第30話 自分、倍率の高い女子にはけっして近よりません

 バーベキューには男女あわせて三十名ほど参加していた。その中にはわが妹サキの姿もあったが、俺は少し距離をおいた。新入生の女子が来ているというのに、サキがまとわりついていたら彼女だと勘違いされそうだ。それはマイナス。なのでサキには新入生男子の中に飛び込ませることにした。案の定、新入生男子たちはサキの美貌に屈服した。彼らはサキを取り囲んで矢継ぎ早に質問攻めをしている。

 これでライバルは減った。

 が、そこで俺は新入生女子の輪にとびこんでガツガツとアピールするわけでなく、肉だけをガツガツと高速で食べている。

「雷同さん、さっきから肉しか食ってないじゃないですか! 野菜も食べてくださいよ! ピーマンやかぼちゃも美味しいですよ!」

 そんな俺を真田がなだめる。

「笑止! だからお前は童貞なんだ! 俺はお前とは違い、肉食系なんだ!」

 そう言いながら、俺は腰を深く落とす。そして股のラインに沿って両手を高速で動かした。

「な、なぜにコマネチ? 肉食系、関係ないじゃないですか!」と真田。

「先輩、動画に撮ってブログにアップしていいッスか?」

 鳥羽が俺にデジカメを向けていたりする。

 このように、なぜか雷同をカリスマ視する後輩にはさまれていた。

 新入生の女子たちは肉をのせたり、肉を切ったりとテキパキと働いている。男子にたいするアピールなのだろうか。その女子たちに混じって細々と動いている男が一人いた。それが根津だった。

 根津は日陰者の俺とは違い、日向者だ。いつもニコニコして怒ることがなく、面倒見がよく、誰の相談にも喜んでのる彼は、まわりから『いいひと』のイメージを抱かれ、男女ともに人気があった。

 俺よりも友達が多く、リア充に見えるのだが羨ましくはなかった。彼自身が言いたいことややりたいことを何一つ行動にうつしているようには見えないからだ。

 二つ隣のテーブルではマヤの姿が確認できた。

 真田や鳥羽と話している間もマヤの姿を目で追ってしまう。彼女が誰とどんなことを話しているのか、ついつい気になってしまう。

 けして避けているわけではないのだが、どうも自分からは接近しづらい。と思っていたら、もろに目が合った。

 マヤは俺に向かって手をふると、ビール缶を持ったまま俺に近づいてきた。

「あの子、雷同くんの妹だったんだね。凄い人気だねー」

 一年生の男子に囲まれ、逆ハーレムを作っているサキの方向を見る。

「ん。内面はともかく、見た目だけは可愛いからな。お前らも俺に気ぃ使わんと、あっちに行ってきてええんやぞ」

 真田と鳥羽に移動するようにうながす。

「自分、倍率の高い女子にはけっして近よりません」と真田。

「雷同さんを見ているほうが飽きないッス!」と鳥羽。

 男からモテても正直嬉しくない。というよりひさびさにマヤと話をしたいのに、こいつら邪魔。

「でもさ。本当に雷同くんの妹? あんま似てないよねー」とマヤ。

 真田と鳥羽が激しくうなづく。

「失敬な。兄と妹なんてのは本来、そんなに似るものやないねんって。だいたい兄に似ている妹が可愛くなるはずがない」

 力強く言いきり、押し通す。

「ふーん」

 マヤはいたずらっぽく微笑み、俺の顔を見回す。

「じゃあさ、最初に会った時、恋人って紹介したのはどうして? ずっと気になってたんだ」

 顔は笑っているが、目は真剣だ。ふざけた返答ができないように圧力をかけられているようだ。

「あぁ、あのときはね、驚かそうと思ってん。驚いたやろ?」

 それでも俺は茶化すような返事をした。

 一瞬、マヤは目を見開いたが、すぐに表情がやわらいだ。

「驚くもなにも、真に受けちゃうよ。わかった。じゃ、本当に恋人じゃないんだねー。そもそも恋人同士だったら隣にいるかー」

 マヤは勝手に納得し、離れていった。

「あの女、雷同さんの未来の嫁気取りッスか?」と鳥羽。

「きっと雷同さんに気があるんですよ。ね、雷同さん」と真田。

 そんな後輩たちを無視し、俺は黙々と自分の食べる肉を焼く。

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