第18話 いのりとほのか…⑤

 おい、おい。


 何だこの空気は?


 終始無言の三人を見て、冬美はそんな事を思った。


 まるで、三角関係の修羅場に遭遇してしまった…みたいな感覚を覚えてしまう。


(…いや、まさかな)


 妹がどうかは初対面なので分からないが、ほのかが達也に好意を寄せているとは思えないので、修羅場かと思ったのは気の所為だろうと決めつける冬美。


 無論、ほのかといのりからしてみれば、修羅場であるのは言うまでもない事である。


「…おぉ、おほん。おほん」


 ワザとらしく咳をして、チラリと達也を見る冬美。


 この状況を打破せよ!と、アイコンタクトをとったのだ。


 勿論、嫌がらせでも何でもない。


 妹の所へ知らない人を連れて来たのだから、初めに口を開くべき人物は達也だろうと、冬美が思ったからである。


 冬美からのアイコンタクトを受け、達也はゴクリと喉を鳴らす。


 達也自身、どうにかしなくてはと考えていた為、異論はない。


 冬美が達也にアイコンタクトをとったのを、いのりとほのかも気付いた。その為、スッと姿勢を正す。


 半歩ほど左足を引き、ほのかがきちんと見えるように右斜めに立ちながら意を決し、達也は口を開く。


「しょ、紹介するよ。こ、こちらが、き、昨日話した佐倉ほのかさんだ」


 慣れない言葉。


 いのりに対して嘘をつくという罪悪感。


 嘘に協力させてしまったほのかへの罪悪感。


 様々な思いから、達也はカミカミになりながらも何とか、いのりにほのかを紹介する。


『…………!?』


 その紹介を受け、カッと目を見開く二人。


(き、昨日…話した…って、ま、まさか…桐原家では毎日…わ、私の話題が出てるの?)


 羽を生やした小さな天使やハート♡やらが、ほのかの脳内をくるくる回る。


(な、何でそんなにしどろもどろなのよ⁉︎女友達に対して、そ、そんな態度あり得ない)


 ガコォーン!と、いのり脳内で、複数の稲妻が落ちる。


 無言の二人。


「……さ、佐倉?」


 紹介されたのだから、先に口を開くべきはほのかの方からだろうと考えた達也は、ほのかを呼ぶ。


「……!?」


 急に達也に名前を呼ばれたのもあるが、別の事を考えていた為、ほのかは慌てながら自己紹介をする。


「……は、初めまして。さ、佐倉ほのかでしゅ」


 慌てた所為で、最後の最後で思いっきり噛んでしまった。


(わ、私の馬鹿…も、もぉ…)


 その所為で顔を赤く染めてしまうも、90度に腰を曲げて挨拶していた為、達也といのりからはほのかの表情が見えなかった。


 無論、耳が真っ赤になっていた為、顔を染めてしまっている事はバレバレである。


(ま、まぁ…派手に噛んじゃったしな)


 そりゃあ、恥ずかしさのあまり、顔を赤く染めるのも無理ないと達也は思った。


 一方、いのりはというと、ほのかのこの態度が更に不満を増幅させる。


(こ、この女…怪しい)


 男友達である達也から妹を紹介されて、こんな風に緊張するだろうか?


 否だ。


 では、仮に緊張ではなくこの女の計算からきているのだとしたら?


 いや、待て。


 そもそも計算って(笑)


 何の為の計算よ(*´∀`)……って!!


 理由は一つしかないじゃない!?


