第4話 桐原達也は〇〇部である
翌日。
最後の授業は自習であった。
自習!と書かれた黒板を見ながら、達也はボ〜っとしながら過ごしていた。
自習なんて家でも出来るのだから、何なら帰らせてくれないですかね?ま、今日は部活だから、あれ何ですけど…。さて、自習というわけだし、保健体育である睡眠でもしましょうかね…。
「あぁ…おぉ、おほん。おほん」
「………」
はい。はい。分かってますとも。保健体育で睡眠は習いませんよね。なら、自由課題で睡眠について調べてますではどうだろか…いや、弱いか…。
なら、夢を見るのは何故なのか?という、壮大なテーマならどうだろうか?
億万長者を夢みて宝クジを買う。億万長者を夢みて株に投資。億万長者を夢みてラノベ作家を目指す……うむ。皆んなお金大好き、フリスキー!って、ラノベ作家を目指すのは、お金の為ではないか。
「………」
おっと⁉︎いかん。いかん。
コチラを見てやがる。
また、呼び出しをくらってはたまったもんではない。一応、ポーズだけでもとっておくか。
教科書と大学ノートを広げ、シャーペンを握る達也。
昨日は呼び出しの所為で、あの手紙は謎のままになってしまった。
呼び出しが無ければ、出会えていたかもしれないとなると、後悔しか残らない。
夜にじっくり考えようと思ったものの、昨日は結局いのりの件でそれどころではなくなってしまった。
いのりには悪い事をしてしまったな…と、達也は昨日の事を思い出していた。
ーーーーーーーーーー
昨日の夜の事だ。
コン。コン。と、いのりの部屋を数回ノックする達也。
「…いのり?悪かった。ご飯が出来たから、一緒に食べよう。な?」
呼びかけるも、いのりから返事はなかった。
いのりは妹であり達也は兄だ。だからといって、部屋を開けるような、そんな事などしない。
中学三年生の女の子であるとかに関わらず、勝手に部屋を開けたりするのはいけない事だからだ。
親しき仲にも礼儀ありなのである。
「…さっきのは、俺が全面的に悪い。謝るからさ、一緒にご飯を食べようぜ」
と、声をかけるも、やはりいのりから返事はない。
「…いのりが出てくるまで、食べずに待ってるからさ、早く出て来いよ」
達也はそう言って、リビングへと戻って行く。
自分が本当に悪いと思っていた達也は、無視された事など特に気にしていなかった。
リビングに戻った達也は台所に向かい、いのりが出てくるまでの間に、料理で使用した鍋を洗ったりして待っていた。
10分が過ぎ、20分が過ぎ、それでも達也は料理に手をつけない。
遅い…な。
寝てしまったのだろうか?もう一度、呼びに行った方がいいだろうか?
達也がそんな事を考えていた時である。
ガチャッとリビングの扉が開き、いのりが姿を現したのだ。
制服姿ではなくパジャマ姿のいのりは、口をへの字に曲げながら、いつもの場所に、ドカッ!と、座る。
「フ、フン。先に食べてれば良かったのに」
「食べる時は一緒に…だろ?」
いのりの登場に、ホッと胸を撫で下ろしながら、達也はシチューを温めなおすべく、シチューのお皿を素早く手に取って、電子レンジへと移動した。
「パンか?ご飯か?」
電子レンジのタイマーをセットしながら、達也はいのりに質問をする。
「……パン」
「あいよ」
食パンとクロワッサンを袋からお皿に移し、冷蔵庫からサラダの入ったボウルを手に取り、達也はそれらをテーブルに乗せていく。
手慣れた手つきで料理を並べながら、チラリといのりを見た達也は、いのりの目が赤くなっている事に気付いていたが、その事にふれたりはしなかった。
「さっきは…その、悪かったな。ほら、食べようぜ」
返事が返ってくる事はないと分かっている達也は、捲し立てるかのように早口で告げる。
その後は会話も特になく、桐原家の一日はこうして終わりを迎えるのであった。
ーーーーーーーーーーーー
空は今日も青かった…か。
椅子に座り、空を見上げる達也。
空は青く、流れる雲は白い。
何も変わらない日常。
何も変わらない景色。
それは悪い事ではないと、達也は考えている。
しかし、このままではダメだと言う浅倉冬美の言葉が、達也の心の中の何かに引っかかっていた。
「……はぁ」
他人からの評価が気になってしまうのは、人間の悲しい
一体、何がダメなのだろうか。
勉強が出来ないとダメだと周りが言うから、皆んなは勉強をしているだけに過ぎない。
夢に向かって頑張っている若者など、この世界にどれだけいることか。
周りに流されない大人(人間)というものを大人達は望むが、それは無理だって話しだ。
何故なら社会の縮図とは、そういったもので出来ているのだから…。
そもそも、それを理解しているのは大人達だ。
ならば、大人達がそれを望むのは間違っているのではないだろうか?
