第6話 ラッキースリー②
「九山慎二は23歳、ホストをしており、休みの昼間は、ここによく来ていたそうです」
「ふぅん、ゲーセンなんて久しぶりだな」
全く人の話をきいてない。この人はいつもそうだ。山岸が見上げた先には、デカデカと「ラッキースリー」の看板があった。
「木田さんに連絡しとかないで大丈夫ですかね?」
「3班が怒ったら、お前のせいにする。あ、ちょっと店員さん、いいですか?」
言い終わらぬうちに、掃除をしていた店員を捕まえ、山岸は聞き込みを始めた。
「あの人、たまに来てました。暴れたり喧嘩したりはないですが、よくゲーム機を蹴ったり殴ったりしてたんで覚えてます」
「ゲームに熱くなるタイプって、嫌だよねー」
蛍光グリーンのジャンパーを着た真面目そうな若い男の店員は、ええまぁと口を濁した。
「亡くなった日のことはご存知ですか?」
コクリと首を縦に振る店員に、山岸が食いつく。
「どうだった?」
「私がかけつけた時は、もう倒れてて。声をかけても動かないので救急車を呼びました」
「で?」
「救急隊の人が、呼吸がないとか何とか言って。そのうち警察が来て」
「で?」
「死んでたみたいです」
「あー」
聞き下手なのか、話し下手のせいなのか、店員と山岸の会話は全く広がらない。
「何か気になる事とかありましたか?」
すかさず会話に入り込むものの、店員はうーんと考えたまま、動かない。何でもいいから、きっかけを与えてみるか。
「最近、被害者と揉めていた人がいた、とか。喧嘩があったとか。事件と関係ないような事でもいいので」
功を奏したのか、あ!と店員が小さな声をあげた。
「自分が言うのも何ですが、ここ、ちょっと前から、呪われたゲーセンって噂になってまして」
「呪われてんの?マジで?」
「ここに来たら怪我するからヤバイみたいな」
「そんなに怪我人が出るの?いやー、危険だね。ゲームしてたら怪我するとか」
山岸のテンションにつられたのか、店員は続けた。
「ゲームしてる最中にかは分からないんすけど、何人か怪我したって話が」
「その怪我した人に会えますか?」
「それは誰だか分からないです」
そりゃそうか。バイトかもしれない一店員が、来客全てを知り尽くしている訳ではないはずだ。何か掴めるかなと思ったのにと、落胆する俺をよそに、山岸は聞いた。
「その怪我ってさ、骨折だったよね」
「あ、そうです」
「ありがとう。今度はゲームしに来るよ」
ぞわりとする感覚にとらわれながら、店内に戻る店員を見送った。
「俺はこのゲーセンには行かない」
「今度行くって言ったばかりじゃないですか」
「骨が折れたら痛いもん」
ググっと伸びをした山岸は、空を見上げながら欠伸をした。
「時間もないんで、とりあえず聞き込み続けるか」
「そうですね」
相槌をしたものの、山岸が何処に聞き込みに行くのか、検討がつかなかった。
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