第28話 後輩…⑥

 お互いに自己紹介を交わす。


 良くある話しというより初対面なのだから、当然の話しである。


「………」


 自己紹介を交わした後、三人は終始無言であった。


 互いが互いを、牽制しあう。


 チラチラと、ほのかを見ながら、達也は考える。


(ちょっと待て。俺が何か言わなくてはいけないのだろうか?)


 飲み物を買って帰ってきたら、知らない上級生が部室にいた。


 さて、何の用ですか?と、聞いた方がいいのだろうか?しかし、何の用って、そりゃあ…相談部なのだから、相談に来たのは間違いないハズである。


 それにだ。


 内容は分からないが、俺が部室に帰って来た時、部屋の中きら話し声が聞こえていたのは間違いない。


 つまり、俺が帰って来たから無言になってしまった…とでもいうのだろうか?


 だとすれば……。


 そんな事を考える達也。


 一方、ほのかはというと。


(ちょ、ちょっと待って!?何で何も言ってこないのよ⁉︎コチラの方は?とか、何を話してたんだ?とか、き、気にならないのかしら?)


 特に重要である、何を話してたんだ?と、達也が聞いてこない事が腹ただしいほのか。


 知らない上級生と部室で二人っきり。


 自分とこの上級生が初対面であるという事は、先ほどの自己紹介の時に分かっているハズである。


 やましい事などしていないし、やましい気持ちなど当然ない。


 普通であれば、知らない上級生がいきなり部室にやって来ているのだから、こ、告白とかそういった事を想像するものではないだろうか?


 しかし、達也はその事を気にしていないようであり、ほのかにとってはそれこそが問題であった。


 達也とほのかは、チラチラとお互いをチラ見する。


 ほら、聞いてきて!ほら、言ってこい!と、二人の気持ちはバラバラであった。


 そんな攻防がしばらく続くかと思われたのだが、長くは続かなかった。


「あ、あの…」


 そんな二人に気付いてか、申し訳なさそうに緑川が二人に話しかけてきたからである。


『は、はい⁉︎』


 不意に声をかけられた二人。


 思わずハモってしまう。


『…………』


 その事により、少しだけ頬を赤く染める二人。


 そんな二人を見て、緑川はクスクスと笑うのであった。


 ーーーーーーーーーー


 流石は部長!と、言うべきだろうか?


 いや、これが当然だから。と、言うべきだろうか?


 ワザとらしく咳を吐き、緑川に座るように促したほのかを見ながら、達也はそんな事を考えていた。


 ちなみに席順は、窓側にほのかが座り、ほのかから見て、右手側に達也。ほのかの左側に緑川が座っている。


 長方形の形をした机に、パイプ椅子に座る三人。


 緑川の後ろには黒板や教卓があり、達也の後ろにはたくさんの机と椅子が重ねられているそんな部屋。


 今は相談部として使用しているこの部屋は、元々は教室として使用していた部屋だ。


 少子高齢化に伴って生徒の数は減り、学級閉鎖によって、空き教室が出来てしまっている。


 その為、部室は基本的に空き教室を使うのだが、まだまだチラホラと、空き教室が見受けられるのが現状なのであった。


 緑川が座るのを見たほのかは、先ほど達也から買ってきてもらったレモンティーを自分の左手側 手前に置き、スッと席を立った。


 その動きを見て、ビクつく達也。


 ま、まさか…部室から出ようというのだろうか?


 もしもそうなった場合、見知らぬ人、しかも上級生と二人っきりになってしまう!?


 それだけは何としてでも、阻止せねば!!


