第10話 相談部活動記録 その壱…①

 さて、と。


 授業が終わり、帰り仕度をする達也。


「桐原君」


「ん?あ、あぁ。行くか」


 帰り仕度が済んだタイミングで、後ろの席であるほのか から声をかけられた達也は、部活の為にと席を立った。


 ほのかと一緒に部室へ向かうという事は、特におかしな話しでもないだろうと、達也は思っている。


 同じ部活をしていてクラスが同じでと、別々に部室に向かう理由がないのだから。


 教室を出て、部室へ向かう二人。


「…………」


 終始無言であった為、何か喋った方がいいか?と、思う達也であったが、話題…と、悩む羽目になる。


「聞いてよ〜。今日数学の授業でさ」


「えー。マジ〜。ヤバすぎじゃない」


 ……この娘は超能力者か何かなのだろうか?まだ、何も言ってませんよね?


 達也とほのかの前を歩く女生徒の中身がない話しを聞いて、そんな事を思う達也。


 …まぁ、でも、基本だわな。


 会話をするうえで間違いなくトップ10に入るであろう話題。ここは便乗するか?と、考えた達也は、チラリと横を向く。


 ……う、うつむいてらっしゃる。


 そんな事を考えている達也の隣を歩くほのかは、うつむいていた。


 …そ、そりゃぁ、つまらないよな。


 無言で歩くだけなのだから、笑顔で歩いている方がおかしい。その為、ほのかのとっている行動はおかしくはないと、達也は考える。


 ほのかはつまらなくて、うつむいているのだと。


 無論、ほのかがうつむいてるのは、達也と一緒にいるのがつまらないわけではない。つまらないからうつむいてるわけではなく、顔をあげられずにいる理由があるからである。


 …あ、歩いてる!歩いてるよ!ほのか!!


 達也の隣を歩く自分。


 周りからは、どんな目で見られているだろうか?自分はどんな顔をしているだろうか?いや、関係ない。


 好きな人たつやと歩く事の出来る夢のようなひと時。


 こ、このまま着かなければいいのに…♡。


 恋する乙女ほのか。着いたら着いたで、達也と一緒に部活をするのだから、達也と離れるわけではない為、着いても問題はないのだが、ほのかにとっては問題なのであった。


 何故なら部室に一歩でも入ると、達也との関係がガラリと変わる事になるからでる。


 ーーーーーーーーーー


 部室に着き、鍵を開けて先に入るほのか。


 部室に入り、扉を閉める達也。


 レディーファーストとかではなく、部室の鍵の管理は部長の仕事であり、ほのかが部長だからである。


「達也君」


「…あ、あぁ」


 鞄を置き、椅子に座ったところで声をかけられる達也。


 …ホント、毎回、毎回、すげぇな。


 人が変わったかのようなほのかに対し、そんな事を思う達也。


 …まるでアレだな。付き合っている彼女が会社の上司で、職場と自宅では全然違う…みたいな感じだ。


 ちょっとエッチな本で見た気が…あ、い、いや、聞いた話しだ!聞いた話し。


「…聞いてる?」


「あ、あぁ。悪い。もう一度頼む」


「はぁ。貴方の耳はお飾りなのかしら?」


 部長としての振る舞いを!と、ほのかは考えている為、部活の時は口調がキツくなってしまうのである。


「いい?後輩が欲しいと言う事だけれど」


「待て。別に欲しいとは言ってないぞ」


「……⁉︎そ、そう」


 え!違うの⁉︎と、ほのかは思った。


 ま、まずい…口元が…。


 緩みかけた口元を見せない為にと、ほのかはうつむく。


「…!?あ、い、いや、いれば…嬉しいかなぁ…ははは」


 そんなほのかの態度に、達也はドキドキしていた。


 怒られるかもしれないというドキドキ。いや、ビクビクといってもいいかもしれない。


 喋っている途中に、急にうつむかれたら、げ⁉︎と、達也が思ってしまうのも、無理もない話しである。


「……!?そ、そう」


 先ほどと同じ返しをするほのか。二回目の方がより怖い。達也は更にドキドキしてしまう。


「……⁉︎」


 スッと顔をあげるほのかを見て、達也に衝撃が走った。



 怒ってりゅ〜〜(;゚Д゚)


