第17話 脚本「姫と夜獣」 -Chap.4(番外編)

<題目:「姫と夜獣(ひめとやじゅう)」 2年B組>


1.


舞台開幕。暗転。


ナレーション:「昔々、イギリスにパルフィールドという由緒正しき貴族の一家がありました。パルフィールド家には、それはそれは美しい一人の娘がいました。名をジェーンと言いました。彼女はとても美しく、教養があり、ヴァイオリンも弾きこなす、素晴らしい少女でした」


明転。背景は、パルフィールド家の庭。ジェーン、スキップをしながら登場。


ジェーン「今日もいいお天気ですわ。小鳥たちは元気にさえずっているし、お花もきれいに咲いているわ。なんだか素敵な一日になりそう」


ジェーン、小鳥たちと戯れ、花を眺める。


そこに、パルフィールド家の家臣の頭、オリヴァーがゆったりと登場。


オリヴァー「ご機嫌うるわしゅうございますな、姫様」


ジェーン「あ、オリヴァー。おはよう。お父様は今何してるの?」


オリヴァー「ご主人様は議会にでておられます」


ジェーン「そう。じゃあ、しばらくの間は自由ね」


オリヴァー「さようでございますなあ。・・・ところで姫様も、もう20歳になられましたな」


ジェーン「そうね。それがどうしたの?」


オリヴァー「いや・・・ご主人様が、そろそろご結婚のことを考えてもよい年ごろではないか、と申されましたのでな」


ジェーン「結婚?そんなこと考えたこともないわ」


オリヴァー「ご主人様の申されますところによると、あの名家、ストレシー家のご子息ジャック様がお相手にふさわしいとのことです」


ジェーン「ふうん。でも結婚なんかして、生活が今よりも窮屈になるのならいやよ」


オリヴァー「そうおっしゃらずに、当家の今後に関わることですからね。ね?」


ジェーン「結婚の話はもうたくさんよ」


ジェーン、屋敷の中へすたすたと入っていく。


オリヴァー「姫様・・・」


オリヴァー、ジェーンの背中を見つめる。


暗転。


2.


明転。背景は、夜のジェーンの寝室。


ナレーション「その日の夜」


ジェーン、ベッドの中で窓の外を眺める。


「はぁ・・・結婚ね。私ももうそんな歳なのね。いずれお父様からも直接言われるんだわ、そのことについて。でも、まだ子供のままでいたいし、どうせ結婚するならお相手は自分で選びたいわ」


ジェーン、ため息とともに眠りにつく。


暗転。


ジェーン、声のみ変わる。低く荒々しい声になる。


ジェーン(裏)「グルルルル…」


明転。照明は薄暗く。


ジェーン(裏)、起き上がる。姿は影のみで。


ジェーン(裏)「ガハァッ!ハアッ・・・ハアッ・・・この瞬間を待っていた!オレは、昼間の大人しい姫の演技に反吐が出そうなところだったのだ!さあて、今宵はたっぷりと暴れてやるぞ!ヒッ、ヒッ、ヒッ・・・」


