第4話「リベンジ」-Chap.1

1.


 どれだけの間気を失っていただろう。

 海条王牙うみじょうおうがが目を覚ましたのは、磨かれた石でできた台の上であったであった。バディアの隠れ家の中の一室である。

「気が付いたのね」

 声のする方をゆっくりと顔を向けるとそこにはブレインが居た。

「ごめんね。もっと早く駆けつけていれば、大けがせずに済んだかもしれないのに」ブレインは申し訳なさそうに少しうつむいた。

「ああ・・・今はいつだ?」

「蜂の『メンバー』との戦いで、あなたが気を失ってから丸一日近く経ったわ。随分体力を消耗してたのね。でも、腕のけがはほぼ治ったわ。あなたの中にあるオーシャンストーンはそのぐらいの怪我だったら修復する働きもあるのよ」

「へえ・・・便利だな」

「今回は前のようにはいかなかったのね?」

「変身するのが一足遅かったんだ。最初は様子見のつもりで変身しないで戦ったんだ。そうしたら、針で刺されて・・・」

「ヤツは強力な毒針に加えて飛行能力も持っているわ。これまでの『メンバー』とはタイプが違うみたい」

「確かにそんな感じはしたな。・・・ところで、さっきから言ってる『メンバー』ってのは?」

「『トライブ』の構成員のことよ。つまり怪人。トライブは基本的に戦士から構成されているわ」

「戦士・・・つまりそいつらは戦闘民族みたいな感じか?」

「そういうことね。そしてトライブは3つの種族から成っているの。海を司る『海族』、空を司る『空族』、そして陸を司る『陸族』。あなたが以前戦ったイカとクラゲのメンバーは『海族』で、今回の蜂は『空族』だと思われるわ」

「3つの種族か。一体何者なんだ、そいつらは?」

「それはね・・・」

 そうブレインが言いかけたところで、バディアが隣室から入ってきた。

「目が覚めたか」

「ああ、今回はひどい目にあったぜ。戦うんじゃなかったと後悔してるよ」

「だがお前はまた自分の正義感から戦いに臨んだ。しかも前のように俺が指令を下さなくともだ。これはもう、お前は我々に協力することを決めたという意志表示ととらえていいな?」

「勝手に決めるな。・・・でも襲われる人々をほっとけないのは確かだ」

「お前は他の人間と違い、戦いに対する根気強さも持ち合わせているようだからな。普通なら諦めるところをお前は踏ん張って立ち向かう。その意志が我々には必要なのだ」

 しかし海条はまだ正義感と戦いに対する恐怖がまぜこぜになっているような心境だった。意志が完全に固まってはいなかった。

「それはそうと、薬を持ってきた。こいつを飲めば傷は完治するし、体力も元に戻るだろう」そういってバディアが差し出したのは小さな瓶に入った黒色の液体だった。

「・・・怪しいな。飲んだら逆に死ぬんじゃないのか」

「信用できないか?」

「大丈夫よ、海条。これはオーシャンストーンの力を再活性化させるための薬なの。今は戦いの後でちょっと石の力が弱まっているからね」

「君がそう言うなら、じゃあ・・・」と海条は小瓶を受け取って液体のにおいをかいでみた。

「心配するな。お前にとって毒となるものは入っていない」

 海条は一息にそれを飲み干した。その後、驚異的な味が舌を襲い、海条は台から転げ落ち悶絶した。

「ぐはぁっ!・・・ゲホッゲホッ。・・・本当に毒はないんだろう、な?」


2.


 人がほとんど立ち入ることの無い、とある山奥。そこはかつて100人ほどの人が生活する集落があったが、空族によって襲撃され全滅した。空族のメンバーたちは残った家屋を自分たちの住処としていた。

 夜明け近く、その住処の一つに蜂のメンバーが帰ってきた。

「どうだった?例の戦士は仕留められたか?仕留めたらその死体をもってくる約束だったはずだが、手ぶらだな」コウモリのメンバーが尋ねる。

「いいところまで行ったんだが、ちょっと油断してな。危うくこちらがやられそうになったんで、一旦退却したのさ」

「へっ、情けない。海族の連中がヘッポコなのは知っていたが、まさかお前までヘッポコとはな。変身してパワーアップするとはいえ、元はただの人間じゃないか。仕留められないほうがおかしいぜ」とフクロウのメンバーが言う。

「ヤツが体内にもっているはかなり強力なようだった。通常の人間では到底出せない力を引き出せる」

「ふむ、やはり元『王族』の者が作った《力の源》は、相当なものだとということか」コウモリが言った。

「まあでも、ヤツは変身しても俺が十分に倒せる程度と見た。今度こそは必ず息の根を止める」蜂のメンバーが意気込んだ。


3.


