第15話「学校に潜む怪人」-Chap.4
1.
文化祭でメンバーによる事件が起こった翌日、9月16日。朝に文化祭2日目が予定通り決行される旨が生徒全員に連絡された。
「結局決行か・・・」連絡を受けた海条王牙は、何となくそうなるんじゃないかという予想が当たった、という思いだった。
「じゃあ、今日は私見に行くわ。あなたのクラスの劇は、確か午後だったわよね?」ブレインは昨日言った通り文化祭に行くつもりだ。
「ああ、構わないが、くれぐれも俺とお前がトライブに関係してることを知られないようにしないとな」
「私前から思ってたんだけど、トライブと戦っていることを他の人に話さないのは、何か理由があるわけ?あなた、お兄さんにも言ってないじゃない」
「いや・・・何か、普通の人間じゃないと思われたくないというか・・・」
「ふうん、よくわからないけど、あんたの言う通り気を付けるわ」
「頼むぞ」
「じゃあ、学校で!」
「うん!」
そして海条は学校へ向かった。
2.
海条のクラスの劇は、午後2時の開始である。午前中、海条と黄門銑次郎は校舎内の人目に付かない場所で話した。
「おかしいと思わないか?昨日あれだけのことがあったのに、今日も文化祭は決行だ」
「確かに、それは俺も思った」
「つまり、この事件には学校関係者が絡んでいる。俺はそう見た」
「うん、ありそうだな」
「特に教員のお偉方だ。文化祭のやる、やらないを決める権限を持ってるのはそいつらだろうからな」
「うん・・・。ところで、昨日も言ったが、お前は何でこの事件に深入りしようとするんだ?・・・襲われた生徒の中にお前の彼女でもいるのか?」
「そんなんじゃねえよ。まあ何というか・・・仕事だからかな」
「仕事?何の?」
「ところで海条、もう一度中庭を見に行くぞ。昨日から変化がないか確認だ」黄門は話をそらすようにそう言うや否や、歩き出した。
「あ、ああ」海条は後について行った。
中庭は、相変わらず規制線が張られていた。周りに人もいなかった。
「変化はなし、か」黄門はつぶやいた。
「そうだな」海条はそれに返した。
「文化祭を決行したということは、今日も人が襲われる可能性が高い。俺はそう踏んでいる」
「確かにな」
「問題は場所だ。どこを襲うかだよな」
「ここではなさそうだな。昨日のように人が大勢いるわけじゃないし」
その時、
「おーがっ!」誰かが海条の背中を叩いた。
突然のことにびっくりして、海条が振り返ると、そこにはブレインがいた。
「おわっ!お前、何で?」
「なーに驚いてんのよ。今日行くって言ったじゃない」
「だけどさ・・・まさかこんなところで・・・」海条は狼狽した。
「あら、そちらはお友達?」ブレインは黄門の方を向いて言った。
「おっ!海条の妹?」黄門が普段通りのテンションで言った。
「そう!妹のカヤです!」ブレインはニッコリ笑って挨拶した。
「おおーう!海条、いいなあお前!こんなかわいい妹がいてよ。何で言わなかったんだよ」
「いや・・・それはだな・・・」海条はまだ狼狽している。
「いつも王牙がお世話になっています!・・・あれっ、ここってもしかして昨日王牙が言ってた事件の現場?」ブレインが中庭を指して言った。
「ああ、そうなんだよ。まったく、ひどいことするよな」黄門が言った。
「かわいそうに・・・」ブレインが悲しそうな表情をした。
もはや海条は二人の会話から取り残されている。ブレインがいつボロを出すかと、気が気でなかった。
「カヤちゃん、何か食べた?俺がおごってあげようか?」
「まあ、いいの?じゃあ、お言葉に甘えて、いただこうかな」
「行こか」
「うん!」
黄門とブレインは校舎の中へと歩き去った。海条は呆然と立ち尽くしていた。
海条はその場で数分ほど立ち尽くしていたが、もうどにでもなれと思い、二人の後を追うこともなく、浜松らと一緒に行動することにした。
12時頃。海条たちは、昨日途中で中止された「Black And Blonde」のライブを見に行った。昨日惜しくも演奏できずに終わったラストのオリジナル曲も今日は無事演奏された。
「なかなかいい曲だったよな」野外ステージからの去り際、出店で買ったアメリカンドッグを食べながら浜松が言った。
「うん、すごい完成度だったよな」海条もクレープを食べながら、感心したふうに言った。
「ところで海条。昨日の怪人の事件だけどさ」浜松が話題を変えた。
「ああ」
「7月に俺らが旅行した先でも、怪人が出たろ?あれと同じだったりするのかなあ。仲間というか」
「かもしれないな」
「もしそうならさ、あの怪人ってのは、日本中にいるってことなのかな?そう考えると、気味悪いな」
「そうだとしたら怖いな」海条は浜松に対しても下手なことを言わないように意識した。
それから、海条たちは模擬店を回ったり教室展示を見たりしてぶらぶら回っていた。校舎内で、黄門とブレインとは一度も出会わなかった。午後1時になると、劇の最終調整をするために、控室へ行った。
「海条君、昨日の演技良かったよ!ずっと練習してきた甲斐があったね!」香村水里が笑顔で話しかけてきた。
「今日もその調子で頼むよ!」
「りょーかい」海条は少し力なく答えた。
役者と裏方はみな体育館の舞台袖へと移動した。海条は黄門がいないかと舞台袖を見渡したが、その姿はなかった。
かくして、海条のクラスの二日目の発表が始まった。
舞台の幕が開き、暗転。
