第20夜 赤ワインのウイスキー割り
どういうわけか結婚式場で働いている。
今日の結婚式のために集まった人々が待機している控え室のドアを開けた瞬間、私は言葉を失った。正確には絶望した、という方が近いかもしれない。
中は上品な洋風の控え室ではなく、どこかぼろっちい、ただのリビングルームだった。困ったような同僚の顔を見て、あぁ今日は幻術をかけるのに失敗したんだな、と瞬時に理解する。どうも夢の中の結婚式場では、幻術によってきらびやかな空間を維持していたようだ。さぞかしお客さんは怒っているだろうな、と思って部屋を見渡すけれど、そんな様子はない。かえって不気味だった。
何の変哲もないリビングルーム。床にはよく分からない色の絨毯が引かれていて、人々は重厚なソファーではなく、破れて少し中身が出ている、くたびれた皮のソファーに座っている。ソファーの色も1つずつバラバラで、まるで統一感がない。というか部屋全体にそんなものはどこにも見当たらない。
そんな中、ソファーにゆったりと腰掛ける、新郎もしくは新婦の母親とおぼしき人物を見つけたので咄嗟に謝罪する。
「申し訳ございません」
「全然いいのよぉ〜、こっちの方が家みたいで落ち着くわ」
私は一礼して彼女のもとを離れる。辺りを見渡すと、あるゲストに手招きされた。4人ほどの子供を連れた父親だ。
「すいません、赤ワインの……ください」
……の部分はよく聞こえなかったけれど、どうも赤ワインをウイスキーで割ったものを要求されていることは分かった。酒で酒を割るなんて、しかもそこそこ度数の高い酒で?そんな割り方するか?と思ったけれど私は酒に詳しくないし、まぁそこは深く考えないことにする。
なぜか、酒類は外のテーブルに並べてあるので私は外へ出る。
グラスに赤ワインを入れて、さぁウイスキーを入れようと思っていたのにグラスに牛乳を注いでしまった。赤い液体にみるみる広がる白色を見て絶望する。
仕方なくガラスの中身を捨てて、新しいグラスを手に取る。結局何度か失敗した挙句、ようやく赤ワインのウイスキー割が完成した。
混ぜるドリンクを何度も間違えるなんて、私は頭がどうかしてしまったんだろうかと、恐ろしく感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます