第23話 後輩…①

 達也の休日といえば、大体は決まっている。


 バイトか、家にいるかである。


 家にいる時は、まぁ、いのりがいるかいないかで変わるので、それはまたの機会に話そうか。


 とにかくだ。今日も頑張った。


 ゴミ箱に捨てられているゴミを見ながら、達也はそんな事を考える。


 ゴミを見ながらだが、別に汚い話しをしているわけではない。


 今日がどれだけ忙しかったかは、ゴミの量で判るという話しだ。


 おい!死んじゃうって!!と、思うほど忙しい時は、ゴミ袋が一日で10袋以上はでるほどである。


 まぁ、レジで集客数やら金額やらでも、忙しかったかどうかは判るが、高い物ばかり注文してこられたら、忙しいかどうかは正確には判らないだろう。


 だからこそのゴミなのだよ…っと。


 ドサッ‼︎


 そんな事を考えながら、所定の場所にゴミを捨て、グッと背伸びをする達也。


「ク、ク、ク。キリト。キリトよ」


「…………」


 インカムから呼ばれたのは、そんな時である。


 勿論、自分は達也。


 キリトではない。


 無視を決め込む達也。


「……タツヤ。大至急、我の元へ参られよ」


「…イエッサー」


 呼ばれてしまっては仕方がない。


 最初からそう言ってくれ。


 そんな事を呟きながら、達也は店長室に向かった。


 ーーーーーーーーーーーー


 部屋を数回ノックし、お決まりの合言葉を告げ、入室の許可を聞いてから、部屋に入る達也。


 ク、ク、ク。よく来たな。というお決まりの台詞を聞き、アンタが呼んだんだろ!というツッコミを心の中で唱えた達也は、用件は何ですか?と、店長に尋ねた。


「ふむ。実はカトーがこの度、我のパーティーから抜けてしまう事になってな」


「……加藤さんが、辞められるという事ですね」


「うむ。そこでじゃ!団員を募集しようかどうかを悩んでおり、隊長である貴様の意見はどうかと思うてのぉ」


「……つまり、新しい人を雇うかどうかで悩んでいて、フロアリーダーである自分の意見を参考にしたい。そういうわけですね?」


 通訳が面倒くさいと思う達也であったが、人が辞めるという事は自分にも関係がある話し…というより、全員に関係する話しなので、真面目に聞いていた。


「まぁそんなところじゃ。で?どうじゃ?」


 尋ねられた達也は、考える。


 パートのおばちゃんである加藤さんが辞めてしまう。正直に言えば、痛すぎる。


 学生よりも、パートのおば様方はとても重要な人材である。


 勿論、若い学生も重要だが、学生はよくて三年。学校を卒業と同時に辞めてしまうのが現状だ。


 それに比べてパートのおば様方は、長期の雇用が多く、ベテランへと成長し、シフトもそれなりに調整しやすいと、学生よりも嬉しい人材といえる。


 辞めてしまう理由が凄く気になる達也であったが、聞いたところでどうする?引き止めるのか?と、考えたところで考えるのをやめた。


 向こうは自分よりも30年以上長く生きている人生の先輩だ。


 そんな人生の先輩がくだした決断に対し、反論するなどあり得ない。むしろ、労いの言葉をかけるべき案件だろう。


「おい。おい。そんなに深く考える事か?」


 真剣に考えているであろう達也を見ながら、深く感心するさくら。


 たかがアルバイト。


 その人がそんな風に考えているかどうかは、態度でわかる。


 そういう人ほど、出世していく。


 だからこそ自分は、達也をリーダーに任命したのだ。


 感心しながら達也を見ていると、達也が口を開き、自分の考えを伝えてきた。


「誰かしら雇うべきでしょう。もうすぐGWですので、GWが明けたらがいいかと…」


 加藤さんほどのベテランが辞めてしまう。どれだけの痛手か。


 また、GW前に雇われても、教えている余裕はないし、忙しい時期に入った新人は、大抵辞めてしまいがちなので、忙しい時期が過ぎてからが理想である。


「ふむ。夏休みには間に合わない。か」


「人それぞれですから、なんとも言えないですね」


 仕事を覚えるスピードは、個人の力量、やる気に左右されるが、基本は3ヶ月だと言われている。


 1ヶ月目は、仲間の顔と名前を覚え、2ヶ月目は、仕事の流れを覚え、3ヶ月目には、独り立ち。コレが目安とされている。


 おい!1ヶ月目!と、思うかもしれないが、新しい環境に馴染んでからではないと、仕事を教える意味がないと言われているのだ。


 どんなに優秀な人材でも、環境に馴染めずに辞めていく人が多いのが現状である。


 せっかく教えたのに。と、思う以前に、人を雇う雇わないで、時間や労力、お金をかけたくはないと、会社は考えるものだ。


 予算を立てる上で最も大きな出費は、材料費であり、次に大きいのが人件費だろう。


 それらをカバーする為には当然、節約が求められるのが店長達であり、では、何で節約をするのかというと、コレもまた、人件費である。


 正確には、募集などをかける際に生じる、広告費などである。


 勿論、店内にポスターを貼るなどの工夫もしてはいるが、仕事を探している人を募集するのだから、それなりの出版社にオファーをしなくては、人は集まらない。


 タウンワークとか、ハローワークとかとか。


 それらを考えずに済み、尚且つ人件費削減に大きく貢献する方法は、実に単純な話しだ。


 人を育て、その人が辞めなければいい。


 それだけである。


 勿論、長く働く人の時給は上がるので、人件費が大きくなるといえば、大きくなる。


 しかし、集まるかどうかすら分からない広告費に支払うよりかもだ、そういった頑張ってくれている人に支払う方が良くないだろうか?


 例えば、頑張って働く人の時給が100円アップしたとしよう。


 一日8時間働いて800円の出費。


 20日勤務で16000円の出費。


 人を雇う際に必要になる広告費が30000円だとした場合だ、30000−16000で14000円も削減したという事になるのである。


 勿論、あくまで目安だが、考え方は大体こんな感じだ。


「しかし、退職者なんて、久しぶりですね」


 達也がバイトデビューしたての頃、就職が決まったとかで退職していった先輩以来の退職者…約一年ぶりである。


「ふむ。カトーの母君が倒れてしまった故に仕方がない」


 なるほど。どうやら加藤さんのお母様が倒れてしまい、介護に専念したいという理由からの退職らしい。


「…それは、仕方がありませんね」


 辞めて欲しくはないと思うものの、そういった理由ならば仕方がない。


 どちらが大切かなど、考えるまでもない話しなのだから。

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