第5話 ラッキースリー
休憩所にしている自販機前のソファに俺は腰掛けた。
自殺か他殺か判断をし、自殺ならば早く報告書を出さなければならない。他殺なら、他殺と判断した理由を出さなければならない。
しかし、だ。
今回の事件には、自殺とも他殺とも言い切れない部分がある。
「すんなり自殺と言わない所がイチらしいけど、どうすんの?報告書」
いつの間にか自販機の前には、少しよれたスーツを着た山岸が立っていた。
相変わらず髪の毛も乱れまくり、顎には無精髭まで生えてきている。彫りの深い顔立ちは、それなりに整っているのだし、何より40過ぎの大人なのだから、もう少し身なりを整えたらいいのに。
「それを悩んでいた所です」
ガチャンと音を立てて落ちてきた缶コーヒーを手に取ると、山岸は続けた。
「ここに来て半年。俺たちの事だって知らない仲じゃないだろう。イチ、一人で抱えるのはやめたらどうだ?少なくとも俺には腹割って話してくれてもいいんじゃねぇか」
「ホントに信用して大丈夫ですか?」
「そりゃ、試してみないと分からんだろうが」
口角を上げる山岸に、俺は苦笑いを浮かべた。
ベテラン刑事にアドバイスを頂いてみるか。
「課長には3日猶与を貰ってます。そこで何も掴めなければ、自殺で報告書をあげる予定です」
「ほう、あのオヤジ、キャリア希望に恩でも売って貸しを作っとこうかって所か。で、勝算あるのか」
向かいのソファに腰を下ろすと、缶コーヒーのプルタブを持ち上げる。プシュっと軽い音がフロアに響いた。
「片瀬と同じようなヤマがあるんです」
「誰情報?」
「木田さんです」
「木田かぁ・・・まぁ、信憑性高いな」
うんうんと頷いた山岸は、続けてと言わんばかりに沈黙する。
「2ヶ月程前に九山慎二という男が亡くなってます。他に、もう一件、酒田翔駒、先月、並木通りで起きた事件の被害者です。こっちは木田さん情報ではなく、ネットで見つけたんですが、どちらも人がいる所で首が折れて死亡、薬物の痕跡もなく、犯人らしき人物がいないため、既に自殺で片付けられています」
「半分はお前の情報かぁ、微妙だな」
「あ、もう腹を割って話す気がなくなりました」
「冗談だよ、イチ君」
飲みきった缶を山岸はゴミ箱に投げたが、惜しくも外れ、カランと床に落ちた。
「九山ってのは、現場はどこだ?」
「中央区のゲームセンターです」
山岸は立ち上がると、大きく伸びをする。
「散歩がてら行ってみますか」
「へ?」
「3日しかないんだろ?手柄を立てたら木田にも貸しができるし。あいつ、お前と一緒で俺より上の階級狙ってるから、ギャフンと言わせたいんだよねぇ」
「でも・・・」
報告書は3日延ばしてもらったが、課長には九山のヤマの話どころか、別件捜査もするとは言っていない。
「お前の話が本当なら、一気に3つも事件解決、おまけに連続殺人てオプション付きだぞ。表彰間違い無しの、美味しい物件だぞ」
どこまで本気なのか分からないが、俺は山岸の話に乗ることにした。
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