第13話 相談部活動記録 その壱…④

 再び叩かれる扉。


 今度は、顔を見合わせる事もなく(ほのかは達也を見たが、達也はほのかを見なかった)ほのかが声をかける。


「失礼するでおじゃる」


 どうやら、バジーナ設定は続いているらしい。


「むむ!ここに座ればいいでおじゃるか」


「ええ。どうぞ」


「では、失礼するでおじゃる」


 先ほど自分が座っていた椅子に座っていいかと訊ねる冬美・バジーナに対し、ほのかが声だけで許可を出す。


 ガタン。


 冬美・バジーナが席に着くタイミングを見計らって、達也は声をかけた。


 流石に、全てをほのかに任せる訳にもいかないだろうという気持ちからである。


「失礼ですが、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 達也はバイトをしている。


 コミュ障ではあるが、基本的な接客術ならバイトのおかげでマスターしている為、敬語での対応で冬美を迎える。


「これはこれは丁寧にかたじけないでおじゃる。拙者の名は、冬美・バジーナでおじゃる」


「そうですか。冬美・バジーナさんはハーフなんですか?」


 と、ほのかが斬り込んだ質問をする為、達也がそれを止めに入った。


「それ以上 聞くなって、どうしてかしら?」


「どうしても何も、中二病の人に頭大丈夫?みたいな質問をしたら、可哀想だろ?」


「あ、い、いや、拙者…中二病ではござらんが…」


「って、言ってるわよ?」


「自覚が無いタイプか…くっ、可哀想に」


「自覚が無いタイプって、自覚してる人もいるって事なのかしら?」


「ん?そりゃあいるだろ。家では中二病だが、一歩外に出れば違ったりな」


「あ、だ、だから、拙者は中二病ではなくてですな」


 冬美・バジーナが弁明するも、ほのかも達也もそれを無視し続けた。


「相談部の部長としては、中二病がどんな病気なのかをきちんと理解した上で、バジーナさんの相談に乗ってあげたいわね」


「……⁉︎ふふふ。どうやら、遂に俺の知識が役に立つ時がきたようだな」


 ほのかの疑問を受け、達也は不敵に笑った。


 それが、ほのかからしたらキュンキュンして堪らない。


 "俺の出番だな"と、すぐやられる雑魚キャラのような台詞も、好きな異性キャラが言うと、とても男らしく聞こえてしまう謎の現象。あるいは、CVによる声優マジックか。


 恐らくほのかにとっては、前者だろう。


 何気ない一言も達也が言うと、とてもカッコ良く開こえてしまう現象。


 人はそれを"恋"と呼ぶ。


「いいか?中二病ってのはだな、現実世界が全く違って見える病気みたいなものだ」


 得意気に語り出す達也。


「まぁ、を参考にするのが一番いいが、簡単に説明するならそんな感じだろうな。例えば、こういった図を書くとしよう」


 そう言いながら達也はホワイトボードに星を描き、その星を丸で囲む。


「さて、佐倉部長ならコレが何か解るか?」


「…何って、星でしょ?もしくは何処かの企業のマークとか?」


「そう!普通はそうなるが、中二病の人はコレを見て、コレは魔方陣か!と、なる訳だ」


「……なるほどね」


 達也の説明に対し、ほのかは納得したようだ。コレには、冬美も深く感心していた。


「流石でおじゃるな。きりりん氏」


「…待て。桐原きりはらからそうなったんだろうが、二度とそう呼ばないで下さい」


「何故でおじゃるか?」


 きりりん氏のファンに怒られちゃうからだよ!叩かないで!言い出したの俺じゃないけど謝ります。ごめんなさい!


「何故って、そりゃぁ…な?」


 さて、どう説明したものかと悩む達也だったのだが、別の事で悩む羽目になってしまう。


「分かったわ。つまり、バジーナさんには、眼科を紹介してあげればいいのね?」


「は?いや、何でだよ」


「変なものが見えてしまうのでしょ?」


「いやいや…話しを聞いてたか?」


「あぁ。そうだったわね。星が魔方陣に見えてしまうんだったわね…なら、脳外科の方かしら?」


「いや、どちらかというと、精神科だろうな…って、中二病は病気じゃねぇーからな」


 全く。


 相談に来た人に病院を紹介する何て、あり得ないだろうが…それにだ。


「この目的は、恋するウサギちゃんの相談にのってあげる事だろ?」


 色々と脱線してしまったが、最終目標はソレである。


「そうでおじゃるぞ‼︎流石はきりりん氏」


 いや、ややこしくしたの先生だからな!後、きりりん言うな!!


