第2話 九山慎二
遡る事2ヶ月前の出来だ。
中央区の繁華街にあるゲームセンター「ラッキースリー」の防犯カメラには、昼間であるものの人が賑わっていた。
画面は3当分に割られており、入口、クレーンゲームゾーンとアーケードゲームの区間が俯瞰で映し出されている。
その中の一つ、アーケードゲームゾーンには格闘ゲームに真剣に向き合っている男が映っている。10代後半、いや20代前半だろうか。ガタイのいい体が分かるシャツにデニム姿の短髪の男は、左腕にタトゥーがあり、見た目から、素行の悪い奴だと見受けられた。
やがてゲームに負けたのか、コントロールスティックを握っていた男の手は、自身の頭へと移動し、掻き毟るような仕草をする。相当悔しかったのだろうか。
「ここからですよ」
俺の横に立っていた、木田が呟くと同時に、画面に映し出された男が椅子からたちが上がると、一瞬、辺りを見回すように顔を向けた。
僅かにカメラを向いた顔が、苦しいような表情を浮かべたように見える。
急に男は自分の頭を抑えるように、両手で覆い始めた。
それに反するかのように、首がゆっくりと、あらぬ方向にーー後ろへと向き、90度、100度と反対側へと動き出す。
「どう思います?」
男の首が180度回った時、そのまま体が後ろへと倒れた。同時に、異変に気付いた周りの人々が、蜘蛛の子を散らすように離れてゆく。
画像に釘付けとなった俺は返事もできなかった。
「自殺で処理されそうなんですが、何か引っかかるんですよ」
そう言いながら木田は防犯カメラの映像を止めると、ハァと息を吐いた。
「そうですね」
掠れるような声で返事をする事しか出来ない。なんなんだ、これは。
「発想が柔軟なイチさんなら、何か見つけられるかなと思ったんですが」
落胆したような眼差しで、木田は俺を見つめ肩を落とす。木田が期待しているのは、殺人事件であるという証拠を見つけられるか、という所だ。
だが、俺には直感的に分かるだけで、証拠は全く見当もつかない。
思い出しただけで、背筋に冷たいものが走る。
便座に座ったまま身震いした俺の胸ポケットで、タイミングを見計らったようにスマホも震え始めた。
『二葉』
スマホを取り出すと、画面には妹の名前が表示されている。
「おどかすなよ」
俺は二葉からのメールを開いた。
『お兄、最近どう?』
なんて事ないメールに安堵の息が漏れる。
『相変わらずだよ。お前こそ動物と仲良く出来てるか』
『人間より断然仲良くできる』
即返事が届く所をみると、今日は暇なのだろう。
スマホをしまい、ボンヤリとトイレのドアを眺めると、視線の先に小さな落書きがある。
ーー近くにいるよ
何故だか、その言葉が嫌に引っかかりながら、俺はズボンをあげた。
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