第17夜 地下市場の妙な店

ずいぶんと賑やかな場所にいる。屋内の市場だ。何となくここは地下だろうと思う。

出店がたくさんあって活気に満ち溢れている。何人かと連れだってぶらぶら歩いているが、皆知らない人である。

連れが突然ある店の前で立ち止まる。見たところ乾物屋のような店で、海苔がたくさん置いてある。

連れの一人が海苔屋に何事か囁くと、店内に突然階段が現れた。私たちはそこを通って地下へ向かう。



地下の一角には出店に交じってよく分からない店の入り口があった。

一体何の店なのか分からないし、得体が知れない。入り口には店名がなく、白い壁にカラフルな絵の具が無造作に塗られている。水玉模様に塗ってある部分もあれば、適当にブラシで塗りつけたみたいなところもある。

詳しいことは忘れたが、中はもっと意味不明だった。大きなお屋敷のような内装だが、いたるところにものが転がっているし、照明もそんなに明るくない。ちぐはぐな印象を受けた。廊下には大きな窓があって、夜の森が見えた。地下市場から階段を下りてきたところにこの建物があったのに、どうして外の様子が見えたのかは分からない。私たちは店の中を歩き回って外に出た。

ただそれだけの場所だった。





気が付くと駅のホームの椅子に座っている。駅は上に屋根がないタイプなので青空がよく見える。さっきの連れはもういない。



椅子はホームと同じ向きになっていて、2つ隣り合った椅子が5セットくらい縦に並んでいる。こんなにずらずらと並ぶとなんだかジェットコースターみたいだと思う。最近の駅は転落防止のために椅子の向きはホームと同じになっているのは知っていたが、こんなに長く並ぶものだっただろうか。



ふと上を向くと、空からいくつも椅子が降ってきている。私は椅子から立って空から目を離さずに、次々と落ちてくる椅子をよけていく。私の隣に座っていた男性は椅子から動かなかったので、降ってきた椅子に激突されていた。当たったら死ぬわけではなさそうだが何となく痛そうなので私は懸命に椅子をよけ続けた。



しばらくそうやって椅子をよけていると、椅子が降ってこなくなると同時にアナウンスがかかる。

「それでは発車いたします、お乗りのお客様はお急ぎください」

私はあわててホームの椅子に座る。どういうわけだかこの駅では電車ではなく、ホームの椅子が発車するらしい。



椅子はお行儀よく連なって進んでいく。障害物があれば宙に浮いて避けながら、目的地に到着した。それは先ほどの妙な場所がある、地下市場のさらに地下のエリアだった。





人々が行きかうなかに私は1人で立っていた。手には黄色いペンキ缶とブラシを持っている。

その辺を歩いている丸々と太った男に黄色のペンキをひと塗りした。

すると男は泣きそうな顔でこちらを見る。

「あぁ~これで俺も行かなくちゃいけないじゃないか」

この一言で何故か私は、黄色いペンキを塗られたら例の妙な場所に行かなけらばならないのだと感じた。

男がかわいそうになったので私は自分にも黄色いペンキを塗った。

例の妙な場所、というのは冒頭に出てきた、入り口にペンキが塗りたくってある場所のことである。



2人で例の場所に行くと、入り口にはもうすでに何人かが来ていた。先に来ていた何人かは赤いペンキを塗られている。

店員が

「あ、黄色の人はこちらに並んでください」

と言うので私たちはおとなしく並んだ。



気が付くと私はその店で働いていた。さっきの太った男はもういない。

どうやらこの店はアトラクションのような感じで、入ってきた客が歩き回って出ていくだけの店らしい。

順路に従って歩く客の要望を聞くのが仕事のようだ。制服はどことなくメイド服のような気がするがよく分からない。

何人かのお客さんの要望を叶えていると、中学生くらいの女の子に声をかけられた。

「すみません、このハンカチをいい感じに折ってもらえませんか」

「かしこまりました」

私はにっこり微笑んでハンカチを受け取ったが、ハンカチの折り方なんて知らない。

スマホで調べるか、と思うが女の子が見ている手前堂々とスマホを出すわけにもいかないので困った。

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