 妹である自分に対して計算する目的がないわけではない。


 しかし、達也に対して計算している可能性と、自分に対して計算しているという可能性を考えた場合、達也に対しての方が圧倒的に可能性が高いだろう。


 自分から見てこの女は、活発な子には見えない…むしろ、無口なクール系に見える。


 浅倉冬美という人物の後だからそれほど感じなかったが、よくよく見ると美人だ。


 スタイルは…残念ながら負けている。


 ※ちなみに、完敗である。


 し、しかし…自分は今、せ、成長期。


 来年には…きっと。


「……のり…いのり!」


 そんな事を考えていたいのりだが、達也からの呼びかけによって、考えを中断させられてしまう。


 頭を下げ続けているほのか。


 勿論、顔をあげられずにいたからである。


 しかし、達也はそうは思わなかった。


「ほ、ほら。お前の返事を待ってるんだぞ」


「………チッ」


 ほのかが頭をあげられずにいるから、早く何か言ってやってくれと言う達也。


 そんな訳あるか!と思ういのりは、誰にも聞こえないよう小さく舌打ちする。


 やはり、この女は計算でやっているようだ。


 ギャップ萌えってヤツを狙っているのか、あるいは天然系を装っているのか…。


 どちらにせよ、一つだけ言える事がある。


 この女は私にとって、敵だという事だ。


 いのりはそう考え、チラリと達也を見る。


「……さ、佐倉も、ほ、ほら」


 いつまでたっても顔をあげないほのかてきに対し、心配した様子で声をかける達也の姿がそこにはあった。


 それを見て、更にイラッとするいのり。


「………」


 落ち付け。


 イラついている場合じゃないわよいのり!


 冷静になって!こういう時こそクールによ。


 ちょっとコンビニまでアイスを買いにね☆ぐらいの気持ちになるのよ!!


 気持ちを落ち着かせたところで、いのりは考える。


 もしや、こういう人がタイプなのだろうか?


 私とは正反対であるこの女ほのか


 いわいるほわほわ(ポワポワ)系、いや、癒し系。


 …私が癒し系かどうかは横に置くとしましょうか。


 ※ちなみに、見た目は完ぺき癒し系のいのりだが、本人は認めていない。


 達也に対し、いつもキツイ言葉ばかりかけてしまう事を、いのりは気にしていた。


 しかし、それは仕方がない事だ。


 何故なら、好きな人の前なのだから…。


 そんな事をいのりが考えているなどとは微塵も思っていない達也は、勘弁してくれという思いから、いのりに助けを求めた。


 無論、何に勘弁してほしかったのかと言うと、ほのかが顔をあげない事に対してである。


「ほ、ほら?いのり!」


 それを受け、ピーンとくるいのり。


 ニヤリと、心の中で微笑んだ。


「初めまして。です」


 わざとらしく、自分の名前にアクセントをつける。


 "あの"を、つけないだけまっしなのかもしれないが、聞く人からすれば嫌味にしか聞こえない。そんな言い方である。


 しかし幸いな事に、三人は嫌味だとは受け取らなかった。


「いちゅも、お兄たんがお世話になってますぅ〜」


 と、甘ったるい喋り方で、いのりはほのかに頭を下げる。


 勿論、本人であるいのりは「いつもお兄ちゃんがお世話になってます」と、言ったつもりだ。


 しかし、本人の見た目や喋り方から、そういう風に聞こえてしまう三人。


 そう言う風に聞きとられているとも知らず、ぺこりと軽く会釈をするいのり。


 コレを受け、固まってしまったのは、言うまでもなく達也とほのかである。


「……あ、あの〜いのりさん?」


 変な物でも食べたのか?と、心配する達也。


「ん?なぁにぃ?おにぃたん♡」


「あ、いや…」


 さて。


 その喋り方は何だ!と、聞いていいものなのか?


 いや、待てよ。もしかしたら世間体とかを気にしての、いのりなりの外面アレなのかもしれない。


 だとするならば、ここは何も言わない方がいいのではないだろうか?


 そう考えた達也は、何も言わない事にする。


 一方、ほのかはというと、こめかみをヒクヒクとさせてしまっていた。


 …仲が悪いんじゃ、なかったのかしら?


 どう見ても、聞いても、仲が悪いようには見えない。


 …う、嘘吐き!


 幸いにも頭を下げていた為、三人が気付く事はなかった。

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