第26話 後輩…④
気不味い空気を何とかしようと、ほのかが動く。
具体的に説明するならば…といっても、お悩み相談サイトに助けを求めただけなので、具体的に説明するまでもない。
「……と、とにかく一度、二人でやってみましょうよ」
「…あ、あぁ」
バイト先で色々あって。
これについては聞きたくない。
佐倉はそう言いたのか?と、思いながら達也は返事を返した。
バイト先で色々あってなどというワードは、ネガティブワードに当てはまるのかもしれない。
だとしたら、ほのかが話しをはぐらかしたのも頷ける話しだろう。
何故ならば本来 愚痴というものは、人を不愉快にさせるものだからである。
勿論、達也は愚痴を言うつもりはないのだが、利き手によっては変わってしまうものだ。
達也が言いたかったのは、人が辞めてその抜けた穴を埋める為にバイトになった。コレだけである。
(…結局、言いづらくなってしまった、か)
ほのかに手渡されるプチボードとペンを受け取りながら、達也はそんな事を考えていた。
「これ…で、いいかしら?」
一人言のように呟きながら、ほのかはマウスを操作する。
「え〜っと…」
右手に握ったマウスを上下に動かし、右手人差し指で二回クリックする。
「読むわね?」
「ちょっと待った」
「……⁉︎な、何?」
「いや、そんなに驚かないで下さいよ。飲み物を買って来てからでもいいですか?って、聞こうと思っただけっすから」
「あ、そっちね。良かった」
「ん?何か言いました?」
「言いわよって言ったのよ」
「……部長は、何か飲みます?」
「えぇ。レモンティーをお願い」
「あ、いや、お金はいいっすよ」
可愛らしい長財布を鞄から取り出すほのかを見て、達也は待ったをかけた。
「…そ、そう?ありがとう」
「あ、あぁ。じゃぁ、いってきます」
「え、えぇ。い、行ってらっしゃい」
コミュ症である二人。
頬を赤く染めながらの会話であった。
ーーーーーーーーーー
さてと。
バイト先での欠員があり、GW中はバイトに開けくれる予定だったのだが、何だか言いづらい空気になってしまった。
自販機にお金を投入しながら、どうするかを考える達也。
どうするも何も、既にシフトが決まってしまっているのでほのかに伝えるしかないのだが、どう切り出せばいいのかが分からない。
はぁ…助けて。ドラえも〜ん。
困った時のドラえもんは、現代の科学ではまだ出来ていない。
出来る事なら、自分が生きている間に開発してほしいものだが…さて、はて。
買うなら幾らぐらいだろうか?
いやいや、ドラえもんをお金で買おうだなんて、そんな、そんな。
夢はお金では買えないんだぜ!
そうだろ?
だから、頼むぜ!せわし君。
自分の分のコーヒーと、ほのかの分のレモンティーを取り出しながら、未来からやって来るであろう少年を思い出す達也。
それは、現実逃避気味に…であった。
ーーーーーーーーーーーー
結局、考えがまとまらず、部室へと戻る達也。
ん?
な、何だ?
飲み物を買い、部室に戻って来た達也であったが、中から話し声が聞こえてきた。
(…佐倉が、電話か?珍しいな)
ほのかとはそれなりに一緒にいる達也だが、ほのかが携帯を触っているのを、達也はあまり見た事がない。
会話をしてるんだから、電話か何かだろう。
一人言だったら怖えしな。
優しくノックをしながら、達也は入っていいかを尋ねた。
ーーーーーーーーーーーー
それは、天の思召しであった。
いや、恋する乙女ほのかの場合、ピンチのときに颯爽と現れる、私だけの騎士さま♡と、表現した方がいいのかもしれない。
というのも、達也が飲み物を買いに行ったあと珍しく、いや、初めて相談部に人がやって来たのである。
た、達也…くん。
ほのかは心の中で、歓喜した。
ーーーーーーーーーーーー
話しは少し戻って、部室にて。
行ってきます/行ってらっしゃい。
まるで、新婚夫婦のような会話ではないか!?
バシバシバシ!
くぅ〜♡と、悶絶しながら、何度も机を叩くほのか。
これ、これなのよ!
ほのかが望む未来。
希望に満ちた、そんな未来。
「……はっ!?」
いけない。いけない。
地球に生まれて良かったー\(^o^)/などと考えている場合ではない。
達也がいつ帰って来るのかが分からない以上、いつでも大丈夫のようにしておかなくては…と、小さく頬を叩き、口元の緩みを直すほのか。
そんな時であった。
コン。コン。
ん?達也…君?
ノックの音を聞きながらほのかは、はて?と、首を傾げた。
達也にしては早すぎる。
もしかして財布を忘れたとか?
それならそれで、達也がどんな反応を示すのかがとても気になるところだが、そんな事よりもだ。
(と、とにかく…)
再度ほほを叩き、口元の緩みを完璧に直したほのかは、どうぞ。と、ドアに向かって一声掛けた。
ガラガラ。と、ドアが開く。
パソコンをいじってました。というポーズを取るほのか。
その為、目線はパソコンに向けられていた。
さて、彼はどんな表情をするのか…ふふふ。
そんな気持ちを抱きながら、ふー。っと小さく深呼吸をし、目線をドアの方に向ける。
「……!?」
「やあ」
そこには達也ではなく、見知らぬ男子生徒がにっこりと微笑みながら立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます