第8話 約束の場所へ

今日は休みだ。そして、この休みの使い方は最初から決めていた。


コーヒーを飲みに行こう。


これについては豆を買った店で訊いてみたので変な店は教えてもらってないはずだ。


現在、K市内で自家焙煎でやっている店は3軒。そのうち1軒は今回のルートから外れているので今回はスルー。残った2軒がかなり近いから空いてるほうに行けばいい。


それに、どちらもよく使うスーパーの傍だから行きやすいし。


そんなわけでやってきた1軒目。幸湯館。文字だけ見ると温泉みたいだけど、これでコーヒー館と読むそうだ。幸せの湯、俺にとっては間違いじゃないな。


店先にオブジェと化したクラシックカーが置かれている。雰囲気的にも古きよき純喫茶、という感じなのだろうか。


カランカラン、とベルを鳴らしながらドアを開く。


カウンターが8席と2人がけのテーブルが2つ、4人がけのテーブルが3つか。1人で来たけど、初見のお店で常連さんがいるみたいだからカウンターはやめておこうかな。


そう思って敢えて2人がけのテーブル席について、手元のメニューに目を向ける。


コーヒーとジュース、軽食のサンドイッチとケーキ類が少々だった。昔ながらのお店だから定食とかありそうな気がしてたけど、そうでもないんだ。


「お決まりですか?」


水を持ってきてくれた店のおばちゃんにマンデリンを注文し、改めて店内を見回す。


奥のほうにまたしてもクラシックカーが鎮座している。BGMはクラシック。内装や調度品、小物を見るに北欧系のレトロ趣味を感じる。


いい雰囲気だし、そこそこ音楽の音量も大きいから人の話し声もある程度遮断してくれそうだから本も落ち着いて読めそうだな。


いきなり当たりを引いたかもしれない。


ある程度読み進めたところでコーヒーが運ばれてきた。サイフォン式だ。カップもいいの使ってる。俺みたいに家で男1人だからって100均の焼酎カップでなんてふざけたことはしてない。


ここは必ずまた行こう。というか、毎週行く。通う。


尚、結果的におばちゃんのほうに完全に覚えられて、後々大きめのマグカップに多目に注がれたコーヒーが出されるようになるのだが、それはまた未来のお話。



























さて、じゃあもう1軒行っておこうか。


コーヒー屋を梯子なんてよくやることだし、問題ない。


そんなわけでやってきたディアナ。入ってみると食べ物が充実している印象だった。逆にコーヒーは一種類しかない。でも、自家焙煎を売りにしているのはわかるので期待してみる。


時間としては既に夕方に差し掛かっていたので、早めの夕食ということでナシゴレンを一緒に注文した。メニューを眺めてみると色々載っている。


あ、モーニングやってるんだ。しかも8時半から。今は毎日朝から授業がびっしり入ってるけど、もしもここが空くようならモーニングも来てみよう。


実はさっきの幸湯館で本を読み終えてしまったので携帯で適当にオンラインノベルを読み漁る。


チーレムは好みからずれてるんだよなぁ。読みやすいから暇つぶしに読むけどさ。ただ、あからさまに関係を持ったことがわかる、というかあからさまにヤってる描写が入ったら即行で切ることにしてる。特に、こういったハーレム物の場合は。


