8.冒険者ギルドでの一幕

冒険者ギルドで受付嬢をやってるハーフエルフのコロナ・ハーウェルは、先程入ってきた一報を聞き、ソワソワしていた。すると、ようやくコロナが待ち望んでいた人物がやって来た。


「ミノさん!?どうでしたか!!?」


「そのミノさんの愛称は止めろと……まぁ、今はそれはいいか……」


彼は冒険者ランクCの牛族の獣人ダンク・リュセッル。牛の魔物であるミノタウルスのような戦い方をする事から、みんなから「ミノさん」と呼ばれてるが、本人は若干不満であったりする。


「とりあえず残念な報せになるが、俺が駆けつけた時にはもう遅過ぎた……」


「そうですか……」


コロナは覚悟していたとは言え、肩を落として俯く。エルフの里がスタンピードの被害を受けているという報せがきた時、間に合わないとは思いつつも、ダンクにお願いして調査に行ってもらったが、やはり駄目であった。

コロナはハーフエルフだ。母親はエルフである。故に、エルフの里には自分の親族が沢山いたし、知り合いの人も沢山いた。しかし……


「みんな……亡くなったんですよね……」


「すまん。俺は無骨者故、正直な言い方しか出来ないが……俺が駆けつけた時は、エルフ里に生存者は一人もいなかった……」


「そうですか……」


ダンクの言葉に泣きそうになるのを必死に堪えるコロナ。こういう仕事をしていれば、こういう報せはよく受ける。この仕事場で涙を見せたら色々バカにされるので、コロナはここでは泣かないと決めている。泣くなら家に帰って思いっきり泣く事にしてる。


「ただ、一つだけ気になる事があるな」


「気になる事……ですか……?」


「あぁ、エルフの里の家が焼け焦げた跡が沢山あるんだが、火の手が全く上がっていないんだ」


「自然鎮火したとかでは?」


「いや、それにしては焼け焦げた匂いがくっきり残っていた。恐らく、数時間前までは火の手が上がっていたはずだ」


ダンクがそう言うのならそうなのだろう。彼は獣人特有の鼻の良さを持っているし。しかし、そうなるとダンクが来る前に誰かがエルフの里の消火活動をした事になる。一体誰が……?


「おいおい!!コロナちゃん!暗い顔ばっかしてても仕方ないぜ!コロナちゃんが暗い顔していたら亡くなったエルフ達が化けて出るぜ!だから!パアッといこうぜ!!なぁ!?」


そう言って話しかけてきたのは、人間の冒険者グラニフ・テングス。ダンクと同じCランクで実力はあるのだが、性格はこの通りだ。先程まで冒険者用の休憩スペースで酒盛りして酔っ払っているとは言え、この無神経な絡み方にコロナは苛立ちを隠せない。ダンクも顔を一瞬しかめたが、何も言わない。


(全く!こういう奴らがいるから仕事場では絶対泣けないのよ!!)


コロナは心の中でそう愚痴る。グラニフはひたすらコロナを一緒に飲もうと誘うが、コロナは無視一択だ。こういう手合いはこれが正しい選択であると心得ている。

しかし、それでもしつこく絡んでくるからダンクにアイコンタクトで助けを求めようとしたが……


カランカラン……!


ダンクに助けを求めるよりも先に、誰かがギルドの門を開いたので、入ってきた冒険者の対応をすると言ってグラニフの誘いを断り、いつもの笑顔で受付テーブルに向かう。


「いらっしゃい……って!?貴方は!!?」


コロナはその人物を見て驚く。その人物とはサヤだった。サヤは別の意味で有名人で、ギリアスによく役立たずのゴミ屑と罵倒され、更には彼女の苦手な血を見せては、彼女が吐き出しそうになるのを仲間やギルド内にいる冒険者達と一緒になって笑って見せしめにしていた。

そんな酷い扱いを受けているから、いつかは自らパーティーを抜けるか追い出されるだろうとコロナは思っていた。もしそうなったら、自分がサポートしてあげようとも思っていた。しかし……


(何!?彼女の雰囲気!?前に会った時と全然違う!?それに……彼女が背負ってる双子の赤ん坊って……あれって……エルフなんじゃ……!?)


エルフには同種族の者を敏感に感じ取る事が出来る。ハーフエルフであるコロナでもそれは出来た。そのコロナから見て、あの双子の赤ん坊は、自分のような混血ではなく純血のエルフであると、ハッキリと認識出来た。

色々と疑問は尽きないが、サヤはそんなコロナの疑問を無視するかのようにコロナの前に歩み寄ると


「換金をお願い」


サヤは袋から大量の魔石を受付テーブルに置いた。

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