4.母親先に宿屋に帰宅す

ここは、「テリュカ」にある宿酒場の一つ「アロマンディア」。この宿酒場は、現在1番忙しくなる夜に向けて、この宿酒場の女将で純エルフのアロマ・ハーウェルが仕込みをしていた。


すると……


「アロマさん!ただいま!!娘達はまだ帰って来ましたか!?それと!台所一つ貸してもらえませんか!?」


サヤが大量に買い込んだ野菜を抱えてドアを蹴破るような勢いで入ってきた。そんなサヤに、アロマは一つも怒りもせずに、ニコニコ笑い


「あらあら、サヤちゃんが1番早かったわね。おかえりなさい。ラナちゃんとシアちゃんならまだ学校から帰って来ていないわよ。それと、台所ならいつもの場所は空けてるから好きに使っていいわよ」


アロマはサヤの質問に丁寧に返してくれた。サヤはそれを聞いて「ありがとうございます!!」と言っていそいそと台所に入ろうとすると……


「全く……帰って早々、騒々しい奴だな。お前は……」


そう言って嘆息しながら裏口から入って来たのは、この宿酒場の主人のディアス・ハーウェルである。こちらは、人間の男性で、もう50近いダンディなおじさんである。


「あら、あなた♡おかえりなさい♡」


「ただいま!ハニー!今日は新鮮な魚を大量に釣ってきたよ!」


「あら!それじゃあ、今日はお客様に魚料理を振る舞えるわね!」


「出来ればハニーの料理は私が独り占めしたいんだがな」


「もう♡あなたったら♡」


アロマとディアスはそう言って2人の世界に入り出す。この2人は夫婦で、時たまこのように2人だけの世界に入るので、もう色々慣れてるサヤは無視して台所で娘達の為に料理を作る為の準備に入ることにしたのだが……


「あっ、思い出した。サヤ。お前に荷物が届いてたぞ」


唐突にサヤの荷物の事を思い出したディアスは、サヤにそう声をかける。


「私に荷物……ですか……?」


心当たりを思い出せずに首を傾げるサヤ。


「宛先は「テリュカブックス」だな」


「あぁ!思い出しました!頼んだアレが届いたんですね!」


宛先を聞いて荷物の心当たりを思い出したサヤは、ディアスから荷物を受け取る。


「宛先が本屋って事は、またアレか?」


「はい。「初めての日曜大工入門」に「初めての上級者料理入門」です」


やはり、予想通りの荷物の中身だった事にディアスは溜息をつく。

もう彼女は年齢は25歳になっても、未だに「初めての◯◯入門シリーズ」を愛読していた。ディアスからしたら、そんな怪しげな本は最早必要ないだろうと思うのだが、彼女曰く、「安くて情報量が多いありがたい本」との事らしい。


「うん。まぁ、日曜大工いるのかっていうツッコミはあえて置いておくとしてだな……お前さんもう料理入門必要ないんじゃないか?」


ディアスは何回かサヤの作った料理を食べた事はあるが、愛するアロマ程ではないにしろ、そこいらの食堂のご飯より美味しいんじゃないかと感じる程、サヤの料理は美味しかった。しかし、サヤは……


「いいえ。まだです。もっともっと料理を極めて、娘達にお母さんの手料理美味しいね!お母さんみたいに上手に作れるようになりたい!お母さんをお嫁さんにしたい!と、言われるようになるまで極めるつもりです」


「うん。最後のはなんか間違ってるぞ」


「すいません。テンションが上がって変な事を口走りました」


流石に自分でもおかしな事を口走った自覚があるのか、素直に謝罪するサヤ。そんなサヤを見てディアスは溜息をつく。というか、最初の2つの言葉はすでに言われているのだが、それでも尚極める事になんの意味があるのか……と、ディアスが思っていると……


『ただいまぁ〜!!』


2人の小さな女の子の声がして、ディアスは「おっ、ようやく帰ってきたか……」と呟いて、ふと目の前にいたはずのサヤがいない事に気づく。


「ラナ。シア。おかえりなさい」


『ただいま!!お母さん!!』


いつの間にか愛する我が子、ラナ・フィーリガルとシア・フィーリガルの2人の目の前に立ち、2人を出迎えるサヤを目撃し、ディアスは相変わらずの親バカだなと再び溜息をついた。

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