第9話 トラウマをほじって、さらして、料理して。
サークルにほとんど顔を出していない女子三人組がいた。三人ともなかなか可愛いので、なんとか繋ぎ止めたいと秋草がぼやいていたので『俺、選択授業で三人と一緒やけど、話しかけてみよか?』と男前な態度をとってしまったのだ。
そして俺は授業の終わった後、三人をつかまえて、話をする時間が取れないか持ちかけてみた。
えぇ、まぁ……別にいいですけど。
三人ともそっけないリアクションだったので、俺は不安になった。
この四月、君たち三人はまったく顔を出していないやんか、このサークルを続ける気はあるんか?
三人とも顔を見合わせて困ったように笑った。
嫌だ、嫌だ、この感じ。海に向かって石を投げ込んでいるような虚しい気分にかられる。
どうとでもなれと思い、俺はぶっきらぼうに言い放った。
そらまぁ、たしかにたいした活動もしてへんし、馬鹿にされてもしゃあないと思う。けど、顔を出し続けてたら、そのうちに誰か面白いやつと知り合えるかもしれへんやんか。青春は一回こっきりやで。
そこまで言っても、来るのか来ないのかどっちつかずの態度だったので、サークルの連絡網を作るので続けるのか続けないのかハッキリしてほしいねん、と、強めの口調で伝え、逃げた。
もう来ることはないだろうな。
そう思っていた。
それが来た。
もっとも三人のうちの一人は来なくて、マヤと智子だけだったが『いったい、どんなマジックを使ったんだ?』と秋草は驚いていた。
それから、マヤと智子はやたらと俺になつくようになったのだ。
「いいじゃないですか! たまたまDQNっぽくふるまったのが、功を成したんですう!」
「DQNって言うなや……で、サークルに入った二人とは仲良くなった。マヤは長野県、智子は静岡出身だったかな。田舎から出てきたばかりで人見知りの強い二人は、俺を起点として他のやつともしゃべるようになってん。ま、ある意味では俺がマネージャー的な役割を担っていたともいえるな」
そして緊張の溶けた二人は、じょじょに砕けた態度をとるようになってきた。大きく口を開けて笑い、目を細めエクボをつくり、時には拗ね、肩をグーで小突いてきたり……。
自然体となった彼女たちを見て、やっと俺は気がついた。
あれ、こいつら、もしかして……。
いや、もしかしなくても、けっこう可愛いじゃあねーか。
それから俺は彼女たちを、ただの後輩ではなく、異性として意識するようになったのだ。
「そっから? そっから?」
サキが興奮してペットボトルのお茶を南米の楽器のようにシャカシャカと振っている。
「この先は……智子とのエピソードになるんやけど、どうやら人間というのは嫌なことや、恥ずかしいことを忘れていくようにできているんやろな。細かくは覚えていないんだ。人間というのはいくら強がっていても弱い生き物にすぎない。だからこそ、過去という名の荷物を少しずつおろしていくんやろな」
いつしか、滑り台の姉弟は消えていた。風が冷たくなってきた。
「カッ……カッコつけんなですぅ! それって、きちんと反省できてないですぅ。学習できてないですぅ。過去の過ちを風化させてるだけですぅ!」
「い、言わんといて! あんまり厳しいことを言わんといてあげて! あの時は自分が不甲斐なくて、穴があったら入りたい気分だったんだよぅ!」
サキは首をひねり、なにやら思案をめぐらせ始めた。
「よし、決めました!」
サキは平手をパンと打ち鳴らした。側にいた二匹の鳩が羽ばたいていった。
「前に進むには過去の克服です。今夜、私が雷同さんのトラウマをほじって、さらして、料理して差しあげましょう!」
そう言って笑うサキの顔は『小悪魔』という形容がピタリとあてはまった。同時に天使といっても大袈裟でないくらいに可愛かった。
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