第16話「天空の戦士」-Chap.4

1.


 海条王牙は今回の一連の事件の黒幕が身を潜めていると思われる場所、校舎最上階のとある一室へ走った。

 先ほどの体育館での一件のためか、校内にる人の数は半分ほどに減っていた。

 校舎は5階が最上階である。しかし校舎の5階北側には、目立たないところにさらに上に上がる小さな階段が存在する。その階段は普段入り口が簡易的に封鎖されていて、生徒が立ち入ることは禁止されているし、教員が入ることも滅多にない。よって、階段を上がった先に何があるかを知っている人はほとんどいない。そこには昔の生徒の霊魂がたくさん彷徨っている、などという噂話が流布しているためか、わざわざ行こうとする生徒もいない。

 海条もその階段の先に行くことは初めてだった。入り口に張ってあるパーティションポールを乗り越え、階段を上って行った。階段の端には、誰のものか分からに美術作品、山積みの段ボール、首の折れて使えなくなった大量の箒などが雑多に置かれていた。それらが周囲の薄暗さと相まって不気味な雰囲気を醸し出していた。


 階段を上りきった先には、ほとんど光の差さない暗い部屋があった。天井にある蛍光灯は消えていて(そもそもとうに切れているのかもしれないが)、窓はいくつかあるがすべてカーテンが閉まっていた(そのカーテンも長い間閉められたままのようだった)。部屋の中にあるものは、階段の端にあったのと同じようなガラクタばかりだった。それに生徒が使うような机と椅子がそれぞれ5つほどあった。広さは教室一つ分と同じくらいだった。壁にはぼろくなった黒板が架かっていた。

 海条はホコリとカビの臭いがこもっているその部屋にゆっくりと入った。中を見渡してもメンバーの姿はない。ここにはいないのか、と思ったその時、

 天井が破れて、何かが飛びだしてきた。

 天井裏から飛び出してきたそれは、真下にいた海条に掴みかかった。

「!?」海条は、突然の出来事に身構える余裕もなかった。

 掴みかかってきたそいつは、海条とともに床を転がった。

 海条はそこで初めてその正体を認識した。やはりメンバーであった。

 教頭の石渡にメンバーへの変身能力を与え、今回の一連の襲撃を指示したコウモリのメンバー、チロブであった。

 床を転がると、チロブは海条の上に覆いかぶさり、顔面を数発殴った。4発目を構えたその隙に、海条は渾身の力で相手を蹴り上げ、顔面殴打から逃れた。

 海条はすぐに相手と距離を取った。

(やはり現れたか、変身する戦士め!そろそろ出しゃばってくるころだと思ってたぜ!)

「いつつ・・・。てめえが黒幕か」

(この学校の人間の血をいただき、ついでに貴様の命ももらう、それが目的だったのさ)

「ふざけた真似しやがって・・・。一体どれだけの人が恐怖におびえたと思ってるんだ!」

(さあ、もうすぐ目的は達成される!貴様を殺すことでな!!!)

「てめえは絶対に倒す!!!」

 両者は駆け出した。海条は走りながら変身した。チロブも走りながら槍を手に出現させた。オルガの剣の刃とチロブの槍の刃がぶつかり合う。大きな火花が散った。

 互いに刃を離すと、まずチロブが槍の刃先をオルガの胸元目掛けて突いた。オルガはとっさに避けたが、攻撃を少し食らった。その刃は、細く、鋭くて、どんな硬いものも貫くようだった。

 次にオルガが反撃した。剣を斜めに振るった。相手は槍の柄でその攻撃を受け止めた。刃がまともに当たったにもかかわらず、槍は折れなかった。

(なんだこの槍は・・・。相当頑丈じゃねえか)オルガは思った。

(俺は人間ベースではないが、空族の中ではかなり強い方なんだぜ)チロブはオルガの当惑した様子を見て、笑った。

 ならば、とオルガは気を集中させた。必殺技で相手の槍もろとも切り裂いてやろうと考えた。腰を落とし、剣を縦に構えた。オルガの体からは青色のオーラが立ち上り、剣は青く光った。

 オルガは勢いよく駆け出し、相当なスピードで相手に突っ込んだ。そして真正面に剣を振るった。しかし、当たった、と思った次の瞬間、相手の姿はそこになかった。

 オルガは慌てて周囲を見回した。もしや、と思い天井を見上げると、チロブが両手両足を広げて天井に張り付いていた。オルガは、はっとした。

(くくく・・・スピードでこの俺に勝てると思うなよ。貴様の動きはすべて見切ってるんだ)

 次の瞬間、チロブは先ほどのオルガとは比べ物にならないスピードで突っ込んだ。身構えることもできなかったオルガは、槍の攻撃をまともに食らった。刃は左肩を貫通していた。

「ぐがぁぁっっっ!」オルガはあまりの激痛に声をあげた。肩からは血が流れた。刃は床をも深く貫き、身動きが取れなくなっていた。

 チロブは倒れたオルガを見下ろした。「貴様の血もいただいていこうか。戦士の血とは、いい実験材料になりそうだしな」チロブは血の流れる肩に鋭い牙をあらわにした自分の口元を近づけた。

 その時だった。

「おっと、そこまでだ。コウモリ野郎。その手をどかしな」部屋の入り口から声がした。

 チロブは動きを止め、声の方を向いた。

 そこに立っていたのは、黄門銑次郎だった。

「ようやく見つけたぜ、俺のターゲット」

(誰だコイツは。ただの人間か?)