「そ、そうだったわね。私ったら…ごめんなさい」


 ぺこりと、頭を下げるほのか。


「ま、まぁ、次から気をつければいいんじゃないか?」


「……⁉︎え、えぇ」


 次から気をつけような…ほのか。と、達也に言われ(ほのか主観)顔を赤くするほのかは、た、達也君にバレちゃう⁉︎と、慌てて顔を逸らす。


 無論、達也と冬美は、ほのかが顔を赤くした事に気づいていたいたが、恥ずかしかったからなのだろうと、解釈した。


「とにかく、だな。相談内容は確か、合宿で、女子でも楽しめる遊びって何ですか?だったか」


「むむ。拙者は一言もそんな事は言ってないでござるぞ?」


 …面倒くせぇ。


「あの…先生?そろそろ真面目にやってくれませんかね?」


 対応力、以前の問題であると、達也は考えた。


 …これでは対応力ではなく、忍耐力になってしまうってばよ!


 などと考えながら注意する達也。


「…いやぁ、すまん。すまん。ちょっと調子に乗っちゃったかな。ちょっと」


「はぁ。まぁ、いいっすけど」


「では、改めて聞くぞ?合宿をする事になったのだが、女子でも楽しめる遊びって何かありますか?」


 冬美・バジーナ。いや、恋するウサギちゃんからの相談を受け、迷う事なく即答する二人。


 達也もほのかも、ホワイトボードに書いていたのだから、当然であった。


 ほのかの回答である「何処に行かれるのかが判らない事には答えようがないですよ?」という回答を受け、冬美が更に付け加えた質問をする。


「何処に…か。山かな」


 これにより、先ほどの ほのかの回答は無効となり、新たな回答を求められるのは明白であった。


 具体的には、山で合宿をする事になったのだが、女子でも盛り上がる遊びって何かありますか?という質問に変わったという事だ。


「山に合宿って、運動部系の部活なのかしら?」


「いや、山岳部とかもあり得るぞ…って、山岳部は運動部系の部活か」


 可能性としては、コレらのどれかだろう。


 そんな、達也とほのかのやり取りを聞いていた恋するウサギちゃん役の冬美は、何部かを設定する。


「アニメ研究会だ」


「………え?」


 聞き間違いだろうか?と、達也が再度 質問するが、返ってくる答えは同じであった。


「…達也君。アニメ研究会って何をする部なのかしら?」


「そりゃあ…アニメを研究するんだろ?」


「山で?」


「……あの?本当にアニメ研究会なんっすか?」


「ん?相談に来た私がだ。嘘を吐くハズがないではないか」


「そもそも女子の部員って、いるんですか?」


「いや、いるだろう。アニメは世界に誇る日本の文化なんだぜ?」


 大体、いないのであれば、相談なんてしないハズである。


「…どうしましょうか?」


 アニメ研究会に所属している"恋するウサギちゃん"からの相談に、ほのかは頭を抱えてしまう事になった。


 山で合宿をするが、女子が盛り上がる遊びって、何かありますか?という質問。


 そもそもアニメを研究する部なのであれば、何をしに、山に合宿に行くというのだろうか?


 ほのかは考える。


 ここは部長として、先輩として、何とかいい答えを見つけ出し、達也にいいところを見せなくては!と考えるも、妙案は思い浮かばなかった。


「良し。とりあえず、部室で、部員全員でヤマ○ススメを全て見直してから合宿に行って下さい」


「達也君…ヤマ○ススメって?」


「ん?あ、あぁ…アニメだよ。アニメ。コレを見ると、山サイコー!登りてぇー!って、なるから」


 キュン♡


 達也このひとは、何でも知ってるのかしら?と、頼りになる達也を見てほのかは思った。


 それを確認する勇気がほのかにはなかったのだが、さて、達也に聞いたら何と答えただろうか?


 きっと、何の迷いも無く達也は告げるだろう。


 知ってる事だけ。と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る