第4話 二葉②
「やだ、お兄、超ブサイク」
真剣な俺の顔を見た二葉が、プッと吹き出した。
「お前、見たのか?」
「亡くなった人とかは見てないよ。凄い野次馬が多かったし」
そう言うと二葉はジョッキを手にし、カウンターに肘をついた。
「すっごい人だかりが出来てたから、何かあったんだろうなーと思って、ちょっと立ち止まったの。そしたら、人だかりの中から御岳君が出てきて」
喉を潤すようにビールを一口飲んだ。
「何ていうか、雰囲気が変わってて。私にも気付かず通り過ぎて行ったの」
まぁ、野次馬として同級生がいてもおかしくはない。
「気付かれなかったのがアレだったのか?」
「そうじゃなくって」
「そりゃ、15年も経てば大人になるだろう。って、お前は子どもの時のままだけど」
ムッとした表情を浮かべたものの、15年かぁと二葉は小さく呟いた。
「でね、今日ね、浅野君が来たって、お母さんから電話があって」
浅野も、二葉の小学生時代の同級生だ。
「偶然にしてはタイミングがいいなぁって」
「何か引っかかる事でもあんのか?」
「そうじゃないけど」
モゴモゴと口ごもる癖は、小さい頃から変わらない。言いたい事があるけど言えない時の二葉の癖だ。
「あ!もうこんな時間!ハチさん、お茶漬け一つ」
「デートか?」
「早く帰ってご飯あげないと、ウーニャから怒られる」
「またネコかよ!」
可愛いよと笑顔を見せる二葉に違和感はない。
「すっごく元気になり過ぎて、一人にすると、すぐ怒るんだから」
「一匹だろ」
猫も人間も同じように接する二葉は、根っからの動物好きなのだろう。
バタバタとお茶漬けを流し込んだ二葉は、またねと店を出て行った。
「二葉ちゃん、明るくなったね。兄貴として可愛い妹は心配だろう」
茶碗を片付けながら鉢屋がニヤリとする。
「しかも、動物好きで獣医になった優しい子だからなぁ。見た目も中身もいいと、身内としては、ほっとけないよな」
「お前は、親戚のおっさんか」
「ああ。俺もお前も、充分おっさんだよ」
まだ29歳なのに。おっさんという言葉を拭いたくて、俺はビールを仰いだ。
しかし、二葉は何をしに来たのだろう。他愛ない同級生との再会を伝えたかったのか。確かに、実家のある大島から出て、本土で知人に会うのは、ちょっとした嬉しい出来事ではある。
ただ、再会場所が事件現場だったから、気になったのだろうか。
「いい兄貴でいてやれよ」
「お前に言われなくても、俺はいい兄貴だ」
ケッと鉢屋は笑い飛ばすと、厨房へと消えて行った。
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