第14話 いのりとほのか…①

 相談部としての本日の活動は、ロープレと呼ばれるものであった。


 簡単に説明するのであれば、相談者役として相談に来た冬美に対し、達也とほのかが相談にのってあげるという活動である。


「こんなところ…かしら?」


 合宿で山に行くのだが、女子でも楽しめる遊びって何かありますか?という相談に対し、トランプだ!UNOだ!人生ゲームだと、散々話しあっていると、下校時刻を知らせるチャイムが鳴り響き、それを聞いてほのかが今回の相談に対してまとめ始めた。


「まぁ、いいんじゃないか?」


 勿論、達也に異論はない。


 女子でも、山で楽しめる遊びって何かありますかと言う相談に対し、自分達はきちんと相談にのれていたのではないだろうか?


 そもそも、男子でもと言われても難しいお題ではないだろうかと、達也は思っていた。


「ふむ」


 恋するウサギちゃんの相談については、こんなもんでしょうか?という達也とほのかのやり取りを聞いて、両腕を組んでいた冬美がジャッジを下す。


「初めての相談に対して、まぁ、いい成果だったんじゃないか?」


「…まあって」


「実際問題、私の悩みではないからな…何とも言えんさ」


 この悩みは恋するウサギちゃんの悩みであって、冬美の悩みではない。


 その為、こんなもんでしょうか?と問われても、悩みが解決した!とは言えないのである。


「しかし、自分達はあくまでも相談に乗ってあげる事であって、解決してあげる事ではないんだと、しかと胸に刻んでおきたまえよ。それとな、桐原」


「はい」


「あんな答えを書くんじゃない。バカ者が」


「あんなのって、コレの事っすか?」


 そう言って、達也はホワイトボードを前に掲げる。


「恋するウサギさん。結論から言っておきます…どうか諦めて下さい。女の子を楽しませるだなんて、無意味な事ですよ?何でもいいよ〜とか言っておきながら、は?それはないわ〜とか言ってくる、不思議な生き物なんですから」


 そのホワイトボードを見て、冬美は深いため息を吐いた。


「全世界の女性を敵に回す気か?君は」


 桐原達也は全世界の女性の敵となった…か。うん。なんだか、カッコいい気がするのは俺だけだろうか?


 いたわ!桐原達也よ!!追え!追えーー!!と、女性から追いかけ回される毎日…うむ。悪くないですねぇ。と、達也が考えている一方で、ほのかは違う事を考えていた。


 私を除く、全世界の女性が達也の敵となった…か。


 ほのか…俺にはお前だけなんだ。


 ……⁉︎こんな素晴らしい事はないわ‼︎と、妄想力だけなら、達也をも上回るほのか。


「おほん。来たる時に備え、日々精進したまえ」


 そんな二人を他所に、冬美は最後にそう言って、相談部の活動は幕を閉じるのであった。


 ーーーーーーーーーーーーーー


 冬美が部室を出て行った後、達也とほのかは帰り支度をしていた。


 さて、帰りにアレやコレやを買ってと、達也が脳内でシュミレーションをしていた時である。


 ブー。ブー。と、達也の携帯が着信を知らせてきたのであった。


 誰だ?などとは考えない達也。


 いのりか、サイトの案内からしか連絡がこない為、どうせサイトだろうと思いながら携帯を開く。


「………げ⁉︎」


 達也の予想は外れ、着信者はいのりであった。


「…どうしたの?」


「あ、いや、何でもない」


「何でもないにしては、凄い驚きようだったけど?」


「……あ、あぁ。妹からメールだよ」


 ほのかに変な誤解をされても困る。と、達也は驚いた理由を正直に話した。


「い、妹さん⁉︎」


 それを聞いて、逆に驚く羽目になるほのか。


(…た、達也君の妹さん。見てみたい)


 そう考えるも、紹介しあいさつさせてくれなどと言えるハズがない。


 いや、ここは部長という権限をフル活用して…とも考えたが、部長だから何だというのかと、考えがまとまらなかった。


「そんなに驚く事か?」


 達也から質問されてしまったのも、考えがまとまらなかった理由の一つである。


「え、えぇ…」


 マズイ。驚いた理由をでっちあげなくてはと、ほのかは考える。


「妹さんがいるって、聞いてなかったから」


 上手い!と、ほのかは自分で自分を褒めてやりたい気分であった。


 なんなら、見てみるか?いや、ほのかには、紹介しとくよ!まであり得ると、ほのかはドキドキしながら達也の返事を待つ。


「まぁ、そうか…」


「…………」


「…………」


「…………⁉︎」


 それだけ!?と、口にしてしまいそうになるほのか。


(く…私のバカ。せっかくのチャンスだったのに 。゚(゚´Д`゚)゚。 い、いや、待てよ?)


