第14話「黄門と海条」-Chap.4

1.


 校舎裏に現れたのは、午前の劇では姿を見せなかった黄門銑次郎だった。

「よう、海条。考えごとか?」黄門はいつもの調子で話しかけた。

「黄門」海条王牙は少し驚いた。続けて、

「何でこんなとこにいるんだ?それに、劇の裏方はどうした?」海条は尋ねた。

「ちょっと、いろいろあってな・・・。それより、大変なことになったな」黄門は神妙な表情になった。

「ああ、まさかうちの学校にまで・・・」海条は黄門に同調した。

「襲われたうちの何人かはかなり重症だそうだしな、こりゃタダゴトじゃねえ」

「まったく・・・許せねえよ」この時海条は危うく自分がメンバーを追っていることを言いそうになったが、黄門にそのことを聞かれてはまずいと思い、抑えた。

 少し経って、黄門が口を開いた。

「海条、中庭を見に行くぞ」

 中庭は、生徒がメンバーに襲われた現場である。

「え!?おまえ・・・それはよしたほうがいい。危ねえって」

「現場をよく見てみたいんだ」

「また襲ってくるかもしれねえって」海条は一般人である黄門にトライブ絡みのことに足を踏み入れられたくなかった。

「大丈夫。ちょっと見るだけさ」そう言い終わらぬうちに黄門は歩きだしていた。

「おい!ちょっと待てよ」海条は後を追いかけた。


 生徒が襲われた事件があってから、すぐに文化祭は中止になり、生徒および来客は帰宅するように指示された。そのため、現在校内に人気はなかった。

 校舎の中庭には規制線が張られ、警察が現場の調査をしていた。海条と黄門は中庭の見える校舎の影から様子を伺った。

「警察が解散してから、見に行くしかないな」黄門は小声で言った。

「どうしてそんなに気になるんだよ、この事件のこと」

「生徒を襲った『怪人』ってのがどんなのかを知りたい。ホラ、前にニュースで何度かやってた、駅前で起こった事件も同じ怪人がやったんじゃないかと、俺は踏んでるんだ」

「・・・そこまで言うなら俺は止めないけど、もしものことがあったら逃げろよ」

「お前もな」

 夕方5時ごろ、警察は一旦引き上げていった。中庭には誰も居なくなった。

「よし、今だ!行くぞ」

 黄門は音を立てずに早足で中庭に行った。海条も後に続いた。

「誰か来たら、すぐにずらかるぞ」海条は黄門に呼びかけた。

 規制線の後ろから、二人は事件現場を見た。生徒が倒れた場所にはマークがされていた。その他、いくつか警察による調査の跡が残っていた。

「正直、見ても得られる情報は何もなさそうだぜ」海条が言った。黄門を一刻も早くこの場から離れさせたかった。

「いや、実をいうとな、ここに居ればまた怪人のヤツが来るんじゃないかと思ってるんだ」

「バカ野郎!おまえ、もし来たら死ぬかもしれないんだぞ!」海条は声を落としつつ、語気を強めて言った。

 そのとき、

「何をしているんだ!君たち!」怒鳴り声がした。その声の主は校舎の中から現れた。

 それは、教頭の石渡いしわたりだった。

「やべっ!」海条は走って逃げる体勢を取った。しかし、黄門はその場から動かなかった。

「おい!黄門逃げんぞ!」海条は黄門を促した。

「生徒は全員帰宅すように言ったはずだ!なぜここにいる?」石渡は二人を叱責した。

「教頭先生こそどうしてここに?」黄門は動じる様子もなく、逆に質問を返した。

 海条は仕方なく逃げるのをやめて、黄門のそばに残った。

「今回の事件について緊急で会議を行っている。そのため、教員は全員残っている」

「そうじゃなくて、どうして教頭先生はここにいるんですか、と聞いてるんです。会議しているなら、会議室にいるはずですよね?」

「私は、現場の状況を確認するために今来たんだ。話し合いに必要な材料だからな」

「ふうん。ところで先生、『怪物』についてどう思います?」黄門は畳みかけて質問した。

「もういいだろう!さっさと帰りなさい、君たちは。邪魔だ!」石渡は黄門の質問に答えず、二人に指示した。

「ま、こんなもんだな。じゃ、帰りまーす、先生」黄門は軽い調子で言うと、中庭を去っていった。海条も後をついていった。


 二人は校門へと向かった。

「説教もほどほどに、帰りなさい、か。そんなもんかねぇ」黄門は独り言を言った。

「お前そんなに度胸あるとは知らなかったよ、教頭相手に」

「まあな」

