第13話「文化祭」-Chap.4

1.


 7月から港陽市で起こった謎の怪人による数度の事件はニュースになった。初めてニュースになったのは7月の中頃のことだった。場所は港陽駅前の大通りだった。その時報道されたのは街で人々を襲う怪人の姿だった。それは現場にいた人が撮影したものだった。

 二度目に報道された時も場所は駅前大通りだった。その時は怪人だけでなく、怪人と戦っていた一人の少年の姿も映っていた。

 この二度にわたる「怪人」の事件について、ニュースキャスターや犯罪の専門家や生物学の専門家たちは、さまざまな議論を交わした。人間が着ぐるみを着て怪人になりすましたのだとか、現存する生物が進化したものかもしれない、などなど。さらに、二度目の事件で怪人と戦っていた少年については、とても正義感の強い少年だ、などと評価した。報道のたびに、最後にニュースキャスターは、「外出する際は、不審な人物や得体の知れないモノに気を付け、身の安全を自分で守りましょう」と締めくくった。


2.


 9月15日、文化祭1日目。海条王牙のクラスの劇は、午前のプログラムでの発表だった。

 初日の発表が終わると、海条は終了時刻まで他のグループの演劇を見たり、模擬店を覗いて回ることにした。海条は、浜松ら3人の友人と一緒にぶらぶら回った。黄門銑次郎はなぜか劇の裏方にも出ておらず、姿が見当たらなかった。

「お前の演技、なかなかのもんだったよ。お前もしかして、俳優になれるかもよ?」浜松が冷やかし半分に言った。

「バカ言え!俺が俳優になれたら、誰だってなれるよ」海条は言った。

「ハハハ!なぁ、ところで、次はどこ行く?」

「そうだな・・・運動場のステージで、軽音学部のライブがあるらしいぜ。たこ焼きでも買って、それつまみながら見ようや」海条は提案した。

「いいな、そうしよう」浜松は賛同した。

 4人は各々模擬店で買った軽食を手にし、ステージへと向かった。ステージの前にはパイプ椅子が50席ばかり用意されていたがすべて満席だった。

「うわー、混んでんなぁ」海条は客席を見渡して言った。

「次の演奏が、軽音部で一番人気のバンドだからな。うちの生徒だけじゃなて、外からのお客さんも多いぜ」浜松は言った。

 4人は客席の後ろで立って見ることにした。程なくして、次のバンドがステージに上がり、演奏の準備を始めた。準備ができると、

「えー、みなさん!本日は僕たち『Black And Blonde』のライブに来てくださり、本当にありがとうございます!一曲目、聴いてください!」ボーカルがマイク越しに言うと、1曲目が始まった。今若者に人気のバンドのコピー曲だった。

 部で一番人気のバンドだけあって、演奏技術はさることながら、観客を引き付けるテクニックも備えていた。海条たちも音楽に乗りながら掛け声をかけた。

 1曲目が終わると、ボーカルが簡単にMCをして2曲目が始まった。これも今若者に人気のバンドのコピーだった。

 場の盛り上がりが最高潮に達したところで演奏が終了した。バンドメンバーは客席に手を振ったり挨拶をしてステージから降りた。すぐに客席からアンコールの声がおこると、メンバーは再びステージに上がった。

「アンコールありがとう!次の曲はですね、僕ら4人が作詞作曲したオリジナルをやります!曲作りは大変でしたが、自分たちの思い描いた最高の一曲ができました!それでは聴いてください・・・」ボーカルが曲名を言おうとしたその時、

 校舎の方から人の悲鳴が聴こえた。


 悲鳴のあがった方から多くの人が運動場へと押し寄せてきた。皆、何かから逃げるように必死に走っていた。

 演奏を始めようとしていたバンドメンバーも海条たちを含めた観客も、みなその押し寄せる人の波の方を向いた。

 何かを予感した海条はすぐに校舎の方へと走った。浜松らも後から付いてきた。

 事件は校舎の中庭で起こった中庭には、血を流して倒れている数人の生徒があった。しかし、生徒に加害したと思しきものは見当たらなかった。

「おい、何が起こったんだ!?」海条は現場に群がる生徒の一人に尋ねた。

「怪人だ。怪人が突然現れて・・・中庭にいた生徒を槍のようなもので突き刺したんだ・・・そしたら飛び去って行った・・・信じられないよ」その生徒は答えた。

「飛び去って行った?」海条は生徒を襲ったのは空族のメンバーの可能性があると思った。

「うわぁ・・・ひでぇ・・・見てらんないよ」あとから追いついた浜松が背後から言った。

 次の瞬間、海条は駆け出した。怪人を追跡するためだった。

「おい、海条!」走り出した海条を見て浜松が叫んだ。

 海条が校門を抜けたとき、向かいから来た救急車とすれ違った。


3.


 校門を抜けた海条はテレパシーを使ってバディアに尋ねた。

「バディア!俺の学校にメンバーが現れた。どうやら校舎から飛び去ったらしいんだが、どこへいったか分かるか?」

 バディアからの返事は、すぐに来た。

「俺も今追跡している。校舎から飛び去ったところまでは確認できたが、すぐに気配が消えた。・・・つまり、それほど遠くまで行ってないようだ」

「本当か?じゃあ、学校の近くにいるってことか?」

「その可能性が高い」

 海条は今にもメンバーを探しに出たい気持ちだったが、それをこらえて、

「何か手掛かりはないか?」

「そうだな・・・一つ考えられるのは、そのメンバーは人間に姿を変えられる可能性が高い、ということだ。なぜなら、飛び立ってすぐに気配が途切れたからだ。俺は怪人体のメンバーの気配しか察知できない」

「人間に姿を変える・・・つまりそいつはあのコープニスと同じように、かなりできるヤツってことか?」

「確かではないが、その可能性も考えた方がいいな」

「そうか。ありがとよ!」

 ここで二人の会話は終わった。

 海条は学校周辺を探索した。学校の周りは住宅地になっているので、当たりが見渡しづらかった。大きな通りを一周して探した後、小さな路地をくまなく探した。

 海条はこういう時、学校の友人や一般人に助けを求められない。人には話せない事情だからだ。

(くそっ・・・それらしきヤツが見当たらない。そもそも人間体になっている可能性もあるわけだから、余計に見つけづらい・・・)走る体力に限界がきて、海条は立ち止まった。

(それにしても、なぜ俺の学校を襲った?俺が通っているし、時々ブレインも出入りしているからか?だったら・・・俺だけを探し出して、倒せばいいじゃないか。なぜ関係のない生徒を襲うんだ!)疑問とともに怒りが腹の底からこみあげてきた。

 

 海条は、学校周辺を探すのをあきらめ、学校に戻っていった。もし次に、学校を襲った時に戦えばいいと思ったからだ。これでせっかくの文化祭も心から楽しむことはできなくなった。いつメンバーが来るかと、常に神経を張り詰める必要が出てきたからだ。

 海条は、校舎の裏手に行った。次にメンバーが襲ってきたときの作戦を考えるためだった。壁にもたれてしばし考えていると、

「よっ、海条。考えごとか?」聴き覚えのある声がした。

 見ると、今日しばらく姿を見せなかった黄門銑次郎が立っていた。


第14話へつづく

 

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