第24話 後輩…②

 片思いって辛い。


 佐倉ほのかはそれを、嫌と言うほど思いしる事となった。


 それは、連休明けの月曜日。


 明日まで学校に行けば、GWという名の大型連休に入る。そんな月曜日。


 どっか行く〜?


 私、GW中はデートなんだぁ〜♡


 え〜いいなぁ〜。


 教室にて、佐倉ほのかは他愛も無い会話を耳にする。


 GW中って、ずっとですか?(笑)と、普通は思うのかもしれない。しかし、好きな人がいる人からしてみれば、それはほっとけない内容かいわであった。


 ほのかは、そんな会話が聞こえてきた方へと目だけを向ける。


(ホッ…。良かった)


 キャハハ、アハハと会話をしていたのは、このクラスの上位カーストに位置する女子グループであった。


 アレならと表現するのは人としてどうかと思うかもしれないが、恋する乙女からしてみれば、アレならと表現してしまうのは仕方がない事だ。


 アレなら。


 アレなら達也とデートなどあり得ないと言っていいだろう。


 つまりほのかがホッとしたのは、そういった理由からである。


(フ、フン…私だって)


 私だって。


 部活という名のデートを、毎日達也としているん…だから……!?


 視線を前に戻しながらそんな事を考えていたほのかであったが、ここで、あり得ないものを目撃してしまう。


 いや、あり得ないというより、考えられたくはなかったと言った方が正しいかもしれない。


(た、達也…君)


 ほのかが目撃してしまったのは、そんな会話をしている女子グループに目を向けている、達也の姿であった。


(あ、ああいう人が、タイプ、なのかな…)


 テンションが一気に下がる。


 今にもどうなんだ!と、問い正しつかみかかりたい気分だ。


 勿論、そんな事ができるハズもない。


 桐原達也と佐倉ほのかの関係は、そういった関係なのだから。


 ーーーーーーーーーーーーーー


 気分は最悪だ。


 いや、機嫌はと言った方が正しいかもしれない。


 放課後となり、ほのかは一人寂しく部室で本を読んでいた。


 正確には本を開いているだけで、読んではいない。


 先に部室に行っててくれと達也から言われたが、あれから30分が過ぎており、何処で何をしているのかが気になって仕方がないほのか。


 勿論、これが初めての事ではないのだが、あの時の事を思い出してしまうと、気にしない方が無理ってものであった。


 まさか…?いやいや、あり得ないって。


 あんなビッチと達也君が、デートの段取りを密かにしているなんて…。


 本当に?


 本当だ!というだけの証拠を、ほのかは持ち合わせていない。


 だからこそ、こうして不安な気持ちになってしまっているのだった。


 はぁ…。


 ガラガラ。


 ……ちょ⁉︎


「遅くなってすまない……ん?」


 扉を締め、謝罪を口にしながらほのかの方に目を向ける達也。


 目を向けると、凛と済ました表情を浮かべるほのかの姿がそこにはあった。


「…………」


(…………)


 明らかに怪しいと疑ってしまう達也。


 ほのかの頬は少しだが、赤く染まっていて、髪も乱れている。


 決定的だったのは、本が逆さまになっていた事である。


 もしや、寝ていたのだろうか?


 自分が来た事により、ほのかは慌てて今起きた。


 そう考えるのが、普通である。


 いや、普通であれば、寝てたのか?笑。と、聞くところなのかもしれない。


 しかし残念ながら、桐原達也にはそういった考えはなかった。


 ガタッと椅子を引き、スッと椅子に座って本を開く。


 触れないでおいてやろう。


 それが、優しさってもんだ。と、達也は考えての行動であった。


「…………」


(な、何よ⁉︎)


 無言のまま本を開く達也。


 当然、部室内は静寂に包まれる。


(遅れて来た理由ぐらい、言いなさいよ!)


 いつもなら気にしないのだが、やましい?気持ちがあるほのかからしてみれば、それは耐えられない事であった。


「た、達也…君」


「ん?何かよ…⁉︎」


 何か用か?と尋ねようと、目を向ける達也が目にしたのは、明らかに怒ってらっしゃるほのかの姿であった。


 ギロりと睨みつけるような目つき。


 いや、ギラリと光っている目つきであったと言い直そうか。


 両肩は小刻みに震えており、怒ってるという事ぐらい、達也にでも分かる。


 え?何で怒ってんの?