ジェーン(裏)、すこしふらつきながらベッドから起き上がると、獣のような足取りで部屋を出ていく。


暗転。


明転。背景は、主人ジョージの寝室に変わる。


ジェーン(裏)、寝室の前まで来る。


ジェーン(裏)「グハハハッ!おい、起きろクソ親父!出てきてやったぜ。俺だ、バルク様だ!早く出てきやがれ、今晩こそ殺してやるぞ!!」


ジョージ、その声を聞いて眠っていたところから起き上がる。


ジョージ「また出やがったか。夜獣、バルクめ!」


ジョージ、大声で叫ぶ。「出たぞ!助けてくれ!」


すぐに、オリヴァーを筆頭に家臣3人とボディガード3人が、寝室の反対側の扉から登場。


オリヴァー「ご主人様!また、奴が出てきやがりましたか!!」



ジェーン(裏)「出てこおおい!!」


ジェーン(裏)、扉を激しくたたく。やがて、扉は破れる。そして、のそりのそりと部屋の中に入る。


オリヴァー「おい、おまえたちっ!ご主人様を守るんだ!」


ボディガードら、ジョージの前に立ちはだかり、護衛する。


ジェーン(裏)「ぐおおおおっ!」


ジェーン(裏)、気が昂ぶり、人型の獣の姿に変わる。


バルク「一か月ぶりだな、クソ親父!俺の気も知らずに、裏で結婚なんか企てやがって!くだらねえ!まあ、今ここでてめえの息の根を止めれば終わる話だがな」


バルク、じりじりとジョージに近づく。


バルク「食らえ、クソ親父!!!」


バルク、ジョージに飛びかかる。


ボディガードら、一斉に麻酔銃を撃つ。


バルク、麻酔銃が当たり動きを止める。


バルク「な、なんだこれは・・・意識が・・・」


バルク、眠る。


ジョージら全員、ほっとする。


ジョージ「やはり、満月の日か」


オリヴァー「さようでございますね。満月の夜に、姫様は夜獣バルクに姿を変える・・・」


ジョージ「そして決まって私を襲う」


オリヴァー「しかし月が姿を消せば、すなわち朝になれば、姫様は元に戻ります」


ジョージ「うむ・・・しかし、毎月毎月こうして襲撃におびえながら眠るのはもうこりごりだ」


オリヴァー「ここよりはるか西の山奥に、非常に腕がきく霊媒師がいます。そのお方に頼んで、姫様に取り憑いたものを除いてもらいましょう」


ジョージ「・・・それは名案だな。明日、早速その霊媒師を訪ねてくれ」


オリヴァー「承知いたしました」


暗転。


3.


明転。背景は、野原の広がる道。


ナレーション「翌朝。ジェーンは日の出とともに、もとのすがたに戻りました。そして、オリヴァーと2人の衛兵が霊媒師を訪ねるべく、西の山奥に向けて出発したのでした」


オリヴァーと二人の衛兵は、馬に乗って道を行く。


オリヴァー「霊媒師のもとへは3日ほどかかるぞ。これは大変な旅になるな」


暗転。


明転。背景が、町の市場に変わる。


ナレーション「屋敷を出発してから二日目。オリヴァーらは、とある町の広場にやってきました」


オリヴァー「翌日には霊媒師のもとに着くな。今日はここらで泊っていくか」


オリヴァーら、宿を探しつつ道を行く。


道の前方から、別の馬に乗った一行が来る。


その先頭の男、オリヴァーとすれ違う時立ち止まる。


男「すいません。ちょっとお尋ねしたのですがな」


オリヴァー「はい、何でしょう」


男「私はリヴァーヒルという町から来たフロイというものですが、アップルスカッチという町へはどう行いくか分かりますかな?」


オリヴァー「おお!我々はアップルスカッチから来たのです。もちろん分かりますとも。ええとですね、ここから東へこうこう行って、こう行くのです」


フロイ「誠にありがとうございます」


オリヴァー「お気をつけて、旅をしてください」


フロイ「ええ、そちらも」


オリヴァー、フロイの一行が各々歩き出す。


暗転。


4.