 コレは、逆にチャンスなのではないだろうか?と、ほのかは考える。


「ふ、ふ〜ん。その様子からだと、あまり仲が良くないのね」


「……反抗期ってヤツなんだろな」


「って事は、中学生なんだ?」


 一般的に見て、反抗期は中学生の頃が一番多い為、ほのかはそう考る。


 また、達也の家庭事情を知るチャンスだとも考えていた。


「あぁ。二つ下で、今は中学三年生だ」


「あっそ。大変なのね」


 あくまで自然体に。あくまで自然体で。と、ほのかは考えながら口にする。


 しかし、ふ〜ん。とか、あっそ。などと言われてしまっては、興味ないのかコイツ?と、達也が思ってしまうのは仕方がない事であった。


「佐倉は一人っ子なのか?」


「佐倉部長よ。達也君。部室を出るまでが部活動なのだから」


「……すまない」


 遠足か!と、心の中でツッコミながらも、達也は謝罪する。


 立場が上の人に対し、すまないと言う言葉遣いは適切ではないのだが、達也もほのかもそれには気づかなかった。


「私も妹が二人いるわ」


「三姉妹なのか?」


「え、えぇ、まぁ…」


 何気ない日常会話。


 世間話し程度の会話だと、普通の人ならそう思う事も、恋する乙女からすれば事件である。


 …喋ってる!喋ってるよワタシ!!


 平常心を装いながらも、内心ドキドキである。


 帰り支度を済ませ、鞄を持ちながら達也はほのかに尋た。


「ヨイショッと…仲良いのか?」


「世間一般的に見れば…良いのかしら」


 この返事を聞いて、仲が良いのだと解釈するべきかを悩む達也。


 しかし、聞き返す訳にはいかないだろう。


 家庭の事情ほど、踏み込み辛い話題はないのだから…。


 達也は考える。


 もしもいのりとの関係は?と聞かれた場合、自分は何と返すだろうか。


 世間一般的に見て、仲が悪いと言うべきなのだろうか?


 そもそも世間一般的にと良く言うが、誰と誰を比べているのだろうか。


 国民的人気アニメ、サザエさんだろうか?


 もしもそうだとするならば、兄妹とはカツオ君とワカメちゃんを比べているのだろうか?または、サザエさんとカツオ君なのだろうか?いや、クレヨンしんちゃんの可能性もあるが…って、しんちゃんは幼稚園児で、ひまわりは赤ちゃんなのだから、違うか。


 そんな事を達也が考えていると、再び携帯が着信を知らせてきた。


 何だ?と、思いながら達也は携帯を開く。


「……⁉︎わ、悪い佐倉部長」


「ど、どうしたの?」


「妹から電話なんだけど…そ、その、出てもいいか?」


「出てもいいですか?でしょ?達也君」


「出てもよろしいでしょうか?」


「……出なさいよ」


(……?何でムッとしてんだよ)


 言い方がマズかったのだろうか?と考える達也であったが、それどころではないと直ぐに考えるのをやめて、通話ボタンを押す。


「もしもし?俺だけど」


「は?分かってるし」


 いつも通りのいのりの態度を受け、ホッとする達也。


 いつもならばイラッとするが、今回は違う。


 いのりからの電話など、いつ以来だろうか。


「電話してくる何て、何かあったのか?」


 達也から電話をする事はあっても、逆はなかったのである。


「はあ?何かあったのかって、メールしたでしょ?」


「悪い。今部活中で、まだ見れてなかったんだ」


 正確には、ほのかと喋っていてが正しい。


(…た、達也君!? 私との会話は、部活の一環だとでも言いたいの!?)


 その為、ほのかの機嫌が悪くなる。


「……!?わ、悪い、後で掛け直してもいいか?」


 その事に気付いた達也が、慌てながら申し出るも、その事を知らない(知っていても変わらないだろう)いのりは不満の声をあげた。


「は?何でよ?」


「部活が終わって部室から出ないと、部長が帰れないからだよ」


 鍵の管理は部長であるほのかの役目であり、達也が出ないと鍵が閉められないのである。


 つまり、早く帰りたいんですけど?という理由から、ほのかは怒っているのだろうと、達也は解釈したのだ。


「ふ〜ん。私いま職員室だから、早く迎えに来て」


「は?職員…何だって?」


 まさかの展開に、達也は驚きの声をあげるのであった。

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