第15話 いのりとほのか…②

 相談部の部室にて、驚きの声をあげる達也を見て、ほのかは何事かと心配になった。


 達也の表情が青く見えるのは、決して気の所為ではないハズだ。


(達也君…大丈夫かな…)


 心配するほのかであったが、達也は電話中の為、声をかける事が出来ずにいた。


 電話中はお静かに!とは、一般的なマナーであり、マナーも分からない子なのか?と、達也から嫌われたくないからである。


 ほのかが心配しながら見守る中、達也は焦りながらも何とか口を開く。


「しょ、職員室って、な、何だ⁉︎何かやらかしたのか?」


「はあ!?」


「……ッ!?」


 いのりから急に大きな声をあげられてしまい、耳がキーーンとなってしまう。


 思わず携帯を、耳から遠ざけてしまうほどである。


「アンタ!私を何だと思ってんのよ!!」


 耳から遠ざけてしまったが、それでもいのりの声はきちんと達也の耳には届いた。


 それぐらいの声量で尋ねるいのりに対し、達也は迷う(考える)素ぶりすら見せず即答する。


「俺にとって大切な存在だと思ってる」


「………!?」


 ドキューン♡と音を鳴らしたのは、果たしていのりからか、ほのかからか。


(た、達也君が…わわわ私を…大切なって…なって…♡)


 いのりと達也がどんな会話をしているのかが判らないほのかであったが、抜群?得意?の妄想力でそれをカバーしていた。


 無論、カバー出来ていないのだが…。


 ほのかはこう考えたのだ。


 考えるのよ!ほのか!話しの流れ的に考えて、職員室にいる妹さん。


 達也君は私を帰らせる為に、電話を折り返していいか?と、妹さんに尋ねた…が、携帯を耳から遠ざける仕草からして、どうやらそれを断られたらしい。


 恐らく、こんな会話をしたのかもしれない。


「私が職員室にいるって言ってんのに、部長の心配?何?アンタにとって部長そいつは何なのよ」


「俺にとって大切な存在だと思ってる」


 パンパカパーン!と、ファンファーレを鳴らしたい気分である。


 いや、むしろ声を大にして叫びたい気分である。


 マ、マズイ…。口元が…。


 このままでは達也にバレてしまうと、ほのかは慌てて顔を下げた。


「………」


 背後でほのかがそんな事をしているなどとは思わない達也は、まだここで電話をしていても平気だろうか?佐倉に聞いた方がいいだろうか?と、チラリと背後を盗み見る。


(ひ、ひぃ!?怒ってらっしゃる!!)


 引き攣った頬。下を向きながらプルプル震えている佐倉部長。


 コレを見て、焦らずにはいられない達也。


 また、何故かいのりからの返事がないのも、焦ってしまった原因の一つである。


「と、とにかくだな、職員室に迎えに行けばいいんだな?」


 私は今、職員室にいますと妹から電話がかかってきたら、先生から呼び出しを受けてしまったと連想するのは普通の事である。


 つまり、保護者を呼べと先生から言われてしまったのだろうと、達也は解釈したのだった。


「……⁉︎そ、そうよ。アンタんとこの職員室だから五分で来なさい」


「は?ちょ、ちょっと待て。ウチの学校のって、切りやがった」


 ツー。ツー。と鳴る携帯電話を見ながら達也は、はぁ…と溜め息を吐いた。


 何故、ウチの学校の職員室なのか?と、思いながらとりあえずメールの確認でもと、ラインと呼ばれるアプリを開いたのが運のつきというヤツである。


 "約束通り紹介しなさい職員室にいるから"


 絵文字も顔文字もなく、区濁点すらないメールを見て、達也はしまった!?と、後悔する羽目になる。


 ラインと呼ばれるアプリ唯一の弱点と言っても良い。


 見てしまったら既読がついてしまうのだ。


 つまり、気づかなかった。ご、め〜ん。が使えないという事だ。


 紹介しなさい!って、何の話しだ?と、誤魔化す事も考えたが、その話しをしたのは昨日の夜の話しであり、忘れてたなどとは言えない話しである。


 また、忘れてたなどと言って、いのりがどんな態度をとってくるのかを想像するだけで、達也は恐ろしかった。


(よりにもよって、来るか?普通…)


 確かに紹介しろとは言われたが、まさかあのいのりがだ。わざわざ出向いてくるなどと、誰が予想するだろうか?しかも、昨日の今日でだ。


 大穴単勝!万馬券!!ヒャッホーイ!!!ぐらいの感じだろうか?


 いや、待て待て。現実逃避している場合ではないぞ、俺…。


 普通に考えれば「いや、紹介って言っても、もう帰ってるし」とか「急に言われても困るから」とか、その場を凌ぐ方法はいくらでもある。


「……た、達也君!!」


「は、はひぃ!!」


 しかし、いのりだけではなく、ほのかも怒らせてしまっていると思っていた達也は、そこまで頭が回らなかったのだった。


「そ、その…さ、さっきの電話の話しなんだけど…」


 しどろもどろのほのか。


 大切な存在って、私の事?などと、達也に聞けるハズもないからである。


 そんなほのかの態度を見て、達也は思った。


 携帯を離しても聞こえていたぐらいの声量だった為、ほのかにもいのりの声が聞こえていたのだろうと。


「お騒がせして、すいません…。急に妹が紹介しろとか言い出しまして…」


「…しょ、紹介!?」


 ま、まさか…私を紹介しろだなんて…そ、そんな…と、ほのかの体温が一気に上昇した。


 パ、パ、パ、パーン!と、先ほどのファンファーレの更に上のファンファーレが、ほのかの脳内をかけ巡る。


 むしろ、ゼクシィーーー!!!と、叫びだい気分である。


「職員室に来てるみたいなんで、ちょっと断ってから連れて帰ります」


 はぁ…。と、達也は溜め息を吐きながら、携帯をポケットにしまう。


 コレからいのりから説教やらを受けるのかと思うと、気分は最悪である。


 正直に嘘だったと、告白するしかない。と、達也が決心した、その時であった。


「へ?」


 ガシッと、右手首を掴まれたのだ。


 掴んだのは説明するまでもなく、いのりである。


「た、達也君!!」


 うつむきながらも、ほのかは勇気を振り絞って行動に移す。


「は、はい!?」


 そんな思いがあるとは気付かず、ほのかの後頭部を見ながら、達也は返事を返す。


 唇をギュッと噛み締め、いけ!いかなきゃ!相手の目をきちんと見て、頑張れ私!!と、ほのかは己を鼓舞し続けた。


「あ、あの……!?ひ、ひぃ⁉︎」


 ギロりと睨みつけるような視線を受ける達也。勿論、ほのかに睨んでいるという自覚はない。


 ヤバイ!?怒られる!!と、達也はビクビクしてしまうが、それは無駄な心配であった。


「わ、私…私なんかで良ければ…」


 顔を真っ赤に染めながら、ほのかは勇気を振り絞って告げる。


「…………はぃ?」


 そんな、ほのかからの提案を受け、き、聞き間違いだろうか?と、達也は別の意味でビクビクする羽目になってしまうのであった。

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