第10話 ゼロ②
ゼロの家を出て署に向かう間、ずっと考えていた。犯人にフォーカスをと言われても、犯人像が絞れない。
「お、果報は寝て待てだな」
スマホを取り出した山岸は、何故か楽しそうだ。電話に出ると、ふんふん、と話を聞いている。
「中西君、君は素晴らしい」
そう言うと、電話を切った。
「何か掴めたんですか?」
山岸は、勿体ぶるようにムフフと笑う。
「朗報だ。あのゲーセンの近くの病院に、骨折した患者さんが1人来たそうだ」
「でも、骨折くらいなら、いくらでもいるような」
「バカモノ。その中でも、ガラが悪くてゲーセンで骨折した人を探したんじゃ。俺の指示で中西が」
「さすが中西さん」
「違ーう。俺の指示がいいんだ」
チャンスだ。手がかりが掴めるかもしれない。
「その人の所に行きましょう!」
「駄目だ」
「へ?」
想定外の答えに、目が点になる。
「何でですか?!」
「そいつが働いている風俗店は、いま、生活課が内偵中だ。骨折くらいで刑事が聴取に行く事はまず無いだろ?変に刺激して、勘付かれたら終わりだからな」
「どこが、朗報なんっすか」
苛々するのと落胆するので、気持ちがグチャグチャとしてきた。
「怪我する呪いは本当って事だな。ちなみにそいつは、女子高生に声をかけている時に、骨を折ったらしい。嫌がってた女子高生は、助かったーって思っただろうな」
山岸はガムを取り出すと、口へと放り込んだ。
「思うんだけどさぁ」
伸びをする山岸の上に広がる青空には、いわし雲が浮かんでいる。
「犯人は、ヒーロー気取りのイチ君みたいなタイプじゃないかな。あ、悪い意味で」
「意味が全然分かりません」
九山も片瀬も雪村も、真面目なタイプとはかけ離れている。骨折した男も、恐らく同じであろう。
「でも、犯行件数からいうと、誰でもかれでも助けたいと思ってはいないはずだ。つまり、その日の気分でポリシーが変わるイチ君みたいな自己都合タイプか、もしくはイチ君と同じ凡人タイプだ」
「その、俺みたいなって、やめてくれませんか」
「なんで?お前みたいじゃん」
真顔で返されると、上書きできる言葉が見つからない。
「そこで、だ。お前が犯人なら、ターゲットをどうやって選ぶ?」
「え?」
「だから、お前に人殺しが出来る度胸があるとするだろう?目に付いた悪そうな奴を狙うか?それとも、ターゲットを入念に下調べして犯行に及ぶか、想像してみたまえ」
自分なら。何となく悪そうな奴を片っ端から殺すより、殺したい奴だけを手にかける、かな。
「後者ですかね」
「何でそう考えた?」
「殺害には労力がかかると想像します。思い付きで適当に殺すは面倒臭いから、でしょうか」
「かぁぁーー!出た!面倒臭いで判断するとは諸悪の塊だな、お前」
「山岸さんが考えろって言ったから考えたのに」
しかし、口に出してみると、シックリくる。犯行は無差別殺人ではない。何かしら関係がある、もしくは知っているから殺されたと考える方が自然な気がした。
ただ、俺の感覚とは違うタイプーー例えば快楽殺人が目的だとしたら、前者の方が理屈としては納得できる。
「じゃ、不能犯イチ君に、もう一つ質問」
「まだ続けるんですか?てか、山岸さん、犯人はサイコパスかもしれないんですよ」
「サイコパス?どこが?」
「どこがって・・・全体的に?」
はぁぁ、と深くため息をついた山岸は、左右に首を振る。
「そういう考え無しの発言が、イチがバカだという証拠なんだよ」
「だって」
「だってもクソもねぇ。お前はビジュアルに騙されて本質を見てない。ちょっと可愛いだけの性悪女に引っかかるダメ男だ。だから彼女も出来ないんだ」
ニヤニヤした山岸は、署の中へと入って行った。
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