3章 好きとスキーとすっぴん女
第29話 ゴールデンウィークという名のイベント
しばらく平穏な日々が続いた。
昼過ぎまで寝て、たまに大学に出かけて授業を受け、サークルに顔を出した。
ときには不意打ち気味にサキが参入してきたが、トラブルに発展することはなく、雷同の妹ということで定着し、天真爛漫な性格で男子からはもちろん、女子からもチヤホヤされていた。
そして俺はそんな妹と半同棲状態にあった。
夜、いっしょに部屋にいるときはマリオカートなどの対戦型ゲームで遊んだり、スナック菓子を食べ炭酸飲料を飲みながら、レンタルビデオを見たりして過ごした。
サキは悪魔という存在でありながら、ホラー映画が苦手だった。特にゾンビが大群でおしかけてくる映画などでは目を見開いたまま失神したりしていた。
「お、お前……まがりなりにも悪魔のくせにゾンビなんか怖がるなよ」
「悪魔といってもエロス専門です! やたらと人を襲う、こういうグロい方々とはお近づきになりたく……うぎゃあああ!」
お世辞にも可愛らしいとはいえない絶叫をし、サキは俺の肩に抱きついてくる。
「わ! やめろ! くっつくな! 殺す気か!」
慣れた俺は上半身の動きだけで避ける。もし彼女が人間だったのなら、くっつきたい。力強く抱きしめたい。
それができないで至近距離にいるのは辛いことだが、一人淋しく部屋にいるよりはずいぶんマシだ。
肩を寄せあい、だけどけっして触れることはない。近くて遠い関係。
夜、俺がベッドに入る頃にサキは出かけに行く。もともとは夜行性の彼女のこと。不特定多数の男にエロい夢を見せ、精気を搾り取っているのだろう。
この淋しさは、ほら、あれだ。
デリヘル嬢の帰りを家で待つ彼氏も、こんな気持ちなんだろうか? そんなことを考えてしまった。
※
新入生が入ってきて、一年も経たないうちにゴールデンウィークという名のイベントが発生する。そしてわれわれイベントサークルでは当然、イベントを企画するわけで……。
われら『オルたなっ!』は連休中にバーベキューに行くことになった。
場所は大学からは二時間近くかかる、西東京にある自然公園だ。
少し高いが、肉を焼く道具や各種機材はバーベキュー場が貸してくれる。男どもは買い出し要員として近くのスーパーで肉やドリンクの調達に行った。
そんなときに俺は思う。
たとえば……根津や真田にしてもそうだが、両手に肉やドリンクの入った袋を持っているというのに、どうして俺は袋を片手(それもスナック菓子とか軽いものしか入っていない)にしか持っていないのだろう?
ほぼ重さがない状態なのに、俺は他の人の荷物を持とうとすることもなく、涼しい顔をして歩いている。
なのに後輩の真田からは
「雷同さんが来てくれただけで嬉しいから、むしろなにも持たなくてもいいくらいですよ」
と気を使われている。
こんなにまわりの人間から甘やかされていて、いずれ社会人としてやっていけるんだろうか、と不安にもなる。
けれども、けして人の荷物を持とうともしない。
俺という男はそういう人間なのさ、最低!
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