第5話
侍女たちを下がらせた後、私は貴族の勢力図を確認しながらお茶会に招待するメンバーに手紙を書いていた。
すると、ドタバタと騒がしい足音が3人分聞こえてきた。
「いけません、陛下。王妃殿下の部屋を訪ねる前には先触れを出さなくては。王妃殿下に対して失礼に当たります」
「うるさい!ここは私の城だ。なぜ許可などいるんだ」
最初に聞こえたのはフォンティーヌの声。次に聞こえたのは初めて聞くけど内容からして陛下だろう。
私の前で止まった3人分の足音。
バンッと荒々しくノックもなしに開けられた扉。真っ先に入ってきのは婚姻式で初めて会った夫カルヴァン。
右横に顔を真っ青にしたフォンティーヌ。左横には私が嫁いできた以来姿を見ていなかったクルトがいた。
「ご機嫌よう、陛下」
私は立ち上がり、礼儀に則った礼を取る。
「陛下っ!」
挨拶もせずにズカズカと私の前まで来る陛下にクルトは黙って従い、フォンティーヌは切羽詰まった様子で私と陛下の間に立つ
「どけ、フォンティーヌ」
「できません」
「これは命令だ!」
「承服できません。陛下、まず落ち着いてください。今、あなたの目の前にいるのはあなたの妻であり、テレイシアの王女です」
「私の妻はユミル、ただ1人だ」
「陛下っ!」
フォンティーヌが陛下の言葉を咎めるが、彼は言い直す気はないらしい。
このままでは埒が明かない。
「構いませんわ、フォンティーヌ。陛下は私に用事があるのでしょ。私も陛下に用事があります」
私の言葉で渋々ではあるがフォンティーヌは体を横にずらした。
それでも直ぐに対処できる位置取りはしている。
余程、陛下が私に何かすると思っているのでしょうね。
陛下は私に暴力でも振るう気かしら?
そうなれば国際問題ね。今までの態度だけでも十分、国際問題に発展しかないけど。
でも大丈夫よ、フォンティーヌ。すぐに国際問題にしたりはしないから。
まだ国内の掌握ができていないもの。
「早速おねだりか?」
何を勘違いしているのか陛下から訳の分からない言葉が飛んできた。
私が首を傾げると陛下は私を鼻で笑った。馬鹿に馬鹿にされるというのはかなりイラつくものね。
「それで、一体何が欲しいんだ?宝石か?ドレスか?」
おねだりとはそういうことか。勘違いも甚だしいことだ。
「そのような珍妙なドレスまで用意せずとも王妃用の予算がある。そこから好きなだけ使えばいいだろう。私はお前のように遠回しにおねだりをする女が大嫌いだ」
勝手に思い込んで勝手に決めつけて。これが一国の王か。
お姉様の言う通りね。先がしれているわ。
「これは我が国のドレス・・・・民族衣装です」
私のドレスは左右に分かれている襟を前で合わせているもの。
一体型ですとんと落ちるようなこの国のドレスとは違い、帯と呼ぶ太めの布を腰に巻いているし、露出度もあまりない。
「この国の王妃になったのだから、自国の物は全て捨て、この国に染まるのが道理だろう」
礼儀知らずに道理を問われる筋合いはない。
それに何が王妃だ。後宮にも入れず、王妃の寝室も使えず、初夜すら迎えていないのに。
「お互いの国の文化を尊重するのも婚姻の目的の1つではありませんか?」
「それ程までに自国が好きならカルディアスに来なければ良かったんだ」
「陛下っ!」
フォンティーヌに咎められ、カルヴァンは不貞腐れた子供のようにそっぽを向く。
この人相手では本当に疲れる。
「陛下、お茶をどうぞ」
カルラにいれてもらったお茶とついでに席を勧める。
さっさと用件をすませて帰ってもらおう。
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