第11話 相談部活動記録 その壱…②

 おほん。と、浅倉冬美は咳を吐き、勧誘しなくていい理由を話し始めた。


 それに対し(咳を吐いた事)達也とほのかは、自然と姿勢を正す。


「さて、新入生を歓迎するという気持ちや行動はとても良い事だ。しかし、残念ながら誰もが相談部に入部できるわけではない」


 つまり、新入生の募集をしないで欲しいと言う意味だと、二人は理解する。


 そんな二人を見て、浅倉冬美は右手人差し指をたてながら続ける。


「考えてもみたまえ。君たちが入部した時、先輩はいたかね?」


「言われてみれば…確かにそうですね」


「俺は入部したくてしたんじゃないんですけどね…⁉︎い、いえ!?何でもないっす」


 二人から睨まれてしまった…怖い、怖い。


「あぁ、おほん。とにかくだ。この部は私が作った部であり、部を作った目的を君達は充分 理解しているな?」


 始業式の事を思い出す二人。


「相談に誰も来ないんですけど(笑)必要ありますか?と、桐原 辺りなら愚痴りそうだがな」


 おっしゃる通りです。と、達也は思った。


「君たちは一年生。ならば、来ないのは仕方がない事だ。何故なら、二年生や三年生が一年生に悩みを相談する何て事は、ないに等しい事だろ?」


「…なるほど」


 冬美の話しを聞いて、ほのかは納得する。


 つまり、新入生を入部させたところで、新入生は相談にのれないのだからいらないという意味なのだと。


 …これで、脅威になるであろう邪魔者は勝手に排除された。やったね!!ほのか♡


 一方、達也は、なら何で俺達を毎回ここに来させたんだよ。と、思った。


 …時は金なりという言葉を是非、理解していただきたいもんだね。


 そんな達也の考えを読んでいたかのように、冬美は理由を説明する。


「君達の部活に対する姿勢は充分見させてもらった。礼を言うよ」


 誰も相談には来ないが、それでも達也とほのかはきちんと部活に来ていた。


 いわいるテスト的なヤツだったのだろう。


「つまり、今年は違うって事っすか?」


「その通りだよ桐原!いいか?進路で悩む先輩の相談にのったり、先輩に対してどう接したらいいのかという後輩からの相談がくるハズだ。また、君たちにくるような相談を、君たちの学年の子らがされて君たちに相談にきたりとな」


 これから忙しくなるぞ〜みたいに、言われても…と、二人は思った。


「あの…その話しですと、三年生は相談に来られますでしょうか?」


「来るさ」


 進路に悩む三年生が、二年生である自分達に相談する事などあるだろかと言うほのかの質問に対し、冬美は迷う素ぶりすら見せず答えた。


「ほのか。君の将来の夢は何だね?」


「……夢ですか?」


 それは勿論、好きな人のお嫁さんです。などと、言えるハズがない。


「おい、おい。君は、何を思ってこの高校を選んだんだ。たくさんある高校の中で、この高校を選んだ理由があるハズだぞ?」


 二人のやり取りを聞きながら、達也は考える。


 冬美は恐らく、こう言いたいのだろう。公立、市立(私立)と、たくさん高校は存在していて、今では、通信制や定時制なども当たり前のように存在している。そんな中で、この高校を選んだ理由というものが、必ず存在しているハズなのだと。


 中学3年生になって、初めて自分で自分の人生について考える事になる。考え、この高校に行きたい!と、両親を説得する事になるのだ。


「私は、保育士になりたいと思ってます」


「ふむ。保育士か。なら、この高校を選んだのも納得だな」


 ほのかとは少しの付き合いではあるが、それなりに一緒にいる事が多い。


 そんなほのかの夢を、初めて知る達也。


 正直、意外であった。


 本ばかり読んでいて、無口で人付き合いの苦手な女の子。それが、達也がほのかに抱く印象である。


 無論、ほのかが聞けば、そんな事はない!と、否定する話しだ。


 好きな人の前だからこそ、素の自分という者をさらけ出せないだけなのだ。と。


「桐原。君はどうだ?」


 達也がほのかの夢に驚いていると、当然ともいえる質問がきた。


 勿論、自分にも同じ質問がくるだろうと予想していた達也は、慌てる素ぶりすらみせず、用意していた答えを答える。


「家が近いからです」


「どあほう。とでも言って欲しいのかね、君は…全く」


「あ、いえ、誰もスラムダンクの話しはしてないっすよ?」


 …何でこの流れで俺が、流川(スラムダンクのキャラクター)の真似をしていると思うんだよ……全く。どあほうめ。


「まぁ、夢なんて物は人それぞれさ。今はまだそれでいい。三年生にもなれば、嫌というほど味わう事になる話しだからな」


「なんか、重たい話しっすね」


 将来が不安でしかないぜ。


「ん?その逆だぞ」


「いや、どうみても暗い話しっすよ」


「ふむ。やってみせた方がいいか。ほのか、プチボードとペンだ」


「はい。一つでいいですか?」


「君達の分も頼む」


 冬美が指示したプチボードとは、ホワイトボードの小さいボードの事である。


「はい。達也君」


「あぁ。サンキュ」


 ほのかから手渡されたホワイトボードとペンを受け取る達也。勿論、手が触れるなどというラブコメ展開にはならない。


「さて、これから君達には、ある事を体験してもらうとしよう」


「ある事…ですか?」


「なぁに。やれば分かるさ。では、これより相談部の活動について説明する。ペンを持ちたまえ」


 冬美に言われるがままに、ペンを握る二人。


「さて、と。お!早速いいのがあったな」


 携帯をポチポチしている事から、携帯が必要なのだろう。


「あぁ。すまない。直接ここに来づらい生徒の為にだな、PC部に作らせた"お悩み解決サイト"を私は今 見ている」


「作らせた?」


「ん?おかしかったか?」


「あ、いぇ…」


 色々とおかしいよ冬美ちゃん!!と、達也は思ったが、ここに来て相談されるよりかはサイトに投稿してほしいと思ったのと、PC部に知り合いもいない為、ま、いっか。と、思ったのである。


「では、早速!え〜っと、何々…。ペンネーム、恋するウサギちゃん。からの投稿だ」


「…曲の事かしら?」


「いや…あれは、ラジオネームだから」


「名曲だな…って、聞きたまえ。いいか、読むぞ?え〜この度 合宿をする事になったのですが、女子も盛り上がるような遊びって何ですか?という相談だな」


「…それは相談なのでしょうか?」


「うむ。質問ともとれなくはないが、これを投稿した人が悩んでいるのであれば、それは相談と言える事なのだよ」


「そんなんで悩むなよ…」


 大体、女子と一緒に合宿だなんて、何てうらや…けしからん!健全第一!!R-18だぉ!


「ほぉ。そんなんでと言ったな?良し!では、どうしたらいいかをボードに書きたまえ」


 冬美の発言を聞き、なるほど。と、達也は納得した。


 つまり、バラエティー番組などで良く見るアレだ。


 自分達は解答者であり、ボードに書いて発表する。みたいなアレだ。と。


 ほのかは理解しているのか?と、気になった達也は、チラッとほのかを盗み見る。


 ……おい、おい、マジなのか?目が怖いんですけど。


 そんな事を達也が思う中、部室内はしばらく無言が続き、各々がボードに記入していく。

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