30.王都「マリステル」の現状

しばらく苦い表情で黙っていたエイーダがついに口にした言葉が


「お前さんは王都「マリステル」の現状をどこまで理解しておる?」


質問を質問で返される形だったが、サヤはその素直に答える。


「一応、王都出身と言っても貧民区よりも更に下層のような場所で暮らしてましたからね。それでも、魔物被害が酷いという情報だけはよく耳にしましたが……」


父であるゴロがあのようなダメ人間なので、中心部の都市ではなく、貧民街区の更にスラムに近い場所で暮らしていたサヤは、当然ながら王都の現状をあまり知る事は出来なかった。冒険者になってからも、王都の現状を知るよりも、冒険者として早く一人前になる事を目指していたので、王都の現状を耳にする余裕はなかった。


「まぁ、お前さんが言った魔物の被害。それが王都の1番の問題点じゃな。その魔物被害を防ぐために冒険者を優遇し過ぎておるしの」


サヤも確かに王都にいてそれは感じていた。低ランクの冒険者でも、王都ではまるで英雄のような扱いを受けていたし、品物も格安どころか無料で提供するお店もあった。まぁ、最もサヤは半分奴隷に近い形でギリアスのパーティーに入れられ、おまけに、今は発症してないアレがあったので、周りから蔑まされていたが……


「要するに、「マリステル」としては今の現状をなんとか脱却したい訳じゃ。このままいけば、魔物被害のせいで作物を育てる事は出来ないし、冒険者達を優遇し過ぎておるせいで、金策が上手くいかず、生活に困る民が続出しておると聞く。貧民区も最近ますます増えてきておるらしいからのぉ〜」


王都「マリステル」の現状を淡々と述べ、エイーダはお茶を啜る。


「……なるほど。だから、『神子』の力を保有しているであろうラナとシアを欲しがってるという訳ですか」


「そういう事じゃ。全く……ずっと眉唾物だと思ってくれていたら、こんな面倒な事を考えずに済んだというのに……」


エイーダは軽く溜息をついてそう言った。

王都「マリステル」側も最初から『神子』の力を信じていた訳ではない。しかし、「テリュカ」にあるエルフの里が無くなった後も、「テリュカ」は今の現状を維持している事から、何か秘密があるのでは?と思い始めて調査し、『神子』とラナとシアの存在を知ったのである。


「加えて……西大陸の「セイリーン聖王国」。あの国が最近また色々動きを見せておるようじゃしの。故に、「マリステル」としてはさっさと自国の問題を片付けたいのじゃろ」


この世界は4つの大陸が存在し、この「テリュカ」や「マリステル」がある大陸は東大陸と呼ばれている。そして、4大陸にはそれぞれ大国が存在しており、一応東大陸の大国は「マリステル」と言われている。


「大国の連中はお互いに交流をしながらも、裏では自分こそが4大陸1の大国だと思って火花を散らしておるからのぉ〜。ワシから言わせれば、そんな称号クソみたいなもんじゃがの」


「4大陸1の大国の名をクソみたいとはよく言いますね」


「そんな称号があって腹が膨れるか?国が潤うのか?バカらしい……そんな称号かけて戦争するぐらいなら、町で買い食いした方がよっぽど楽しいわい」


それはそれでどうなんだろうと思わなくもないが、納得出来る部分もあるので、サヤは何も言わなかった。これでなんとなくではあるが、ラナとシアが狙われた理由は分かったが、しかし、サヤにはまだ聞いておかなければいけない話があった。


「それで、ラナとシアが他国から狙われている可能性があると知っていたのに、何故それを私に言わなかったのですか?」


サヤがそれを聞いた瞬間、エイーダは固まり冷や汗を大量にダラダラと流しはじめた。

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