というか、タイトルから欲望が駄々漏れなんだよ、これ。


「お待たせしました」


ナシゴレンとコーヒーが一緒に運ばれてくる。誤解のないように言っておくが、これについてはこちらから頼んでいる。


しかし、昔食べたことがあるんだから気付けよって話しなんだけど、アサリ入ってたな、これ。


貝、苦手なんだよ。


とはいえ、自分で頼んだものだ。仕方ない。残すのも失礼だしな。覚悟を決めて食べよう。


「アサリ以外は美味いんだよなぁ」


自慢じゃないが、俺は昔からアサリとシジミは丸呑みだ。今回もそうなるだろう。危ないのはわかっているんだが、どうしても噛めないし、残したくもない。


とまぁ、アサリに悪戦苦闘しつつも完食し、コーヒーにシフトする。


良くも悪くもいたって普通に癖のない飲みやすいコーヒーだった。さっきのところが酸味に振り切った味をしてたからな。方向性がかぶらないのはそれはそれでいい。


あっちでも豆買ったけど、ここでも買って帰ろう。


今日はこんな時間だけど、普段はちょっと賑やかそうな雰囲気だよな。でも、これはそこまで不快な喧騒じゃ無さそうだし、1人で本を読んだりするのは十分出来るよな。


こうして、以降の俺の学生生活のルーティンに休日の喫茶店が追加されることになる。基本的には幸湯館で、たまにディアナという流れになりそうだ。


尚、ディアナについてはより積極的に関わっていくのは暫く後のことになる。



























別の休日のこと。


折角温泉地に囲まれた立地なんだし、あまり行ったことのない方に行ってみれば目新しい発見もあるのではないか、と思い立ってしまった。


そんなわけで一路山にめがけて車を走らせることに。


ふと道路脇に広いスペースが設けられていることに気付く。そこには既に車が止まっているがまだ十分に止められらそうだった。止まっている車の周りにはペットボトルやポリタンクがあった。


これってもしかしなくても、湧き水なのだろうか。それに気付くと通過しかけていた車をUターンさせてみる。降り立ってみればやはり湧き水であった。


これを使ってコーヒーやお茶、料理をすれば少なくとも気分的には美味しく感じられるのではなかろうか。どう考えてもプラセボ効果のそれではあるが、構わん。少し前まで飲んでいたお茶のペットボトルと飲み干したコーヒーの入っていたステンレスボトルを湧き水で洗い、汲み取ってみる。後は、帰ってからコーヒーでも淹れてみればいい。まずかったら即座に止めるけど、特に問題なかったら継続しよう。


少し先にあるスーパーもちょっと面白そうなもの置いてたし、定期的に通ってみるのもよさそうだ。ポリタンクは意外といい値段するか


ら買うのは躊躇するけど、大き目のペットボトルでも買って、それを洗って使おう。勿論、きちんと洗うし、古くなったら交換だ。


因みに、その先にあるスーパーにて、地域の固有種であるピーマンの仲間やピーマンの葉、ヤーコンといったあまり見かけない野菜を見かけたので買ってみた。


固有種のピーマン、というか唐辛子の一種だよな。これに関してはピーマンのつもりで焼くか炒める。それで普通に美味しくなるだろう。ピーマンの葉は単純に甘辛く煮る。これに限る。


ヤーコンは、どうしようか。基本的には生で食べるの一択なんだろうけど、買いすぎたからな。絶対に飽きる自信があるぞ。


調べてみても、サラダにするか、繊維を断ち切ってきんぴらにするとかそんなのばかりだ。


「ヤーコンって、見た目に反した甘さと多すぎるくらいの食物繊維が売りなのではないのか」


殆どがその売りを潰すようなレシピばかりだった。あとはヤーコンチップスとか。


でもそうだよな。煮たら甘くなるのではなくて、そもそも甘いのだから他の食材との親和性はかなり低いよな。


ドレッシングが何が合うかってだけでもいいから考えてみるか。


尚、この後、ヤーコンに関しては山野さんにも引き取ってもらうことになる。


固有種の唐辛子については気に入ったのか、以後も主に炒め物の具として頻繁に登場することになり、ピーマンの葉については以降食卓に上ることはなかったものの、それなりには気に入っておすそ分けもした。何でこんな渋いチョイスをその歳でするのかと言われもしたが。



























* * * * * * *



後書に相当するもの



サブタイトル:米倉千尋の代表的な曲の一つ。アニメ『カレイドスター』でおなじみの一曲。私にとってコーヒーと喫茶店が『約束の場所』に相当するということでこのタイトルに。また、これ以降頻繁に通った湧水スポットやその近くのスーパーなども含めて約束の場所である。

作者的には中学生の頃からファンで、ラジオも放送されていない地域ではあったが、周波数を合わせて無理やり聞いていた『隠れスマイラーズ』であったこともあり、今でも大好きな歌手である。アニソン歌手、ガンダム歌手というイメージが先行していると思われるが、力強い歌声でアップテンポからバラードまで歌い分ける実力は確か。ベストアルバムも通常のものが2種類、アニソンに絞ったものが2種類出ているので、敢えてこれから聞いてみたいという新規さんにも入りやすいと思われる。

それ以前に、ガンダム関係のアルバムを買えば大体『嵐の中で輝いて』が収録されているので見つけやすいと思う。




因みに、別にチーレム系に恨みはありません。単純に好みからずれているだけです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの歌が彩る日々を セナ @w-name

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