「王牙!」黄門の背後からブレインが現れた。倒れるオルガに駆け寄ると、「大丈夫?」と声をかけた。

 オルガは体力に限界がきて変身が解けた。

「カヤ・・・いや、ブレインちゃん。海条を連れて行ってくれ。あとは俺がやる」黄門が言った。

「分かったわ!気を付けて!」ブレインは海条を担ぐと部屋から出ていった。


 部屋には黄門とチロブが残された。

(ただの人間がのこのこと殺されに来たか)

「俺をただの人間だと思ったら大間違いだぜ」

 そういうと黄門は両腕を広げ、片足を前に出した。気を集中させた。すると、両手に二本の深緑色の剣が出現した。

 右手にはすらりと伸びる長剣。左手には短剣。それらは、オルガの使う大剣と似た雰囲気を持っていた。

(なっ!?)その剣を見たチロブは驚愕した。(貴様、まさか・・・)

「さぁ、かかってこいよ」

(ヤツの仲間か!?)

「来ないなら、こっちから行くぜ!」

 黄門は駆け出した。それは人間では到底出せないスピードだった。チロブは身構えることもできず、長剣によって切りつけられた。

「ぐっ!」チロブが身もだえていると、

「そら!そら!」間髪いれず次の攻撃が繰り出された。一撃一撃の威力はオルガの大剣には及ばないが、攻撃スピードはずっと上だった。ゆえに、一定時間に多くの手を繰り出すことができる。

「ぐはっ!」チロブは既に10発の斬撃を受けていた。(ばかな・・・俺よりもスピードは上か!?)

「ホラ、どうした?俺ばっかり攻撃してちゃ不公平だから、お前にも攻撃させてやるよ」黄門は長剣を振るう手を止めると、余裕そうに両手を広げた。

(この・・・人間風情が!!)「はぁぁぁっ!!」チロブは勢いよく槍で突いてきた。

「遅せえよ」黄門は攻撃を短剣で受けた。「攻撃ってのはな、こうすんだよ」

 うろたえるチロブに、さらに立て続けに10発、長剣による攻撃を浴びせた。

(コイツ・・・俺を完全に上回ってやがる。ここは一旦退却して、上級メンバーらに報告だ)チロブは勢いよく跳躍し、窓ガラスを破って外に逃げ出した。

「逃がさねえ、ゾ!!」黄門は後を追って窓ガラスを飛び出した。

 チロブは翼を羽ばたかせて飛んだ。

 黄門は窓から跳んだ次の瞬間、変身した。緑色の光の中から、一体の戦士が現れた。そのしなやかな体つきは、龍を思わせる。

 戦士並外れた跳躍力であっという間にチロブに追いつき、その背中を長剣で切りつけた。チロブは運動場に落ちた。戦士も運動場に降り立った。

 運動場にいた人々は、チロブと戦士の姿を見ると悲鳴とともに逃げ出した。そこには二人以外誰もいなくなった。

「ハアッ、ハアッ」チロブは息も絶え絶えに、一層うろたえた。戦闘への集中力すらも失いかけていた。

「必殺・・・」戦士は長剣と短剣を交差させて構えた。

「グレートドラゴンライトニングスラッシュ!!!」目にも止まらないスピードで駆け出し、緑に光る長剣をもって相手を一瞬にして斬った。

 チロブの体から火花が散り、次の瞬間爆散した。幸い周囲に人はいなく、負傷者は出なかった。

 緑の炎が、めらめらとグラウンドから上がった。


2.


 その後のこと。

 

 今回の事件で襲われた生徒たちは全員一命をとりとめ、一カ月ほどで完治した。しかし、このとことがトラウマになり、しばらく学校を休んだり転校したりする生徒もいた。

 石渡教頭は罪の意識から自首した。学校からは解雇処分を受けた。そのことを知った海条は心が痛んだ。石渡自身も被害者であったからだ。


 海条自身は体内のオーシャンストーンの力により早く怪我が治った。あの時、黄門が現れた場面がかすかに記憶に残っていた。

 海条が入院しているとき、ブレインと黄門が見舞いに来た。

「あれからメンバーはどうなったんだ?」海条はブレインに尋ねた。

 すると黄門がその後のいきさつを話した。自分がチロブを倒した話を。

 それを聞いた海条は天と地がひっくり返ったかの如く驚いた。「ええ~!?おっ、おまえが?」

「そうだよ。おかしいか?」

「いや、おかしいというか・・・」黄門が戦う姿を想像してみるとどうしても違和感があった。

「ついこの前、あたらしい石ができたのよ。その名も『エアストーン』。黄門の体に適合するように調製したのよ」ブレインが付け加えた。

「いやぁ~最高だったぜ。なんかこう、パワーがふつふつとみなぎってきてよ、カッコいいヒーローになった気分だったな。楽しかったよ、とにかく!」

「・・・なんでこんなやつに力を与えたんだ?」海条は冷めた眼差しを向けた。

「あっ!てめえ、こんなやつって言ったな?お前だって戦い初めはナヨナヨだったくせによ!」黄門がじゃれるように海条に掴みかかった。

「何で知ってんだよ!?」海条が仕返しした。

「ほら、よしなよ二人とも。ここは病院よ」ブレインが二人を止めた。

「まっ、とにかくこれからは戦士仲間としてもよろしくな!ウ・ミ・ジョウ!」

「・・・なんかなっとくいかんなぁ・・・」海条はブツブツと独り言を言った。

「もう、王牙ったら、シャキッとしなさい!」ブレインが海条の背中を叩いた。

 

 こうして、第二の戦士が誕生したのだった。 


第17話へつづく

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