 ギロりと聞こえそうな目を見て、部室から逃げ出したい気分になる達也であった。


 ーーーーーーーーーーーー


 数分後。


「…さて、後輩が欲しいくせに要らないみたいな態度をとる達也くん」


「…どんな自己紹介だよ」


「新入生を募集しようと思うだけれど、ポスター以外で何かあるかしら?」


「ポスター以外ね…」


 一緒に部活しませんか?という定番のポスターを思い浮かべ、達也は考える。


「やっぱり、呼びかけとかじゃないか?」


 部活勧誘で一番多いのはポスターであり、次に多いのは呼びかけだろうと、達也は考えた。


 ま、定番中の定番だが、何も意見しないよりはいいだろうな。意見しないとコイツ使えねーとか思われちゃうもんね。


「…達也くん」


「お、おぅ」


「貴方、コミュ障じゃない」


「……お前もな」


 コミュ障とは、人とコミュニケーション(会話)をとるのが苦手な人の事だ。


「さて、コミュ障なのに呼びかけをしようなどと言ってくる達也くん」


「…お、おぅ」


「ポスター以外の事は明日話すとして、ポスターの中身について話しましょうか」


「中身っていったってな、部活しませんか?とかだろ?」


 部員募集!とか、その部にあった絵を描いたりとか、部活勧誘のポスターとはこんな感じである。


 達也の話しを聞いて、首を左右に振るほのか。


「…んだよ」


「部活勧誘のポスターなんだから、部員募集!と書くのは当たり前でしょ?」


「ぐ…な、なら、何の話しをすんだよ」


「中身だと言ったでしょ?相談部。部員募集…それ以外で何かないかしら?」


 普通であれば、その部に関する絵を描くところなのだが、相談部に関する絵って何だ?と

 達也とほのかは思った。


「そもそも、部員募集!以外でいるのか?」


「あら?貴方が新入部員が欲しいと言っていたはずだけど。そんなので、集まるかしら」


 真面目に考えないと後悔するわよ?と、ほのかに注意される達也。


「いや、そりゃな。いれば便利……じゃなくて、活気がつくかと」


「はぁ…。動機が不純すぎるでしょ」


 軽く注意をするほのか。


 普通であれば部長として、後輩をパシリにする気かと注意するところなのだが、恋する乙女にそんな考えはない。


 ほのかの内心は、良かった♡と、ドキドキである。


 ニヤケなかった自分を褒めてやりたいと、ほのかが考えたその時であった。


 ガラガラ。


「お!やってるな」


 部室の扉を開けながら、顧問である浅倉冬美がやってきたのである。


「先生。どうされたのですか?」


「あぁ。ちょっと遊びにな」


「遊びって…働いて下さいよ」


「さてと。何をしていたのかね?」


 達也の嫌味をスルーしながら、浅倉冬美は自分の席(ほのかと正反対の椅子)に座ると、何をしていたのかを聞いてきた。


 二人の会話が外に漏れていたからとかではなく、いつも二人の手元にあるはずの、愛読書がないのを見たからである。


「はい。達也君が先輩と呼ばれたいと言う事でしたので、部長として何とかしてあげようかと思いまして」


「待て待て待て。あってはいるがだな」


 その言い方だと、私は関係ない。部長として頑張ってます。みたいに聞こえてしまうんですけど。


「何かしら?間違えていないでしょ?」


「ま、まぁ…そうだが。それじゃぁ、お前は欲しくないのかよ」


「……別にいらないわよ」


 ほのかはそんな事を言いながら、プイっと顔を背ける。


 え?どうして欲しくないのかですって?


 そ、それは、貴方と二人っきりが良いから…なんて、はぁ…そう言えたらなぁ。と、落ち込むほのか。


 恋する乙女なら、誰しもがそうなってしまうだろう。しかし、達也からしてみれば、その態度が怒っているように見えてしまう。


 別にいらないわよと言いながら、プイッと顔を背け、顔を背けたかと思ったら、急にため息を吐くほのかの姿。


 この姿を見て、もしかして自分に気があるのか?など、誰が思うだろうか。


 ほのかを怒らせてしまった。謝った方が良いだろうか?と、考える達也だったが、それは不要となる。


「なるほどな。ポスターは考えなくていいぞ」


「考えなくていいって、先生が作ってくれるって事ですか?」


「桐原。私を誰だと思っている」


「教室でスベった人…ひ、ひぃ!?す、すいません」


 冬美が作る右手の握り拳を見て、恐怖する達也。


 そんな達也を見た冬美は、ため息を吐きながら、その理由を二人に告げた。

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