第5話 三角関係はマクロスだけじゃない。



 せっかくだからサキを知人やサークルの連中たちに見せびらかしたい。そう思った俺は勧誘のさかんな校舎前を歩いてみたが会わなかった。

「よし、帰るか」

「せっかく来たのに、もう帰るんですか? さっきの童貞としかしゃべってないじゃないですか! そんなの、つまんないです!」

 サキが口をとがらせる。

「サークルの部室に顔を出したい気持ちもあるけど、用もないのに顔を出すのって不自然やないかい?」

「寝癖なおして、服を着替えて、三十分以上もかけて、電車に乗って学校に来ている時点で、わざわざついでですよ。早く行きましょうよ」

 他人に背中を押してもらえると、歩みも少し軽くなる。

 俺たちは旧校舎三階、サークル棟にむかった。

 日当たりの悪い旧校舎は日中でもほとんど日が差し込まない。廊下では時おり人とすれ違うものの、ワンルームマンションとはまた違った意味の淋しさがある。

 部室の手前で真田が声をかけてきた。

「今、雰囲気が悪いから入らないほうがいいっスよ。緊張感に耐えかねて逃げてきたっス」

「お前が顔出せって言うからわざわざ来てやったのに……どういうことやねん?」

「中はちょっと。修羅場になっていまして……」

「修羅場? なんやねん、それ、楽しそうやんけ!」

 真田の静止も振り切り、俺は部室のドアを思いっきり音をたてて開けた。

 一斉に俺を見る二十もの瞳。俺の登場により、場の空気が一変したのは間違いない。


 状況を説明しよう。部室中央には二人の男女が向かい合っていた。男のほうは二回生の川澄。あまり俺とは話したことはないが、それなりに社交性も高いタイプ。適度に今風なルックスで、いわば雰囲気イケメンというやつだ。

 女のほうは二回生の和久井。受験で一年留年しているので俺とは同い年だ。直情的で気が強く、俺の苦手なタイプだ。

 川澄と和久井がつきあっていることはサークル内では知れ渡っている。世話焼き姉さんの側面も持っている和久井に、川澄からの告白でカップルとして成立した。二人は半年前からつきあっている。

 そして二人のわきには見知らぬ女子が一人立っていた。たぶん春に入ったばかりの新入生だろう。

 おそらくはその三人が事件の中心人物だろう。

 他の者たちは敵対する男女の後ろに、なだめるように立っていたり、まったく関わろうとしないで窓際でスマホをいじっていたりしていた。

 想像するに、川澄、和久井、新入生の間に三角関係が発生したのだろう。

 三角関係……そんなものはマクロスだけの話かと思っていたが、現実に存在するとは……ムカつくぜ! そして羨ましいぜ!

 この状況で俺にできることはなんだ?

 空気を読んで、空気に溶け込むこと?

 空気を読んで、なおかつその空気を浄化してやること?

 いいや、空気を無視して、なおかつかき乱してやることだッ!

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