第17話 いのりとほのか…④

 達也とほのかの二人は、職員室へと向かっていた。


 終始無言の二人。


 達也は、ほのかをどう紹介するかで悩み、ほのかは、達也の妹(いのり)にどう挨拶するかで悩んでいたからである。


 しかし、いつも無言で部室に向かう為、二人が気にする事はなかった。というより、気にする余裕がなかったが、正しい。


 ーーーーーーーーーー


 しばらく歩くこと数分。


 職員室に着き、コン、コン。と、優しくドアを叩きながら、達也は入室の許可を求める。


「…ねぇ?桐原君」


 ここは部室ではない為、達也君ではなく、桐原君 呼びのほのか。


 いつも通りの為、達也が気にする事はない。


「何だ?」


 呼び掛けられたのだから、何の用か?と尋ねる達也。


「職員室って、ご存知かしら?」


「……ご存知も何も、ココ、何ですけど?」


「あら?ごめんなさい。聞き方が悪かったわね。職員室の入室方法ってご存知かしら?」


 ……入室方法という言葉使いが、適切かどうかは横に置くとしようか。


「…礼儀作法の事を言ってんのか?なら、守ってるだろ?」


 ガンガンガン!ではなく、コン、コン。と、優しくドアを叩いているし、桐原ですが?入ってもよろしいでしょうか?と、言葉使いも守れているハズである。


 まさか、入室する目的をここで発表しろとでも言いたいのだろうか?


 聞こえてるかどうかすら、分からないんですけど(笑)


「そうじゃなくて、職員室に入室の許可を求めるのであれば、ドアを叩くのではなく、ドアを開けてからじゃないかしら?」


 え?そうなの?


「はぁ…。コン、コン、何てしたって、風の音かな?程度にしか思われないわよ」


 ほのかの注意だか嫌味だか分からない言い分を聞き、確かに…と、達也は納得した。


 職員室に限らずだが、学校の扉は押し引きで開けるのではなく、左右に引いて開けるタイプの扉が多い…というよりほとんどだ。


 その為、外から数回ノックをするのではなく、扉をガラガラッと開け、声だけで誰かを名乗り、来た目的、入室の許可などなどを外から話すのが正しいやり方なのである。


 多少、ムッとしたものの、勘違いを正してもらったのだから、怒るのはお門違いだろうと自重する達也。


 ガラガラッと扉を開け、外から声をかける。


「お?来たな。桐原!入りたまえ」


「……失礼します」


 何故、冬美先生が?


 い、いや、そんな事より、何と声をかけるのが正しいのだろうか?


 悩む達也。


 少しの間が出来てしまったのは、その所為である。


 職員室に入り、手招きする冬美の元へと向かう達也とほのか。


 見慣れた後頭部を見ながら、怒るべきなのかと考えるが怒る理由がなく、褒めるべきでないということは、初めから分かっている事である。


「……いのり」


 妹の背後に立ち、妹の名前を呼びながら、かける言葉を達也は探し続けた。


 ーーーーーーーーーーーーーー


 達也がそんな事を考えている時、ほのかはというと、コチラも言葉を探し続けていた。


 いのりとは初対面なのだから、初めまして!が、妥当だということぐらいは分かる。


 では、その後の言葉は何だ?


 佐倉ほのかといいます。か?


 しかし、歳下に向かってソレはどうだろうか?


 佐倉ほのかよ。宜しく。これなら、どうだろうか?


 少し、冷たく聞こえないだろうか?


 そもそも、達也君はどんな風に私を紹介するんだろう。


 "紹介するよ。コチラが、俺にとって大切な存在だと思ってる、佐倉ほのかさんだ"


 ……………!!!!!!ハッ!?


 危ない…危ない。


 体温が一気に上昇し、クラッとなってしまった。


 落ち着け、落ち着くのよほのか!


 冷静に、こういう時こそクールに!!


 ちょっとアイスを買いにコンビニまで…ね。ぐらいの感じよ!!!


 第一印象というものは、とても大切な事である。


 特に、好きな人の親族ともなれば、尚更だ。


 熱く、早く、高く、高鳴る鼓動をひしひしと感じながら、ほのかは達也の後を追った。


 ーーーーーーーーーーーーーー


 目の前の女性教師が、手を挙げながら自分の兄を呼ぶ。


 ドキ!?っとしてしまったのは、どちらの意味だったのだろうか。


 しかし、考えるべきことはそこではない。


「………!?」


 チラリと背後を盗み見ると、兄の後ろから女生徒が歩いて来るのが目に入ってくる。


 ま、まさか…本当にいたんだ。という気持ちも勿論あるが、それよりも、その女のルックスが気になって仕方がない。


 チラリと盗み見るだけでは、女生徒が歩いてくる事ぐらいしか分からなかった。


 かといって、じろじろ見る事も出来ないだろう。


 どうする?この先生の例もあるからなぁ。


 チラリと冬美を見るいのり。


 達也が黙って(隠して)やがった人物。


 まさかこれから紹介する女性も、この先生ぐらい綺麗な人なのかしら。


 だとすれば…私は…私は…。


 何て声をかけるのが正しいの?


 女友達って言ってたけど、仮に好意を寄せているのだとしたら…。


「………!?」


 名前を呼ばれてしまった。


 自分が呼び出したのだから、無視する訳にもいかない。


 勇気を振り絞り立ち上がると、私はくるりと振り向き、兄と対峙した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 いのりがコチラを振り向いて来たのを受け、達也はどうするかを決めなくてはいけなくなってしまう。


 と言っても、決めるのは紹介するかしないかではなく、どうやって紹介するかだ。


 普段から友達が多い人であれば、悩む事もないのだろうが、残念ながら達也はそれに該当しない。


 知識はある。


 漫画やアニメ、小説やドラマなど、こういった場合はこうするんだぜ!と、分かってはいるのだが、実際に自分が体験するとなれば、話は別であった。


 "いのり、紹介するよ。コチラが昨日話した佐倉ほのかさんだ。佐倉さん。コチラが先ほど話した妹のいのりだ"


 簡単に紹介するのであれば、大体こんな感じである。と、脳では分かっているが、いざ、行動に移すとなると、全く別である。


 紹介する為に、いのりを見る達也。


 値踏みする為に、ほのかを見るいのり。


 いのりから見られてる事を感じとり、目を瞑るほのか。


 ど、どうしよう…。と、行動は全く違うが、気持ちだけは同じの三人であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る