第8話 並木通り
「いいなぁ、イチは山岸さんとも上手くやれて」
「上手くはやってないですよ」
中学から柔道部と言っていた瓜生は、背も高くガッチリとした体型で、2班一強そうなのだが気が弱い。
「すみません、瓜生さんまで巻き込んでしまって。書類の提出期限、大丈夫ですか」
「いいよ。仕事だから仕方ない。それに山岸さんもイチといると調子が良いみたいだし」
11時の並木通りは、人もそこそこといった所だ。あちこちに、お洒落なカフェや、洋服店が並び、高級住宅街の中にあるセレブな通りである。
「山岸さんは、俺から見ると調子が良いというより、軽いです」
「それくらいでいいんだよ。あの人は」
瓜生は寛容だ。あの人を受け止められるとは。
「ここが現場だね」
緩いカーブの手前の一角には、花が添えられていた。
「特に変わった所はないですね」
辺りを見渡してみるが、怪し箇所もなく、一般的な歩道だ。もし犯人がいたとしても、これだけ見通しのいい歩道なら、逃げる姿を誰かが目撃するだろう。
「聞き込み、出来ないもんなぁ」
管轄外なので、下手に動く事は出来ない。少しは手がかりがあるかと思ったが、これじゃ、どうしようもない。
「イチ、これ、誰が担当してた?」
「えぇっと」
ファイルを開くと瓜生も覗き込んできた。
「あぁ、矢井さんかぁ」
瓜生はスマホを取り出し、何処かに電話をかけ始める。
聞き込みするなら、そういえば、当てが無くもない。
思い出した俺もポケットからスマホを出し、発信ボタンをタップした。
しばらく呼び出し音が鳴り、相手が出た。
『お兄、今忙しい』
「ごめん二葉。突然だけど御笠君と連絡取れる?」
確実な目撃者と話をしたかった。
『御笠君?直ぐは分からないけど』
「もし分かったら教えてくれない?事件の事を詳しく聞きたいんだ」
『分かったら連絡する。報酬用意しといてよ』
報酬って、何を買わされるんだ?!
不安が過ぎる俺を無視するように、二葉は電話を切った。
「イチ、やっぱり殺人に結びつくような証拠は無いって。矢井班のメンバーに聞いたから本当だよ」
「瓜生さん、ありがとうございました」
捜査で見つからないものが、俺たちが来た所で見つかるはずもないか。でも、もしかしたら御笠から、新情報が貰えるかもしれない。
「それからさ」
ニタっとした笑みを瓜生は浮かべた。
「山岸さんからメールで、ゼロの家に来いって。俺は先に戻っとくな」
マジか。気乗りしないものの、無視する訳にもいかない。
大きなため息をつきながら、俺はゼロの家に向かった。
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