12.そして、ようやく……
グラニフの計算は完全に狂ってしまった。そもそも、これだけの人数で攻められたら、サヤはビビって自分に頭を下げ、自分の言う事を聞くだろうと。そして、その魔石の分け前を自分に全て渡すだろうと。
しかし、結果は自分の仲間は全滅。残るは自分1人。だが、グラニフにはまだ秘策が残っていた。
「くくく……!!いい気になるなよ!ゴミ屑の役立たずが!!」
グラニフは自分の腕を軽く切って血を流す。グラニフの最終手段。それは、血だった。サヤは血を見ると吐き気をもよおすのは周知の事実だ。これで、サヤをどうにか出来ると、グラニフは愚かにもそう考えていた。
「何?自殺願望でもあるの?」
「はぁ!?」
だが、グラニフの予想に反してサヤは無反応。そして、サヤはグラニフの顔面を殴り飛ばす。グラニフは叫び声すら上げられず、吹っ飛ばされて気絶した。
そもそも、グラニフは仲間達が皆、サヤに殴られた事により、口を切ったり、鼻血を流したりしてるのに、サヤが全く無反応であるのに気づいていなかった。サヤは、双子エルフの母親になる為の想いが、彼女のトラウマによる吐き気衝動を打ち消したのだ。
「……魔石の鑑定金額だけど、ギルド迷惑料とこいつらの慰謝料引いた金額を頂戴」
「えっ!?いいんですか!?そんな事をして!!?」
「私がこいつを殴り飛ばしたせいで壊れてしまった机や椅子の代金はともかく、こいつらに慰謝料を払うのは凄く嫌だけど……だって、もう傷なら治ってるし」
言われてコロナがグラニフ達を見てみると、グラニフ達がやられた傷は全部すっかり完治していた。先程腕を曲げられた男の腕もである。グラニフを殴り飛ばした後、サヤは瞬時に治癒魔法で気絶以外を治したのである。
「後々、請求されるのも面倒だし。仕方ないから払っておくわ」
サヤは嘆息してそう言った。彼女がそう言うならと、コロナはギルドの壊れた机や椅子代金を正確に計算し、グラニフ達の慰謝料を適当に少ない額で計算し引いた数をサヤに渡した。
それだけ引かれても、凄い額の金貨がサヤの前に置かれた。その額は、よっぽど派手に使わなければ、一年は遊んで暮らせる程の額である。
「良かった……ようやくあなた達のミルクやオムツや服を買ってあげられるし、雨を凌げる場所に連れって行ってあげられるわ……」
そう言ってサヤは双子のエルフの赤ん坊を見て微笑む。赤ん坊も、そんなサヤの笑顔を見て同じように笑っていた。そんな姿を見たコロナは……
(まるで……私のお母さんだ……)
そうやって子供に接するサヤの姿が、自分の母親と被って見えたコロナ。本当にサヤはこの子達の母親になったんだなと、コロナは本気でそう思った。
「あっ、そういえば……本屋さんに「初めての育児入門」があったわね。買ってこなきゃ」
最後にサヤのその言葉を聞いて、コロナはやっぱりサヤはサヤだなと思った。
何故なら、サヤはよくパーティー内の片隅で「初めての◯◯入門」というシリーズの本を愛読していたのを知っていたから……
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