「俺、行くよ。もう一度ヤツと戦う」

 海条は立ち上がった。

「えっ?もう少し休んだほうがいいわよ。ここにいれば襲われることもないし」ブレインが彼を止めた。

「いや、こうしている間にも人が襲われていそうな気がするんだ。そう考えると、落ち着かなくて」

「・・・」

「・・・いいだろう。もう怪我は完治したし、体力も回復したはずだ。問題なく戦える状態だ」バディアは言った。

「うん。今度は最初から変身して全力で行く。バディア、敵の居場所を教えてくれ」

 バディアは目をつむると、深く集中した。そして、蜂のメンバーの位置を突き止めた。

「敵は移動中だ。昨日、お前と戦った場所に向かっている。そこまで俺が連れていってやる」

「わかった。頼む」

「待って!私も行くわ。きっと役に立てるから」とブレインは言った。

「それは危険だ。お前を敵のもとに送ったら捕まるリスクが生じる」バディアは止めた。

「私は海条を助けられずに怪我させてしまったことが悔しいの。だから、戦いの手助けをしたい!」

「・・・そこまで言うなら許そう。ただし、俺もそこに行く。万が一のときのためにな」

「決まりだな、行こう!」海条は力強く言った。

 時刻は午後8時だった。


4.


 午後8時ごろ。蜂のメンバーは昨日と同じ場所に向かって飛んでいた。

(ヤツを探すなら、まずはあの場所からだな。あの付近にいる可能性が高い)

 昨日襲った旅館の付近に到着すると、地面に降りた。人がほとんどいない林の中だった。

(さて、どうやって探すか・・・)例の戦士を探しながら林の中を歩いていると、

 海条王牙が立っていた。その後ろには、ブレインとバディアもいた。海条の目つきは闘争心に燃えていた。

(ハッ!向こうから来やががった。探す手間が省けたな)蜂のメンバーはしめたと思った。

「今度こそはお前を倒す!前のように簡単にいくとおもうなよ!」海条は気合充分に言った。

(ほう・・・楽しみだな)

 言い終わると海条は精神を集中し始めた。するとたちまち、体が青い光に包まれ紺碧の戦士に変身した。

 変身を見届けると、蜂は戦士に向かって突っ込んでいった。腕の針を戦士の顔面に向かって突き刺しにかかった。

 戦士はそれを見切ってサッとよけた。蜂は再び戦士に向かって針を突き刺しにかかった。

 戦士はまたも避けた。蜂は自分の攻撃があたらず、むきになってパンチやキックを振り回した。

 戦士はその攻撃をすべて受けるか避けた。昨日目の前の怪人に追い込まれた姿は、ここにはなかった。

 攻撃が全く当たらない蜂は、振り回す腕や脚を止めた。エネルギーが消耗していた。

(バカな・・・予想よりもずいぶん上を行きやがる・・・)

 その隙を見た戦士は今度は自分の方から攻撃を仕掛けた。腕の針に気をつけて、胸や腹にパンチを何発も入れる。蜂が身を縮めると今度は背中に肘打ちを食らわせた。

 蜂は地面に倒れた。戦士は一気にとどめを刺そうと、剣を手に出現させ蜂の体に刺す構えをとった。

 振り下りてくる剣を渾身の力で避け、背中の羽をはばたかせて上空3mほどに飛び上がった。

 戦士はいくら剣を振るっても宙にいる蜂には届かない。蜂は少し宙で様子見をすることに決めた。

 少し困った後、海条は初めての戦闘を思い出した。イカのメンバーとの闘い。とどめを刺すとき、自分は青い光の力を利用して空高く飛び上がった。

 今回もそれを使おうと、再び精神を集中した。戦士の体からは青い光が立ち上り、剣は青く輝きだした。

 戦士は力を込めて跳躍すると、蜂が浮いている少し上の高さまで飛び上がった。それを見た蜂は驚愕した。飛び上がった勢いを利用して光る剣を横に振って蜂を切りつけた。すると、蜂の体は青い火花を散らし、遂には爆散した。

 戦士は、地面に降り立つとブレインとバディアに親指を立てて見せた。

「私が助ける必要なかったわね」とブレイン。

 バディアはやはり予想通り、といった表情で立っていた。


5.


 その後の話である。

 黄門と浜松は、一足先に地元へと帰っていた。二人は一日遅れて帰った海条に質問攻めをした。

「おい!あれからどうしたんだよ!勝手に消えちまってよ。携帯掛けても出ないし」と浜松。

「俺たちに愛想つかして先に帰ったのかと思ってたぜ」と黄門。

「警察にも言って探してもらったんだからな。でも、全然見つからなかったし」

「まさか俺たちに内緒で、一人で楽し~いことしてたんじゃないだろうな?え?どうなんだ海条?」

「あー・・・これには色々と事情があってだな・・・」と海条は困った様子で返答した。

「あの時ちょっと怪人が現れた現場が気になってさ、戻って見に行ったんだ。そしたら、怪人に襲われて一日くらい気を失ってたんだ・・・」

「なに~!?」

「超あぶねえなお前!?何考えてたんだよ!!」

「あはははは・・・つい好奇心からな」

「好奇心じゃねーよ!」

「マジ危ねーやつだな。生きててよかったよホントに」

「スマンスマン」

 海条が何とか二人を納得させた後、ほとんど遊べなかった旅行二日目の埋め合わせとして、三人はボウリング場で夜まで遊んだ。


 夜7時。海条が自宅に帰ると、家の扉のまえに人影があった。

 不審に思いながらも近づいてみると、

 それはブレインだった。

「やあ、海条!突然だけど、あなたのことが心配だから一緒に住むことにしたわ!」

「・・・ええぇぇ~っ!?」

 海条は驚きのあまり、天にも届かんばかりに飛び上がった。


第5話へつづく

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