 ウケる〜。と、第三者なら思うかもしれないが、当事者ともなると話しは別だ。


「あ、あの…怒って…んのか?」


 怒っている理由が分からない達也は、思い切って尋ねる事にした。


 理不尽に怒られるのは御免こうむりたいし、怒っている人と一緒の空間ほど気不味い空間はない。


 自分に原因があるなら直せばいい。あるいは、謝れば済む話しである。


 しかし、原因が分からない事には直しようがないし、謝りようもない。


 そう考えての行動である。


(え⁉︎な、何で…分かったの!?)


 勿論、何故バレたのかが分からないほのかは、激しく動揺してしまった。


 動揺してしまう事により、更に怒っているように見えてしまったのは、言うまでもない事である。


 達也から尋ねられてしまったのだから、何かを答えなくてはならないと考えるほのか。


 必死に考え、一つの答えにたどり着いたほのかは、その考えを口にした。


「な、何でだと…思う?」


「………!?」


 はい。出たーー!


 出ましたよ。


 小さな名探偵、いや、じっちゃんの名にかけても解けない事件が起きましたよ!


 女の子から出される難問の一つに数えられる問題。コレに答えられるのであれば苦労はしない。


 というより、何でかが分かるなら、初めから怒ってんのか?などとは聞かないから。


 まぁ、そんな事を言えるハズがない。


 それこそ、火に注ぐ油ってヤツだ。


 いや、火に油を注ぐだったか?


 しかし、さぁ?とか、分からない。とか、そんな事を言えるハズもない。


 は?そんな事も分からないわけ!?と言われ、更に機嫌を悪くしてしまう、それが、女子っていう不思議な生き物なのだ。


 ソースはいのり。


 さて、考えろ俺。


 いや、感じるんだ!


 トラパーの風を!!


 そこまで考え…いや、感じる事にした達也は、心の中で自問自答する。


 問一。部活に遅れた事に対して、佐倉ほのかは怒っている?


 解。いつもではないにしろ、遅れる事はあるし、その際に怒られた事はないので違うと思われる。


 問二。部室で携帯をいじっていて、何かがハズレてしまった為に、佐倉ほのかは怒っている?


 解。知らんがな。そもそも佐倉ほのかは携帯を握っていないし、携帯ゲームをしているところを俺は見た事がない。


 まぁ、気持ちは分からなくもない。


 とあるのアプリのガチャ。


 全然、当たらないっす。


 後、ゲコタ石をもっとたくさん下さい。お願いします…って、話しがズレてしまったか。


 とにかくだ。


 ファンクラブのチケットがハズレたとか、そういった事で怒っているハズがない。


 問三…って、まぁ、コレだろう。


 佐倉ほのかの慌てた様子からして、寝ていたかあるいはウトウトしていたか。


 つまり、それを見られたと思ったから怒っている。


 なら?


 話しは簡単だ。


「……すみません。はなかったんですが」


「………!?」


 本当は見てなどいない達也だが、穏便に済ませる為に敢えて嘘を吐いた。


 先日はいのりに嘘を吐いてしまい、どエライ目にあったのを達也は忘れてはいないのだが、あの時の嘘は見栄からくる嘘であり、今回のは気を遣っての嘘なので、別に気になどしなかった。


 勿論、達也は気にしなくても、ほのかが気にしてしまう羽目になるのは言うまでもない。


 見るつもりはなかった。そう達也から言われたほのか。


 体温が一気に上昇する。


 ほのかが気にしていたのは、ビッチと達也の関係であり、達也の考えは的外れであった。


 つまり、達也がビッチの方を見ていたのを気にしていたのであって、携帯とか寝顔とかではないという事だ。


 その為、見てすまなかった。という達也の言い分は通ってしまう。


「……⁉︎な、何で、見たのよ」


 動揺しつつも、ほのかは尋ねる。


「……?何でって、普通、見ますよね?」


 どうやら自分の考えは当たりらしい。そう思う達也であったが、更に質問されてしまう。


 部屋に入って、人がいれば見てしまう。


 道端で女性がキャッ!などと言えば見てしまう。


 仕方がないだろ?と、達也は思った。


「そ、そりゃあ…そうだろうけど…」


 達也の謝罪を受け、口ごもるほのか。


 言われてみれば、その通りだからである。


 キャハハ、アハハと、話し声が聞こえれば、誰だって見てしまうだろう。


 ソースは自分。


 仕方がないのかもしれない。


 しかし、見て欲しくないと思うのもまた、仕方がない事だ。


 何故って、そ、それは…!?


「ま、まぁいいわ。次から気をつけて頂戴」


 当然、言えるハズがないほのかは、この話しを終わらせるのであった。

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