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていない!絶対に、絶対にな!
ふー、さて…と。
そっとポケットから手紙を取り出し、その手紙を広げながら、空に向けていた視線を手元に戻す達也。
屋上で待ってます…か。
さて、この手紙によって、自分の中の何かが変わるだろうか?
手紙を書いた人物に会ったら、何かが変わっていたのだろうか?
いや、答えなど初めから分かっている。
手紙をそっとポケットに仕舞い、達也は壁時計に目を向けた。
それが合図だったかのように、授業の終わりのチャイムが校内に鳴り響き、今日はここまで!と言う先生の声がクラスに響き渡る。
やれやれ…。
結局、手紙の事について達也は、何も考えられずにいた。
ーーーーーーーーーーーーーー
放課後のホームルームが終わり、これから達也は部活である。
「桐原君」
と、後ろの席に座る佐倉から声をかけられる達也。
「悪い。ちょっとだけ遅れるわ」
今日は部活だよ?と言いたかったのか、一緒に部室まで行こうよ!と言いたかったのか。
どれかは分からないが、どれにでも対応できる返事を返す達也。
無論、急遽部活が休みならここで、今日は休みだから。と返事が返ってくるハズであり、分かった。と言う佐倉の返事から、部活はあると理解する達也。
また後でな。と言う達也の呼び掛けを、佐倉は ええ。とだけ返すのであった。
ーーーーーーーーーーーー
達也の用事は下駄箱にある。
昨日の手紙の件を考えれば、コレは普通の行動ではないだろうか。
正直に言うと、期待はしていた。
年頃の男子高校生に限らず、男子とはこういう生き物なのだ。
バレンタインの日に、いや、そんなの興味ねーから。と、カッコつけておきながら、自分の机の引き出しの一番奥の方まで手を突っ込んでチョコを探すような、そんな生き物である。
なんなら、いつもより早く学校に登校したり、いつもより遅く下校したり、チョコを渡せやすいよう一人で行動をしたりと、いつでもチョコを渡せる状況を作ってあげる、優しい紳士な生き物でもあるのだ。
こういう時こそ、ぼっちである俺の独壇場と、言いたいところなのだが、残念ながら貰えた事はない。
ヤメろヤメろ。バレンタインの日の事なんか考えるな!手紙の件についてだっただろ?
バレンタインなんて無くなればいいのに…と、悪態ついたところで、手紙について考える達也。
下駄箱に手紙が入っていない可能性の方が、充分考えられると達也は考えていた。
というのも、仮に昨日屋上で達也を待っていたのだとしたら、達也が来ない=望み薄。そう考え、向こうが諦めてしまうパターンがあるからだ。
イタズラの線が消えたわけでもないし、もしかしたら下駄箱を間違えてしまった事に気付いたケースもある。
とらドラ!じゃあるまいし…って、そもそもとらドラ!は、そんな話しではないっと…やはり無いか。
下駄箱を開けるも、手紙は入っていなかった。
…忘れるか?いや。
当分、忘れられない案件。
浅倉冬美を恨む説濃厚と言った方がいいだろうか。
入学式を真面目に受けなかった自分の所為だとは、一ミリも思わない達也であった。
ーーーーーーーーーーーー
下駄箱を後にした達也は、部室へと向かって歩いていた。
チラチラと、左斜め上を見ながら歩く達也。
見上げる方向には、色々な部のプレートがぶら下げられている。
勇者部とか隣人部とか…。
奉仕部とか勝部とか…。
そんな部室は勿論 存在しない。
オカルト研とか漫研とか、そういった文化系倶楽部の近くにあるのが、我が部室。
目的のドアの前に立ち、チラリと左斜め上を見上げる達也。
相談部。
こう書かれたプレートを見ながら、相変わらずのネーミングセンスだな…と、ため息を吐いてしまった。
「うぃーっす」
ノックを数回し、入室の許可が出たところで、ガラガラ。と、ドアを開けた達也は、挨拶をしながら部室へと入って行く。