「何であんな質問したんだ?」

「ちょっと気になることがあってね」

「気になること?」

「まぁ、それは明日になれば分かる・・・かもな」

 海条は黄門がここまで事件の解明にのめり込む理由が分からなかった。また、彼のせいでメンバー探しがやりづらくなるな、と困った。

 二人は各々帰宅した。


 海条と黄門が去った後の中庭。教頭の石渡はとある「約束」のために指定の時間まで待っていた。

 先ほど二人に言った、会議というのは全くの嘘である。校舎の中には教員もだれ一人残っておらず、校内にいるのは石渡一人だけである。

 石渡は一人だけになる必要があった。「約束」の中身を誰にも見られてはいけなかったからだ。

 約束の午後6時になると、天から何かが降りてきた。

 それはコウモリのメンバーだった。

「ああ!これはこれは、チロブ様!」石渡はメンバーの前に跪いた。

「約束のものは?」コウモリのチロブは、石渡に尋ねた。

「はい!こちらに」石渡はチロブに小さな瓶を数本渡した。

 その瓶の中には、血が一杯に入っていた。数時間前、まさにこの中庭で襲われた生徒の血である。

 チロブはそれを荒っぽく取り上げると、瓶のふたを開けて中の血の匂いを嗅いだ。

「うむ、確かに人間の血だ。ご苦労だったな」

「ええ!ありがとうございます」

「明日もこの校内で人間を襲え。誰でも構わん。ただし、今日とは違う人間のをな。二、三人分だ。分かったな?」そう言うと、チロブは新しい瓶を石渡に渡した。

「はい!承知いたしました」石渡は深く頭を下げた。

 チロブは羽をはばたかせて再び天へと去っていった。


2.


 その夜。海条宅の王牙の部屋にて。

「結局今日はメンバーを見つけられなかった。何か手掛かりさえあったらなー」海条は悔しそうに言った。

「今回のは飛行するタイプらしいからね。なかなか見つけづらいと思うわ」ブレインが言った。

「うーむ、どうしたものか・・・」

「なぜあなたを狙わず、他の生徒を襲ったのかしらね?」

「そうすれば、すぐに俺が駆けつけるから、探す手間が省けると思ったんじゃないか?」

「うーん、それ違う気がするのよね。今回数人の生徒が襲われたんでしょ?あなたをおびき寄せるためだったら、一人でいいじゃない。なぜ数人も?」

「・・・本当だ、確かに。・・・うーん、でも、あいつらにとっては一人も複数人も、同じことだからじゃないのか?」

「いえ、奴らはどちらかというと計画的に行動するのよ。あなたをおびき寄せる餌として人を襲うにしても、必要最低限にとどめるはずよ」

「・・・ということは、今回のは複数人が必要最低限だった、ってことか」

「そうね」

「だったら、俺をおびき寄せるため、っていう線は薄いな」

「そう。そして、なぜ複数人か、よね」

「うーむ」

 二人はしばし沈黙した。

「ところで、劇の発表はどうだった?うまくやれた?」

「ん?ああ、まあまあだったよ」

「何よそれー?・・・明日は私も見に行こうかな、メンバーの件を調査しがてら」

「まあ、別にいいけど・・・でも明日の文化祭、決行されるか分からんしな」

「楽しみにしてるわ」

「期待しないでくれな」

 その夜の二人の会話は以上のようなものだった。


3.


 チロブは、石渡から渡された血を持って空族のアジトへと戻った。アジトに入るとチロブは、

「ほれ、人間の血だ。ざっと三人分。これで、強力な戦士を生み出せるってことだったよな?」とアジトにいる他のメンバーに瓶を見せた。

「ご苦労だった。早速実験に使うぞ」死体蘇生係のメンバーが瓶をチロブからもらった。

「しかしこれで、本当に強力な戦士が生まれたら、大発見だな」フクロウのメンバーが言った。

「でも、そんなヤツができたとしても、考えもんだぜ。だってほら、人間ベースで蘇生されたメンバーはみな凶暴すぎて手に負えなかったじゃねえか」チロブが反論した。

「そこは、私の調整次第でどうかするつもりだ。それも、実験課題の一つだからな」死体蘇生係が言った。

「でも楽しみだぜ。もし、強力で、なおかつ俺らに逆らわないメンバーが誕生したらな」チロブがヒヒヒ、と笑いながら言った。



第15話へつづく








   

 

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