「昔々、イギリスにパルフィールドという由緒正しき貴族の一家がありました。パルフィールド家には、それはそれは美しい一人の娘がいました。名をジェーンと言いました。・・・」というナレーションにより始まった。
ジェーン役の女子が、舞台袖からゆっくりと出てきた。スポットライトがその女子に当てられる。
「はぁ。今日もバイオリンのお稽古に、ラテン語のレッスンに・・・もう退屈でなりませんわ。幼きころの生活と何も変わらないんだもの。ああ、何か刺激的な、面白いことが起こらないかしら。そう例えば、素敵なお方と巡りあったり・・・」と、ジェーン役がセリフを言う。
ひとつの場面が終わると、再び暗転した。次に明転するときは、海条が登場する番だった。海条は少し胸を高鳴らせながら、舞台袖でスタンバイしていた。
その時だった。
客席から悲鳴が起こった。
照明が本来のタイミングとはずれて明転された。客席には、コウモリのメンバーが観客の一人を捕えていた。
そのメンバーは、チロブとは少し違う姿をしていた。
観客はみな体育館から逃げようとした。舞台袖も騒がしくなり、逃げ出すものもあった。
メンバーを見た海条はタイミングと場所の悪さに、舌打ちをした。しかし、グズグズ考えている暇はなかった。周囲の反応など気にしてはいられない状況だった。海条はすぐに意を決して、メンバーへと走った。
「やめろぉお!」海条はメンバーを背後から腕を回して動きを封じようとした。
「ぐ、誰だ貴様!放せ!」メンバーは人間の言葉を話した。
海条は右手に剣を出現させると、左腕でメンバーの体を抑えながら、背後を切りつけた。
「ぐあっ!」メンバーはその一撃で床に倒れた。
「逃げて!早く!」海条は襲われた観客に傷がないことを確かめると、出口へと体を押した。観客は出口から逃げた。
「き、貴様は!?」海条を見たメンバーは驚いて言った。「なぜ・・・君が?」
海条にとってそのメンバーの声は聴き覚えがあった。だが、すぐには思い出せなかった。
「ともかく・・・殺さねば・・・」メンバーは小声で言うと、右手に細くて鋭い刃のついた槍を出現させると、海条に向かって突いた。「はあっ!」
「おっと!」海条は、それを避けた。変身せずとも、避けられる攻撃だった。海条は相手の戦闘能力が大して高くないことを悟った。
「くそっ!はああっ!」メンバーは再び突いてきた。馬鹿正直に、真正面から攻撃してきた。戦闘に関して素人であることが伺い知れた。
海条は再び避けた。変身しなくても倒せると思ったが、念のために変身した。海条はオルガになった。
「!?」変身する様子を見て、メンバーはまた驚いた。その時、チロブから言われたある忠告を思い出した。
その忠告とは、
「いいか、この学校には、海条王牙という生徒が居るはずだ。そいつは、今我々の敵対組織と手を結び、戦闘能力を手に入れている。奴は、人間から戦士へと姿を変えて戦う。お前では到底敵わぬ相手だから、遭遇した時は気を付けることだな」というものだった。
それを思い出したメンバーは、途端に恐怖心が体中を駆け巡った。それまで、人間を襲うことしか考えない怪物のだった心が、元来の人間の心を取り戻したのだった。このままでは死ぬ、と思った。目の前を見ると、その戦士が自分に向けて攻撃するべく剣を構えていた。
「まっ、待ってくれ!降参だ、降参!攻撃しないでくれ!」メンバーは、両手を上に挙げて叫んだ。
その声をきいた海条は、相手が誰であるかがようやく分かった。昨日、黄門と一緒に中庭を調べていたときに現れた、教頭の石渡の声だったのだ。
「これには訳があるんだ!わ、私は怪人に遭って、心と体を支配されていた。怪人の操り人形になっていたんだ。私に罪があることは否定しない。でも、どうか・・・どうか見逃してくれぇぇ」そう言うと、怪人は人間の姿に戻った。それはやはり、石渡だった。
オルガは、振り上げた剣を下すと、自分も変身を解いた。「先生・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・」石渡はすっかり腰が抜けて、呼吸も乱れていた。最早、戦う気力などまったく残っていなかった。
海条は石渡から自分を操ったという怪人の特徴と、怪人とこれまでどのような接触をしてきたかを、事細かに聞き出した。最後に、
「先生、あなたを信用しますよ」と言うと、体育館を出ていった。
3.
体育館から出た海条は、早速黒幕となるメンバーを探し始めた。石渡の話によると、つい先ほど黒幕から襲撃の指令が出た、とのことだった。よって、今この学校のどこかに居る可能性がある、と海条は考えた。
何か手掛かりはないか、と頭を働かせた。石渡は、自分も黒幕もコウモリの性質を持つメンバーだと言っていた。大抵は暗くなってから活動するため、自分が黒幕に初めて遭遇した時も、何度かにわたって密会したときも、すべて夜だった、とのことだった。
暗くなってから活動する。つまり、光が苦手なのか。とうことは、今校内に居るとしたら、明かりが点いていなく、かつ太陽も差さない暗い場所。そのような場所は・・・。
海条はある場所に向かって走り出した。黒幕が身を潜めていそうな、暗い場所。
それは、校舎の最上階にある一室だった。
第16話へつづく
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