早朝と土曜の朝から昼まで。うまい飯もついてくるぞ。どうだ?」

 日暮の父親は漁師である。航自身も漁の手伝いをしている。

「飯付きはいいけど、朝早いのはちょっとなぁ・・・」と海条。

「おもしろそうじゃん、俺やろうかな」と浜松。

「そう。浜松はやるってよ、日暮。俺はパスかな」と海条。

「いや、俺はまだやるとは言って・・・」と浜松がうろたえる。

「海条、これはお前の朝寝坊遅刻癖を直す絶好のチャンスだぞ!おまえが嫌だと言っても俺が許さん。日暮、海条もやるぞ」と黄門。

「あっ、ずりぃテメー!お前だってしょっちゅう遅刻するくせによ。日暮、コイツもやるってよ」

「テメー!俺の親切を仇で返す気だな!?」

「何わけわからんことを」

「じゃあ、お前ら三人参加ってことでいいな?」と日暮が確認するそばで、海条と黄門は取っ組み合いを始めていた。

 かくして、海条・黄門・浜松の三人はバイトをすることとなった。


 数日後の月曜日。三人の初バイト日である。

 朝5時。眠い目をこすりながら三人は港に集合した。

「ねみ~。いつもならまだ夢の中にる時間なのになぁ。日暮、お前毎朝こんな時間に起きてんの?」目をこすりながら海条が尋ねた。

「小さいころからやってるからもう慣れたさ」と言う日暮は、まるで三時間前に起きたような顔をしている。

「何か、だんだん引き受けたのを後悔してきた」と浜松があくびをした。

 黄門は立ちながら船を漕いでいる。

「お前らまだ初日じゃん。今弱音吐いてどうすんだよ。・・・あっ、オヤジが来た」

 見ると、船着き場へと歩いてくる一人の男がいた。航の父親、ひろしだ。航と同じく筋肉質で日に焼けた体をしていた。

「俺のオヤジだ。風月丸の船長だよ」

 洋は海条らの前に来ると、

「おはよう!君ら、航の友達だってな。ホラホラどうした、そんなフニャフニャして。もっとシャキッとせい、シャキッと!」と豪快に言うと、一人ずつ背中を叩いて活を入れた。

 それからすぐに、風月丸は洋、航、その他船員数人と海条らを乗せて出発した。まだ日がでておらず、空は暗かった。

「・・・今さらなんだけどさ、俺船弱いんだよね」出発してすぐに黄門が言った。

「本当に今更だな!」海条が突っ込んだ。

「いったん出たらもう引き返せないよ」と航。

「何を獲るんですか?」と浜松が尋ねた。

「カツオだな」と洋が答えた。


 カツオの群れを見つけると、船長の洋はじめ、船員たちが網を海に沈めた。少し離れたところにもう一隻船があり、そちらも網を沈めた。二隻の船が群れの周りを一周してカツオを網の中におさめ、最後は二つの網を合わせて封じ込めた。封じ込めた網は、風月丸の方に引き上げられた。大量のカツオが船の上で跳ねた。

「カツオは一本釣りのほうが高く値段が付くんだが、代々ウチはコレで獲るんだ」と網を引き上げながら洋が言った。

 海条たちは、引き上げられたカツオを水槽の中に入れて冷凍する作業を手伝った。これで朝の漁は完了した。

「初めて漁の手伝いしたけど、想像以上に大変だったな」と海条は感想を述べる。

「ああ。でも、新鮮で楽しかったな」と浜松。

「早く港に戻ってくれぇ・・・うっぷ」と、船酔いMAXの黄門。

「じゃあ、戻るとするか」と、洋は言った。

 船が港に戻るころには、日が昇っていた。時計を見ると、7時半だった。獲ったカツオを船から降ろし終えると、洋が冷凍しないで置いた一匹をさばいて刺身にした。さらに、あらかじめ用意した塩むすびも振舞った。海条らはすっかり空腹だったため、夢中になって刺身を食べた。

「うめぇ~。信じらんないほどうめぇ~。これがまかない飯ってやつか」と、感無量といった様子の海条。

「ああ。仕事の後の飯ってのがまた最高なんだよな」と、喜ぶ浜松。

「・・・気持ちわりぃから少しだけ」と、真っ青な黄門。

「俺も毎日釣りたての魚を朝食にしてるんだ。新鮮でうまいから、毎日でもあきないね」と、航。

「今日はみんなありがとよ。次からもたのむぜ!」と、洋。

 こうして海条たちの初日のバイトが終わった。


3.


 その日海条が帰宅すると、ブレインにバイトの話をした。

「・・・てわけでさあ、俺将来は漁師になる決心をしたよ」

「ふうん、あんたそれ、朝ご飯が美味しかったってだけでしょ」と、ブレインが鋭く突っ込む。

「そ、そんなことねぇし。漁の手伝いの方も楽しかったぞ」

「ふうん」ブレインが怪しげに見つめる。

「な、なんだよ」

「いつまで続くかしらねぇ~、そのバイト」

「バカ、続くって。言っても、2週間だけだし」

「ホントかしらねぇ~」

「ホントだよ。おまえ信用してないな」

「信用できるような人格を具えていないんだもの」

「あっ、腹立つこといいやがって、このヤロー!」

 海条はブレインを追っかけ回した。

「ねぇ、次からさ。獲れたお魚もらってきてよ」逃げ回りながらブレインが言った。

「そんな態度のヤツにはもらってこねーよぉー」


 漁の仕事に、学校に、ブレインとの喧嘩。すっかり疲れた海条が、その後ベッドに入った途端に眠りに落ちたことは言うまでもない。


第19話へつづく




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