明転。背景は、山奥の霊媒師の館。


オリヴァー「ようやく着いたぞ。さて、早速霊媒師に頼みに行こう」


オリヴァーらは、館の中へ入っていく。


オリヴァー「ごめんください」


霊媒師、部屋の奥に背を向けて座り、水晶を覗いている。


オリヴァー「あの・・・」


オリヴァー、そろそろと近づく。


霊媒師「きええええええええっ!」


オリヴァー「うわあああああっ!」


オリヴァーら、驚いて後ろに倒れる。


霊媒師「人の気配がすると思ったら、来客か」


霊媒師、振り向く。


オリヴァー「びっくりしたぁ。・・・あのぉ、霊媒師さん?」


霊媒師「何じゃ?」


オリヴァー「私たちアップルスカッチのパルフィールド家から参りましたものですが、この度はお願いがありまして」


霊媒師「願いとはなんじゃ?」


オリヴァー「じつはかくかくしかじか・・・でして」


オリヴァー、頼みを説明する。


霊媒師「なるほどな。その娘の裏の人格を消してほしい、というわけだな」


オリヴァー「はい」


霊媒師「少し待っておれ」


霊媒師、再び水晶を覗く。


霊媒師「・・・ワシがそちらに出向く必要もないぞな。娘を救う者は、じきに現れるじゃろうからな」


オリヴァー「じきに現れる?」


霊媒師「ワシから言うことはもう何もない」


オリヴァー「・・・ありがとうございます」


ナレーション「オリヴァーたちは霊媒師の言ったことがよく理解できないまま、パルフィールド家へ帰りました」


暗転。


5.


明転。背景は夜のリビング。ジョージとオリヴァーのみがいる。


ナレーション「あれからちょうど一カ月がたちました。再び満月のよるがやってきたのです」


ジョージ「霊媒師の言った、ジェーンを救う者というのは、一向に現れんな。そしてとうとうこの日がやってきてしまった。霊媒師の助言は嘘だったのだろうか」


オリヴァー「かもしれませんな。困ったものです」


ジョージ「仕方がない。とりあえず、今晩も私のもとに警備をつけておくれ」


オリヴァー「承知いたしました」


暗転。


明転。背景は屋敷の屋根と庭。


バルク「ウオオオオオオオッ!!今夜の俺は、クソ親父でも誰でもいい、さっさと食っちまいたい気分だ!!」


バルク、屋根の上で四つん這いになって吠える。


ジョージとオリヴァー、寝室の屋根からバルクのほうを覗く。


オリヴァー「出ましたな」


ジョージ「うむ・・・しかし少し様子が変だ」


ナレーション「その時です。屋敷の庭へと向かってくる一行があります」


ジョージとオリヴァー「何だ?あの者たちは?」


一行、みな馬に乗って庭に入ってくる。一行の先頭の男が大きな声で話す。


男「やっぱりそうだ!ルークの気配だ!ここにいたのか!」


ナレーション「この知的でハンサムな少年は、リヴァーヒルにあるストレシー家の子息、ジャックでした。ジャックは半年ほど前にペットのトラが脱走して、今日まで方々の町を探して回っていたのでした。そして、今まさに屋根の上にいるバルクがそのトラであることを突き止めました」


ジャック「すっかり見た目が変わってしまったじゃないか、ルーク!まるで半分は人間であるかのようだ。さあ、降りておいで、私のもとへ!」


ナレーション「その時、バルクの中で、ジャックと過ごした日々の記憶がよみがえりました」


バルク、大人しくなり、屋根から庭へ降りてくる。


ジャック「そうだ。いい子だ、ルーク。おいで」


バルク、ゆっくりと二歩ジャックに近づく。バルクの体が分離し、トラの姿が現れる。後には眠ったジェーンが残る。


トラ、ジャックに近づく。


ジャック「おうよしよし、ルーク!ずっと探してたんだからな!」


ジャック、ルークを抱き頭をなでる。


ここで、背景は次第に朝になっていく。


フロイ「良かったですなあ、ジャック様」


ジョージとオリヴァーが庭へと出てくる。


オリヴァー「あなたでしたか。前に、街で会った・・・」


フロイ「これはこれは。何たる偶然でしょうか」


ジョージ「ジャック殿。大切な娘を助けていただき、何と礼を言えばいいか・・・」


ジャック「いいえ、お礼など結構です。私だって今幸せなのですから」


ジェーン、目を覚ます。


ジェーン「あれ?私は一体・・・」


ジョージ「おお!ジェーン、目が覚めたか!よかったぁ・・・」


ジョージ、ジェーンを抱いて喜ぶ。


暗転。


6.


明転。背景は屋敷のリビング。ジェーン、ジャック、ジョージ、オリヴァー、フロイ、ルーク、他登場人物全員が仲睦まじく座っている。


ナレーション「あれから一年が過ぎました。不思議な縁で出会ったジェーンとジャックは、交際を経たのちに結婚しました。こうして、パルフィールド、ストレシー両家に平穏で幸せな日々が訪れたのでした」


暗転。


―おわり―




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