第39話 なんだかハリポタの気分ですぅ!
日が暮れ、花火の時間が始まった。
短いスティックから、カラフルな火花が飛び散るさまに、サキはおおいに珍しがった。
「なんですか、これ。謝肉祭ってやつですかっ?」
「いや、別に肉に謝ってるわけじゃないけど、ただのレクリエーションっつうのかな。ほら、お前もやってみ」
爛々としていたサキの目が急に曇り、ザリガニのようにバックステップで腰から逃げた。面白いので俺は、すでに着火した花火を無理矢理にサキの手に握らせた。
「お、おおーっ! なんだかハリポタの気分ですぅ!」
エナジー・ドレインのことを忘れていた俺は、急激に力がぬけ、地面に膝をついてしまった。
サキは横目で気にはしつつも花火に夢中。俺の渡した花火が切れると新たに花火を取りにいった。
まるで貧血のように頭がクラクラとしている俺は、その場で三角座りをし、ヒザの中に顔をうずめた。
「どしたの? 大丈夫?」
顔を上げるとマヤがいた。
「うん、ちょっと飲み過ぎたかもしれん」
俺はすがるような目でマヤを見た。
「花火を見てると気分に触るよ、離れよ、ここ」
そして負傷兵は戦線を離脱した。いや、正確には戦線に突入したというべきか。なにしろようやくマヤと二人きりになれたのだから。
森の木陰のベンチに俺たちは座っていた。
「これ、ミネラルウォーターでいい?」
マヤは天然水のペットボトルを俺に渡してくれた。
「なんか、ごめんな。迷惑かけて」
「いーって、別に。私、あんまり蚊に刺されないほうだし」
そう言いながら、マヤは自分の腕をピシャリと叩いている。
「なんかねぇ、俺は思うんやけどね。いや、ほんま、あの時はごめん」
「だから、いーって! ……ん? あの時って?」
「盲腸から退院した後、君の部屋に泊まった夜のこと」
少し離れたところでは、花火をしながら騒ぐサークルメンバーたちの声が聞こえる。
クライマックスなのだろうか、打ち上げ系の乾いた炸裂音がし、女子たちがキャーキャー騒いでいた。
「あのとき、雷同くんが謝るようなことって、なんかしたっけ?」
マヤの中では薄い記憶となってしまったのだろうか。彼女は困ったように笑った。
女のあなたに恥をかかせる形となってしまい、すいませんでした……それが俺の謝る内容である。が、言葉に出されたほうにとっては逆に失礼にあたるかもしれない。なかなかにデリケートな問題なので、うかつにしゃべれない。
「雷同くんはあの時、他に好きな人がいて、なのに私とああなっちゃったことを、悔やんでいるのかな?」
俺は不動の姿勢を崩さない。
「それとも、好きじゃないのに、あんなことをしたのを悪いと思っているの?」
俺はマヤと目をあわせない。あわせることができない。
これは……予想外だ。
据え膳食わぬは男の恥……だなんて言葉があるが、それはゲスな男目線の言葉であって、女性サイドからはそう見ていなかったんじゃないのか?
誘惑をする側、モーションをかける側はつまみ食いをされることを不本意としているのならば、俺のとったヘタレた行動は、ある意味で紳士的だと解釈されているのかもしれない。
「むしろ私が謝るべきだよ。雷同くんの気持ちも確認しないで、あんなことをして。だから今日、普通に接してくれて嬉しかったんだ。雷同くん怒ってるんじゃないかなって。私の方が気にしていたから」
あれ? なんだか俺にとって有利な展開になっている。引きこもり気味になって、損していたと言わざるを得ないぞ、これは。
「あー、そっか、気にしていたんや。君も……」
いい流れになってきた。現状がベストなのかもしれない。今晩はおとなしくしておいて、これからのサークル活動によって彼女との中を積み重ねていこう。
穏やかな夜をすごせると思っていた。が、サークルがいる方向から女性のかん高い叫び声が聞こえてきた。
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