第16話 いのりとほのか…③
聞き間違えたか?と思った達也は、ほのかに質問をしようした。
「え…っと…」
が、質問をする前にほのかが動く。
「ほ、ほら、早くしなさい!!鍵が閉められないでしょ?」
まくしたてるような口調で、ほのかはそう告げた。
達也から断りの言葉を出させないように!という思いからである。
私なんかで良ければ…。
いや、いい…。
……!?
そ、そんな事にでもなったら、明日から学校に来れないから‼︎ 。゚(゚´Д`゚)゚。
ガチャッと部室の鍵を閉めながら、ほのかはそんな事を考えていた。
「佐倉…」
「……⁉︎は、はい‼︎」
両肩を震わせてしまうほのか。
しかし達也は、背後から急に声をかけられてしまったからだろうと、その事について特には気にしなかった。
「………」
「………」
おとずれる沈黙。無言の空気。
蘇るは、あの日の屋上。
達也を見ながら、口を開けなかった自分。
しかし、口を開かなかったからこそ、今があるのだと思うと、あの時、口を開けなかった事はもしかしたら正解だったのかもしれない。
だとすれば、私なんかで良ければと言ったのは、踏み込み過ぎてしまっただろうか?
け、けど、妹さんから紹介しろと言ってきているのだから、踏み込み過ぎではないハズ…だよね?
…にしても、何で、何で、何で何も言ってこないのよ?断りづらいから?ま、まずい⁉︎後ろが、後ろが見れないよ…。
ギュッと両目を瞑り、部室に顔を向けるほのか。
心臓の音がやけに大きく聞こえるのは、果たしてどちらの意味だったのか、ほのかには判らない事であった。
ーーーーーーーーーーーーーー
そんなほのかとは違い、達也は言葉を探していた。
達也からしてみればほのかからの申し出は、とてもありがたい話しである。
女友達を紹介しろと言われ、困っていた所でのこの一言。
あざぁーす! \(^o^)/ と、言うべきか?
助かった… 。゚(゚´ω`゚)゚。 と、言うべきか?
女友達がいた事がない達也は、女友達にお礼を告げる際にかける言葉が、判らなかったのである。
「……あ、ありがとう」
その為、ボソボソっと小さな声で、達也はお礼を告げた。
「……!?」
しかしそれは、耳元で囁かれた!?と、ほのかに勘違いさせるには充分な事であった。
目頭が熱くなるのを感じながら、バレちゃうから‼︎と、それをグッと堪えながら、ほのかはそそくさと職員室へと向かう。
「………」
聞こえなかったのだろうか?
もう一度きちんと、お礼を告げた方が良いだろうか?
早足で歩くほのかを追いかける達也は、そんな事を考えた。
ーーーーーーーーーーーーーー
季節は春よ!
色鮮やかな花びらが舞う、そんな季節。
嬉しい時もあれば、悲しい時もあるそんな季節。
え!?わ、私?
う〜ん…今年は嬉しい季節かしら。
だって、ようやく、よ〜うやく!ここまできたのよ?
後一年。後一年で、ようやくアイツと同じ学校に通えるのだから、嬉しい季節と表現するしかないの。
待ってなさい!
後一年で、私は…。
「コラ!君、君!」
って、何よ?
「誰を待っているのかは知らないがね、そんな格好で待っていてはいかん」
は?何を言ってるのかしら?
「その制服…ウチの中等部じゃないか?君、名前は?」
こ、このバーコード…マジで言ってるの?あ!そ、そうか!?
「すいません…サングラス何かしてたら、誰だか判らないですよね」
やれやれ、仕方ないわね。
スッとサングラスをハズし、バーコードに顔を拝ませてあげた。
いずれ通う事になるであろう母校の教師なのだから、歯向かう事など許されないの。
「………」
ジロジロと見られてしまう。
けど、仕方がない事なの。
このバーコードがロリコン野郎だからとかじゃなくて、だって、私は…。
「………名前は?と、私は聞いている」
へ?マジで言ってる?
笑っちゃうんですけど(笑)
し、仕方ないわね…。
「あ、あの…桐原です。桐原 いのり」
あの桐原いのりだ!と、二つの意味があると、バーコードは気づいたかしら?
気づいてくれれば、私がサングラスをしていた意味も判るハズなんだけど…。
「すまないが、もう少し大きな声で頼む」
いやいや。
大きな声で名乗ったら、周りに気付かれちゃうんですけど(笑)
いいのかしら?
正門前が大混雑になっちゃっても(なった事はない)
報道陣が押し掛けちゃう事になっても(来た事はない)
さて、どうしようかしらと、悩むいのりであったが、それは無用な事となる。
「ん?どうされましたか?」
と、第三者が加入して来たからであった。
「あ、あぁ…浅倉先生。いや、中等部の生徒が、サングラスなんぞをしてましてね」
な、何ですって!?と、内心驚くいのり。
いのりが驚きの声をあげたのは、バーコードの言い分が間違えていたからとかではなく、第三者である浅倉冬美を見たからである。
び、美人…。
中等部にも、浅倉冬美の名は轟いていたが、まさかここまでの美人だと、知らなかったかのだ。
バーコード、いや、体育教師の田中の話しを聞いた冬美は、正門前でサングラスをかけている中等部の生徒に、田中が注意をしていた所だと察した。
その中等部の生徒、いのりの顔を見る冬美。
目と目が合う。
…だ、大丈夫。アイツとの接点など無い…ハズ。
こんな美人の教師がだ。
まさか自分の兄を良く知る人物だと、想像するだろうか?
断じて否だ!
「やはりか。君は達也の妹じゃないのか?」
た、達也!?ですって!!!
しかし、いのりの願い?は、早くも打ち消されてしまう。
達也の担任であり、部活動の顧問であり、生活指導としても接点がある冬美。
なんなら、教師の中で一番接点が多い。
いのりは知らない事だが、馴れ馴れしく呼ぶその姿勢を見て、くっ!と、内心舌打ち気味になってしまう。
こ、こいつ…!?
勿論、いずれは通う事になるであろう教師に向かって、そんな態度などとれるハズがない。
「浅倉先生。彼女をご存知何ですか?」
「えぇ。ここに通う桐原達也の妹さんですよ」
田中の疑問を解消しようと冬美は説明するも、正門前、下校時刻、と、二つの事から誰かを待っていたという事は、誰の目から見ても明らかな為、田中の疑問は解消されなかった。
勿論、冬美もそれは分かっている。
その為、彼女は告け加えて説明した。
「田中先生。彼女は芸能人なんですよ。だから、彼女はサングラスをして顔を隠そうとしていた。そうではないかね?」
そう尋ねられ、顔を赤くしながらペコリと頭を下げるいのり。
全てを見透かされてしまった…という気持ちから、いのりは顔を赤く染めたのではない。
分かり易く説明するのであれば、一つのボケに対し、一から説明をされてしまった。みたいな感覚だ。
このタイミングで…ウケると思いまして…コレとコレが、かかってまして…みたいな事である。
「そうだったんですか…ははは。いやぁ…お恥ずかしい」
恥ずかしいのは私の方なんですけど!?
この女は敵だ!!
私が入学した暁には…必ず。
「ふむ。正門前で騒ぎになっても困るな…良し!職員室で待つといい。どれ。私が案内するとしようか」
ふ、冬美先生♡
騒ぎになっても困る。
この一言ですっかりご機嫌になるいのり。
いのりが職員室にいた経緯を説明するのであれば、この事があったからでる。
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