第7話 2日目

ゲームセンターを出た後の聞き込みは、たいした収穫もなく1日が終わってしまった。


「山岸、夜一、ちょっと」


出勤早々、九条課長に声をかけられる。デスクに向かうと、案の定、課長は眉間にしわを寄せていた。いい話ではないのは明確だ。


「お前たち、3班の事件を蒸し返してるらしいな」

「さすが課長、情報通ですね」


怒鳴り散らされるかと思いきや、今日の課長は違った。ムッと真一文字に口をしたものの、やがて表情が緩んだ。


「だいたいの事は、木田から聞いたが、報告はしろ」

「すみません」


それから、と言いながら課長は、ファイルを机の上に置いた。


「並木通りの事件だ。管轄が違うから書類も見られんだろう」

「へ?あ、あ、ありがとうございます」


驚きながら、俺はファイルを受ける。課長は俺たちを追い払うかのように、肉厚な右手をシッシと振った。


「何で並木通りの事件の事まで課長は知ってるんでしょうか」

「誰かに言ったのか?」

「いいえ、山岸さんにだけです」


廊下に出ながら山岸と小声で話す。


「お前の軽い口が話したんじゃないとすると」


俺が手にしていたファイルを、山岸は奪った。


「ちょっと、返してくださいよ」

「あのオヤジも調べたんだろう。良かったな、イチ、お前の勘もオヤジレベルになったって事だ」


山岸は、パラパラとファイルに挟まれた書類をめくりながら、呪文のようにぶつぶつと言い始める。


「なになに、7月14日午後16時25分、並木通り3丁目の歩道で・・・被害者は雪村司21歳・・・チンピラかぁ・・・ああ、首が逝っちゃったのね・・毒物反応なし、自殺ねぇ」


一通り読み終わったのか、ファイルを俺に差し出した。


「じゃ、頑張ってね」

「山岸さん、今日は一緒に捜査してくれないんですか?」

「イチくんと捜査したいんだけどさ、バディのゼロくんの様子を見に行こうと思って。大事な大事なバディだし」


嘘だ。捜査が面倒になり、逃げようとしている。


「山岸さんのせいで病気になったんですから、責任感じますよね」


俺は精一杯の嫌味を込めた。


「言うねぇ。あ!瓜生!ウリ!」


たまたま廊下に出てきた瓜生を呼び止める。


「今日、俺の代わりにコイツに付き合ってやってよ」

「あの、今日は暴行事件の書類提出を・・・」

「じゃ、イチくんを頼んだよ」


瓜生の背中をバンと叩いた山岸は、逃げるように小走りで去って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る