第47話 無差別夢精テロ
チーム夢精を大学近くのマクドナルドに集めた俺は、ことの検証を始めた。俺が夢精したのが五月三十日から三十一日にかけて。鳥羽が六月十日から十一日。真田が五月十日から十一日で、片桐が五月二十日から二十一日だった。小学生でもわかる、簡単な法則だった。
「諸君! どうやら大変なことが起こるぜ。六月二十日の夜。このサークルの誰かが……夢精するッ!」
「うわ……」
「殺人予告みたいに言わなくても……」
「それって大変なこと、なんですかね?」
もしかしたら、大学生を夢精させるのを六月十日で終わりにしているかもしれない。そうであれば俺とサキとの接点はなくなってしまう。
「じゃあ、次の問題点、ここのメンバーの共通点はなんだ?」
顔を見合わせ、おたがいが察してしまった。
ここにいるのは現在彼女がいない……いや、酷な言い方をすると、今までに彼女のいたことのない、そんな感じの四人組なのだ。
それを悟って、みんな一斉に意気消沈する。
「……ま、みんな、落ち込んでもしかたない。大事なのは未来や。で、サークル内で夢精しそうなやつで、誰か心当たりのあるものは?」
四人の目線が宙空でクロスし、一人の人物像を形成していた。
「深町くんっ!」
四つの声がそろった。どうやら彼で間違いはないだろう。
深町くんはサークルの二年生。スキーのときは俺と同じチームに振り分けられた。女子はまだしも男子とすら話している姿をほとんど見たことがないほどにおとなしい男だ。
だが、けっして人間が嫌いなわけではない。むしろ主要なイベントには必ず顔を出しているし、発言することはないものの、まわりの会話をきちんと聞いているし、笑っているところをよく見る。
「そっか……深町くんが無差別夢精テロの餌食に……」
「無差別ではない。これはれっきとした計画的犯行だよ!」
「いや、そんなことはどうだっていい。いいか? 彼は実家住まいなんだぜ。大学生にもなって母親に夢精をバレることが、どんなに恥ずかしいことか想像できるのかよっ!」
「どうする?」「今から深町くんに電話をして知らせるか?」「馬鹿、知ってても塞ぎようがないだろう?」「全身にくまなくお経を書けば防げやしなだろか?」「そうだ、名案を思いついた、その晩は寝なきゃあいいんだよ!」
後輩三人がああだこうだと策を練っている。三人寄れば文殊の知恵だなんていうが、アホが何人集まったところでアホ会議しかできないのだろう。
「おちつけ、お前ら」
「おぉう、雷同さんにはなにか名案が?」
「パンツを汚すことに関しては、事前に老人用オムツを装着しておけばいい。もしオムツが嫌なのなら、ティッシュで作ったテルテル坊主を四、五体ほどパンツにしのばせておけば事後処理は簡単だろう。そう深町くんにメールしておくとええよ」
「は、はい、今すぐ送ります」
真田がメールを打ち出すが、あわてて入力ミスを繰り返しているようだ。
「真田、それは万が一に備えてということや。だから、そんなに慌てるな」
「どうしてそんなに落ち着いていられるんですか? は、もしや考えが……」
俺は不敵に笑ってみせた。
「深町くんに夢精などさせやしない。そのための策が、すでに練ってある」
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