第46話 この中で最近、夢精をしたというものは
雨がふりしきる梅雨のある日。俺は部室にいた。
「なにか面白いことないですかねー」
隣では退屈そうに真田があくびをしている。
「ないな。なんにもない」
「サキちゃんは最近、ぜんぜん来てくんないですよねー。雷同さん、声かけてくださいよー!」
「おま、人の妹にたいし……もう、あいつが来ることもないやろ。春やから、ちょっと浮かれていただけやねん。今ごろ、地元で彼氏の一人や二人とよろしくやってるやろ」
そう、春だから浮かれていただけで、あいつがいない日常こそが普通なのだ。
ん、そういえば真田といえば……。
「おい、真田! お前、ここ一ヶ月ほどの間に夢精をしなかったか?」
「え? 急に大きな声でなにを。そ、そんな恥ずかしいこと、まぁ、してますけどね……」
そう言いながら、ちょっと照れくさそうな顔をした。気持ち悪い。
そうだ。サキによって夢精させられているやつが他にも見つかれば、サキの存在をたぐり寄せることができるかもしれない。
そのとき部室に鳥羽が入ってきた。
「いやぁ! 雷同さん、まいりましたよー。こないだ夢精しちゃいまして。親にバレる前にパンツをビニール袋に密封して、駅のトイレに置き去りにしてきましたよ」
こんな短期間に俺の身の回りで夢精しているやつが二人もいる。俺もふくめると三人だ。大学生にもなって、こんなことってありえる?
こいつは……もしかすると、もしかするかもしれない。
「鳥羽、夢の内容は覚えているか?」
「露天風呂に一人で浸かっていたら、男湯だというのにいきなりクロエ・グレース・モレッツが入ってきて、そこでまぁ、裸のおつきあいをね……」
「ビンゴォッ!」
俺は思わず興奮して叫んでしまった。部室内のすべての目線が俺に集中した。
わざとらしく、大きくせき払いをしてみる。
「すまない。すこしのあいだ女子たちは退室してくれへんか? そんなに時間はとらせへんから。これから男同士の大事な話があるんや!」
しぶっていた女子たちも根津がやんわりと促してくれ、すぐに済むのならと退室していく。マヤはなにか偉大なもののように俺を見ていたが、そんなことに俺はかまっちゃいられない。
「これから、なにが始まるというのだ?」
「さあな、だが、一つだけ確かなことは、俺たちの雷同様が帰ってきたということだぜ」
真田と鳥羽が期待と興奮にうち震えている。
「これは大事なことなんだ。みんな嘘偽りなく答えてくれ。この中で最近、夢精をしたというものは名乗り出てくれ!」
誰も手をあげやしない。真田も鳥羽も。
「よし! 俺も最近、夢精をした! みんな、これは恥ずかしいことじゃないぜ! よし、じゃあみんな目をつぶってくれ! 俺がいいというまで絶対に目を開けるなよ! 目をつぶったか? 開けているものは一人もいないな? よし、じゃあ夢精したものは手を上げてくれ!」
手を上げたのは俺を含めて四人。雷同、真田、鳥羽、それに二年生の片桐という男だった。
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