 そう考え、達也が動く。


「さ、佐倉、部長?」


 "ぶちょう"が、"ぶひょう"と聞こえた気がしたが、ほのかは特に気にせずに、何か用?と、達也に質問する。


「あ、いや、何処かに行く気なんじゃないかなぁっと、思いまして」


「えぇ。緑川先輩にお出しするお飲み物が無いから、買いに行こうかと思って」


 そう言いながら、スッと、自分の椅子を綺麗に並べ直すほのか。


 達也は自分の分のコーヒーと、ほのかの分のレモンティーしか買ってきていない。


 その為、緑川の分の飲み物がなかったのである。


「あ!僕は大丈夫だから、気にしないで」


 ほのかがそう言い出したのは、普通の事であり、緑川がそう言い出したのもまた、普通の事であった。


 遠慮なのか、それとも本当に大丈夫なのか。


 達也にもほのかにも、分からない事である。


「いえ、そういうわけにはいきませんので」


「そ、そうだ!すいません、先輩。コーヒーで良ければ…」


「え?でも、そしたら君の分の飲み物が無いじゃないか」


 スッと、缶コーヒーを差し出す達也。


 いいよ、いいよ。と、差し出された缶コーヒーを、達也側に押し返す緑川。


「いやいや。先輩が何も飲まずですと、俺たちが飲み辛いですから…ね?部長」


 缶コーヒーを再び緑川の方にスッと押し返しながら、達也はほのかを見る。


 ほら!ほら!コレで万事解決!!だから、二人っきりにしないで(>_<)という思いと共に…。


「そうね。緑川先輩に飲み物が無くて、私達だけっていうのは、何だか飲み辛い雰囲気ですものね…なら、達也君の分を買ってきましょうか…」


 右手をアゴにあてながら、ほのかはそんな事を提案する。勿論、達也の思いなど届いていなかった。


「………!?」


 お、おい!そ、それじゃぁ、い、一緒じゃねーか!!と、当然 達也は焦る。


 そんな達也に気付く事もなくゴソゴソと鞄から、可愛いらしい長財布を手に取るほのか。


「いやいやいや!部長、佐倉部長。そ、それじゃぁ…俺が買って来た意味がなくなりますって‼︎」


 ほのかのレモンティーは、達也の奢りである。ここでほのかが達也の分の缶コーヒーを買って来た場合、達也の缶コーヒーはほのかの奢りというわけである。


 勿論、達也がほのかにジュースを奢った意味など特にないし、なら、お金を寄越せなどと言うほのかでもない。


「けど、達也君にだけ飲み物が無くて、私と緑川先輩にだけ飲み物があるっていうのは、それはそれで、飲み辛いじゃない」


 ほのかには達也からのレモンティーがあり、緑川には達也の缶コーヒーがある。


 そして、何もない達也。


 ほのかの言い分はごもっともであり、ですよね〜と、思う達也だったが、達也は再度ほのかを引きとめる。


「そ、そうだ!!」


 自分が買いに行きますから!という考えがよぎる達也であったが、仮に自分が買いに行った場合、ほのかと緑川先輩の二人っきりになってしまう。


 ほのかが密室で、男と二人きり……イ、イヤだ!


 。゚(゚´Д`゚)゚。


 という気持ちなど達也には全くなく、ほのかがコミュ症だという事を知っている為、それはほのかが可哀想だろうと考えたからである。


「部長。申し訳ないんですが、そのレモンティー、俺と半分っこしませんか?」


「………えっ!?」


「……?」


 何でそこで固まるんだよ…というより、佐倉は俺がコミュ症だって知ってるよな?いや、ま、まぁ、しょうがないんだろうけどさ。


 ほのかの言い分は正しい。と、達也は思っている。


 この場を治めるのに一番いいのは、緑川先輩自身が飲み物を買いに行く事なのだが、流石に買いに行け!などとは言えない。


 お互いがコミュ症なので、片方が買いに行き、片方が残るのは何とか避けたい事であり、緑川先輩に飲み物が無く、自分達だけに飲み物があるという事が、気不味いというほのかの言い分も分かる。


 お互いがコミュ症なので、自分が買いに行きます!と、先手を打つのも当然の流れと言っていいだろう。


 だとするならば、行かせてなるものか!と、俺が動くのは間違ってないよな?


「……あ、あの?」


 レモンティーを半分ずつにしようと提案した達也。


 しかし、ほのかからの返事がない。


 不思議に思いながらほのかに話しかける達也。


「た、達也君!!」


「は、はい!!」


「お、お先にどうぞ…」


 お先?何を言ってんだ?


 決して目を合わせようとはしないほのか。


 スッと差し出されたレモンティーを見ながら、達也は考える。


 半分ずつ。


 お先にどうぞ。


 この二つの事から佐倉が言いたい事とは…。


「…………⁉︎」


 な、なるほど。


 そういう事か。


 さすが達也でも、ほのかが何を言ってきているのか、理解した。

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