29.10年前の推測を交えた真相

「若干の推測が交じった話になるが……」とエイーダは前置きし、軽くお茶を啜った。


「まず、『神子』が子を産むとその力は全て子に受け継がれるようじゃ。これはアルテミスを言うておったから間違いないじゃろう」


「つまり、ラナとシアの本当の母親が『神子』であったと?」


「恐らく間違いないじゃろ。子供が出来たから『神子』の力がしばらく安定しないという報告も受けてたしの」


エイーダは再びお菓子をポリポリと食べながらそう答えた。


「つまり……ラナとシアを産んで『神子』としての力はラナとシアのどちらかか、あるいは両方に受け継がれ……」


「で、2人を産んだ母親の方が『神子』としての力を無くしていた時に、不運にもスタンピードが起きてしまったという事じゃな……」


エイーダは霧散する重い空気を払うつもりも込めて、余計に音を立ててお菓子をかじる。すると、サヤは俯きながら


「どちらにせよ私達のせいですね。別にテリュカの全ての「迷宮」を攻略した訳ではないのに無責任な発言をしたから……」


サヤは俯きながらギュッと拳を握りしめる。サヤはエルフの里の住民が結界を張らなかったのは、ギリアスが大袈裟に喧伝したせいである事を理解している。そのギリアスを止めなかった自分にサヤは責任を感じているのだ。


「お前さんのせいではなかろう。不幸な偶然がいくつも重なった結果じゃ。お前さん1人が背負う必要はない」


「しかし……」


「では、あの時のお前さんの言葉と、「烈火の勇者」と名高いギリアス。どっちの言葉を人々は信用する?」


エイーダの問いにサヤは沈黙で返す。その沈黙こそが明白な答えだ。エイーダは再びお菓子をポリポリ食べながら……


「しかし……だからかのぉ〜……あやつがラナとシアを己の命をかけて守ったのは……あの2人が『神子』だから……」


「それは違うわ」


エイーダの呟きに、サヤはキッパリとそう返した。


「私はあの人の最後を看取ったから分かる。あの人は本当に自分の娘をただ守りたいと思ったからそうしたのよ。『神子』とかそんなものは関係ないわ」


彼女の最後を見届け、母親として活動しているサヤだからこそ分かる。アレはただ母が純粋に我が子を命がけで守り抜いたのだと。


「……すまぬ。愚問じゃったな」


「いいえ。それで、話題を変えるけど、なんでラナとシアは『神子』だからと他国の間者に狙われるのかしら?」


サヤのその問いにエイーダは若干バツの悪い顔をして頰をかいた。

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