13.パーティー崩壊の予兆

一方、「烈火の勇者」であるギリアスのパーティーはすでに「テリュカ」離れ、自分達が拠点としてる王都「マリステル」に向かっていた。「テリュカ」よりも「マリステル」の方が難易度が高い迷宮が出現しやすいので、高ランクの冒険者は基本そちらを拠点としている。今回、ギリアス達が「テリュカ」に来たのは、偶然にも「テリュカ」で難易度が高い迷宮が出現し、高い依頼金が発生したから向かったのである。


「それにしても、さっきのユニークモンスター結構強かったね〜」


ふと、パーティーの魔導師でギリアスの正妻を主張しているアンネ・プリムローズがそんな呟きを漏らす。

実は、先程ギリアス達は道中でユニークモンスターと遭遇し、かなり苦戦を強いられたのだ。


「はん、まぁ、ユニークだけあってそれなりに強かったが、俺様達の敵じゃないさ!「テリュカ」の人間は俺様達に感謝してもらいたいぜ!俺様達のおかげで、強力な魔物が一体減ったんだからな!」


ギリアスがそう言って、仲間達も「そうだよね〜!」とゲラゲラと笑う。

しかし、戦士マグナスだけは別の事を考えていた。


(やはり……俺達の攻撃が通りにくくなってるか……)


マグナスは心の中でそう思い嘆息する。


先程のユニークモンスターの戦闘で、前衛である自分やギリアスの攻撃があからさまにダメージが通っていなかった。アンネの魔法も同様である。だが、つい数日前だったら、自分達の攻撃はあの程度のユニークモンスターに大ダメージを与えていた。なのに、今回は全くと言っていい程通用していなかった。数日前と今で違う事、それは一つしか考えられない。


(サヤ。お前は立派にパーティーに貢献していたよ……)


マグナスは今更だと思いながらも、心の中でそう呟いた。

これまでは、サヤの支援魔法のおかげで、パーティー内の攻撃力は更に底上げされていたのだ。しかし、それが無くなった今、パーティーの火力はかなり減少していた。


(それに……戦闘面ばかりじゃないな……)


サヤは言われるがままに、パーティーの料理やら洗濯やら武器の手入れなども行なっていた。しかも、それらも完璧にこなしていたサヤ。それが無くなれば当然ながら、道中の料理は誰が作るかで揉め、作ったとしても、いつもよりマズイと不満が出て、おまけに、服はあまりしっかり洗えてなくて汚れが目立っているし、武器もボロボロになっている者が多数いる。

この問題に対してギリアスは


「仕方ねえ!王都に帰ったらメイドを雇うか!」


などと笑って言っていたが……果たして、こんな危険な仕事をしているパーティーに、雇われたいと思うメイドは本当に現れるのだろうか?と、マグナスは疑問に感じていた。


(まぁ、ギリアスがコレである以上、パーティーの崩壊は免れないか……)


かつては、世界の人々を救って有名になろうと誓い合った友だが、それが、本当に勇者と呼ばれて傲慢になっていた友。その友を注意して諌めなかった自分の責任感から、マグナスは今でもこのパーティーから抜け出せずにいた。


(サヤ……せめてお前は今度こそ幸せに暮らせ……)


マグナスは「テリュカ」に置いてきてしまった愛弟子を想い、心の中でそう呟いた。



そして、「烈火の勇者」のギリアスパーティーはこれより10年後、再びサヤと出会う事になるのだが、この時のギリアスにマグナスにサヤはまだ知るよしもなかった……

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