中に入ると、目の前には細長いテーブルがあって、右には黒板に教卓があり、左には下駄箱と使われていない椅子が置いてある。
「…………」
そんな部室の壁際の席に座る人物、佐倉ほのかがコチラをチラリと見てきたので、よ!っと、右手を挙げて挨拶をする達也。
「達也君…」
扉を閉め、いつもの位置に座る達也。
佐倉と正反対の位置ではなく、若干のスペースを空けて(というより、元々空けてある)自分の定位置である椅子を引く達也。丁度、黒板の真ん中、教卓の前の位置である。
呼ばれた達也は座りながら、何だ?と、声をかけた。
「挨拶って、ご存知かしら?」
「は?馬鹿にしてんのか?」
「いいえ。してませんけど(失笑)」
「…いや、してるだろ」
「あら、ごめんなさい。挨拶もロクに出来ないのだから、達也君が理解出来ないのも仕方がないわね」
「……何で謝るんだよ」
「そうね。期待した事に対してかしら」
「……一応、何を言ってるのか聞かせてもらおうか」
「挨拶をしなさいと、私は言っているのだけれど?」
なるほど。挨拶って何か?という意味ではなく、挨拶をしなさい。と、注意をしてきた。というわけだ。
「いや、だから、しただろ?うぃーす、よ!って」
「貴方は、社会人の経験があるのでしょ?まさか店長や先輩にも、そんな挨拶をするのかしら?」
「…しないけど。いや、それは店長や先輩だからであってだな、お前には」
「お前?」
「あ、いや、佐倉部長にそんな事は…」
「あら?店長や先輩にはきちんと挨拶が出来て、部長である私には出来ないと?」
「おはようございます!佐倉部長」
ペコりとではなく、バッ!と、頭を下げる達也。それに満足したのか、佐倉部長は両手を組みながら、声をかけてきた。
「まぁ、いいわ。ところで達也君…」
やれやれ。面倒くさい。
念の為に説明しておくと、ここは相談部であり部長は佐倉ほのかである。
部活をする上で大切なのは、上下関係である。いや、何も部活だけに限らずだが…。
部活の中で一番偉いのは言うまでもなく部長であり、次に偉いのが副部長だろう。部員でしかない桐原達也と、部長である佐倉ほのかでは、このような関係になっているのであった。
クラスの中では、ただの同級生として接し、部活中は、先輩(部長)と後輩(部員)という関係…。
何て面倒くさい!そもそも部活の上下関係や、店長や先輩で例えるのであれば、プライベートや教室内とかでも敬語だからな!と、達也は思うも、部長命令では従うしかないのである。
いつの時代も上司には逆らえないのだ。
全く。言いたい事も言えないこんな世の中じゃ…ん?
そんな事を考えていた達也であったが、コポコポという音を耳にした為、チラリと視線を音のする方へと向けると、紅茶の入った紙コップを、佐倉がスッと差し出してきたのであった。
「…あ、ありがとうございます」
ちなみに紙コップの中の紅茶の量は、少しでも紙コップを揺らしたら、紙コップから紅茶が溢れてしまいそうな、それぐらいの量であった。
きちんとお礼を伝え、熱いよー。ひぃぃー!と、思いながら、何とか紅茶入りの紙コップを自分の前まで持ってくる達也。
佐倉が飲み物なんて珍しいな…と、考えながら佐倉に顔を向けると、どうぞ。と、クッキーらしき物まで差し出してくるではないか。
「……あ、ありがとう、ございます」
やはり嫌がらせなのだろうか?
クッキーらしき物体(ちょっと焦げていて変な形をしている)を眺めながら、達也はそんな事を考えていた。
チラリと佐倉を盗み見ると、白い肌をほんのりと赤く頬を染めている事に気付いてしまう。
ま、これだけ焦げていればそうなるわな…。
「………だったから」
「………!?」
マ、マジかよ…。ボソボソっと呟かれる佐倉の言葉を聞いて、達也に衝撃が走った。
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